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エンジェリカの王女 エピソード集  作者: 四季
エンジェリカの二人 —ジェシカ&ノア編—
1/13

1話

のんびりした話を書きたくて書いてみました。

3話で完結予定です。

1話


 桃色のジェシカと薄紫のノア。

 天界の王国エンジェリカに暮らす貧しい天使二人組が、アンナ王女に出会うずっと前のお話。


 ◆


「ノア! 行くよっ!」

「待ってー。ジェシカ速いー」

「もう待てないっ! 食料持ったから飛ぶよっ!」

「あー。置いていかないでー」


 あたしとノアは、幼い頃に出会ってからずっと一緒に暮らしてきた。朝昼の活動も盗みも、夜寝るのだって、全部二人で一緒にする。

 あたしたちに男女の垣根なんてない。


 食事はいつも店から盗んだパンや果物をちょっとだけ。手に入れた分を二人で半分ずつ食べる。成果によっては、丸一日まともな食事をしない日もあった。

 お風呂屋へ行くお金はもちろんないので入浴は主に川で行った。入浴と言っても、軽く体を洗うくらいのものだが。

 夜は毎日森で野宿する。冬場は、町のゴミ捨て場で拾ったボロボロの毛布に二人でくるまり、寒さを凌いだ。たまにマッチを盗み、火を起こして温もったりもした。


 子ども二人でまともな生活ができるはずもなく——あたしとノアはもうずっと貧しい生活をしている。


「いやーっ、今日は食べ物いっぱい食べられるねっ! やったね、ノア」


 今日はパンとリンゴを二つずつも手に入れられた。ここ数日あまり良い成果が上がっていなかったので、こんなご馳走は久々だ。

 実はあたしが本当に好きな果物はモモなんだけど、エンジェリカではモモは高価なので滅多に食べられない。そもそも果物全般が高価だ。だからリンゴでも十分嬉しい。


「ジェシカが嬉しいと僕も嬉しいよー。リンゴはジェシカにあげるからねー」

「え、いいの?」

「うん。家族だからねー」


 薄紫の髪と羽を持つノアは、まだ赤子のうちに親に売られ、「天使屋」という店で売り物にされていたらしい。

 そんな不幸な身の上でありながら、ノアはとてもまったりした性格だ。いつも穏やかにニコニコしているし、口調も動きものんびりしている。


 そんな彼は「家族」というものに憧れている。


 あたしも小さな頃に母親に捨てられるという経験をし今に至っているわけなのだが、ノアの場合は親の顔を一度も見たことがない。そういう意味では、あたしよりノアの方がずっと不幸なのかもしれないと思う。

 もっとも、彼の呑気な言動はそんなことを一切感じさせないが。


「そういえばさ、天使屋にいた頃のアンタはどんな生活をしてたの?」


 皮つきのままのリンゴを直接かじりながらノアに尋ねる。


「うーん。普通の生活だよー」

「普通って言ってもよく分かんないじゃん。もっと具体的に説明してよ!」

「具体的ってー?」

「朝起きて何して何して……、夜は何して寝る、みたいな! つまり、もっと詳しい説明をしてってこと!」


 特に何の味付けもされていないパサパサで固いパンをかじっているノアは、とても幸せそうな顔をしている。一人でパンを丸ごと一個食べられるのは久々だからだろうか。


「えーと。まず朝五時半に起きて掃除をしてたかなー」

「おぉっ、早起き!」


 それからあたしは、ノアから天使屋での暮らしについて話を聞いた。


 毎日朝五時半に起きて店の掃除を一時間半。つまり七時まで。その間に与えられた掃除を終えられなかった場合は罰として朝食抜き。

 十分間の朝食を終えると、それからは作業。物作りの日もあれば、土木作業や農作業の日もあったらしい。しっかり働かない場合はやはり罰があり、昼食抜きや鞭打ちが主だったとか。それにしても、鞭打ちなんて想像できないな。

 午後はお待ちかね、天使販売の時間。労働力を欲している者がエンジェリカ中から集まり、大規模なオークションが開かれる。


「僕は役立たずだから、ずっと売れなかったなー」


 ノアはニコニコ笑って言う。

 その口は、まだ一口めをモグモグしている。恐るべき食事の遅さだ。

 そんな風にまったりと食事をしながら、ノアの昔について話していると。


「いたぞ! 紫だ!」

「商品番号2101、発見しました! 捕獲します!」

「ふっ、手加減しねぇぜ」


 突如、そんな声が聞こえた。驚いて周囲を見回すと、三人の天使の姿が見えた。既に囲まれているというまずい状況だ。


 ——紫、2101。


 それはノアを示す言葉である。紫は髪と羽の色、2101はノアが売り物だった時の番号。


 男性二人、女性が一人。ノアのことを知っているということは、恐らく天使屋の関係者だろう。ノアを取り返しに来たのかな。


「もしかしてお迎えかなー? 嫌だなー……」

「アンタは下がってて。大丈夫、こいつらはあたしが片付けるから」

「で、でもジェシカー……」

「戦いなら任せてよっ。アンタはそこにいたらいいから」


 片手を開き、その手のひらに意識を集中させる。桃色をした霧のような聖気が手に集まり、やがて一振りの剣へと変化する。

 あたしがその剣を構えると、天使屋の関係者と思われる三人はそれぞれ武器を取り出す。


「紫を連れに来た! 渡してもらおう!」

「商品番号2101を渡していただきます!」

「ふっ、手加減しねぇぜ」


 でも、あたしからすればこんな天使たちは敵じゃない。


「ふん! 三人まとめてかかってきなよ。あたしが相手してやるからさ!」


 一度天使屋から脱走したノアがここで連れ帰られたら、どんな酷い目に遭うことか。きっとまた、ご飯抜きだとか鞭打ちだとかされるに違いない。たいして賢くないあたしにでも、そのくらいは簡単に想像がつく。


 だからノアは絶対に渡せない——!

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