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ブレイズ non fiction perfect File№6 脆く、朽ちる。それが希望。それが夢。 

この回はいよいよ、ミステリーやファンタジー遭難・ゴタゴタに憑きもの。


死人が出ます。

森の南 12:15


月宮 夢観(―)  安堂 総司(30)



響 愛美と少女を追い掛ける途中に安堂 総司と出会った夢観は、直後に聞こえた悲鳴を頼りに森の奥に進む。暗い暗い太陽の光も通さない森の奥。人の生活感も無い森に本来有り得ない物。誰も想像できないものがあった。

「なにこれ…?なんで森の中にこんな場所があるの!?」

「分からん。材質はこの森の木のようだが、あの煙突はレンガだろうな」

「ドアノブも鉄か何かみたいですね……探偵さん、これってわたしたちが考えてる以外のものだってことはありませんか?」

「………推理のしようがないな。ホームズでも金田一でもひとまずは同じ回答だろう。

俺達の目の前にあるのは、木製の家と家。これは……『村』だろう」

材質をほぼ同じくした小屋があちらこちらに建てられているこの場所は、周囲を柵で囲んで外敵に備える意志も見える。近くには小川が流れており、暗い森を僅かに照らす小さな街灯用の電球が付けられている。

「………もしお嬢ちゃんの友達がこの村の住民にさらわれていたとすれば、この村を探す必要がある。

もし、お嬢ちゃんの友達がこの村の住民にさらわれていないとすれば、手掛かりがない以上、この広い森を地図もコンパスも無く探しまわるのは無謀だ。

どの道、時間に余裕が無い以上、俺達はこのいかにもな村を避けては通れない。」

「そうですね。それに、誰かが住んでいるのは間違いないでしょうし」

「何故そう思う?」

「電球が付いています。ずっと付けっ放しじゃいつか切れちゃいますよね。

だから誰かが代えていなければ切れていることになります。あとは、なんとなく誰かがいる気がするんです。人の気配を感じます」

総司は夢観の理論と感覚を混ぜた推理に満足したように笑うと内ポケットから無線機を取りだした。

「お前が『魔術師』なのか『超能力者』なのかは知らないが、俺の相棒よりずっと頼りになりそうだ。

二手に分かれて探そう。『俺の時代』の無線機だ。範囲は…この村一つくらいなら問題ないだろう」

無線機を受け取った夢観は、少し不思議そうな顔で総司を見つめる。

「探偵さんは、子どものわたしを信用してくれるんですね?」

「俺はお前さんより年下の10歳のころには一人前として扱われていたからな。

神秘とも暴力とも戦い続けてきた。だからお前さんの実力が高いことくらいは分かる。

頭の方も年相応以上には切れる。仲間として協力するには十分だ。武器は必要か?」

「ううん。自分のがあるから」

「分かった。俺は村の奥の方から探す。何かあったら通信機を使うんだ」

「りょーかいなのです!」

「じゃあ後でな」

「はい!」

こうして夢観は入り口から、総司は奥から2人を探すことにした。





??? 12:17


美月みづき 流星るせ(10)


少女は逃げていた。自分を追い掛ける者の恐怖からはもちろんのこと、現実と向き合う恐怖からも。

今が無限に続いていればいい。辛くも無い痛くも無い、現在だけを永遠に続けていたい。

辛い未来なら要らない。そんな風に願う少女は、この森に来る前から逃げていた。

自分より優秀な姉と比較する両親からも、勉強しなくては未来は無いと言ってくる教師からも。耳をふさいで目を瞑って逃げていた。

「何でいっつもこんなにいやな思いするカナ……?辛い思いをしなくちゃ生きられないの……?幸せだけじゃダメなのカナ……?」

最初はいやいや行っていた学校もイジメが原因で不登校になり、ずっと部屋の中から出てこずじまいだった流星は家族とも話をすることは無くなり、今では対人恐怖症ぎみだ。だがそんな流星を両親は何もせずに放っておいた。家庭の環境が通常とは異なる美月家は、姉の方が才覚を見せ始めていたために両親からは不要とされている。そのため流星は罰を受けることのない代わりに愛情もそそがれぬ子として生きた。

幸福を知らない為に少女が願うのは『これ以上辛いことが起きない人生』だ。

「もういやだ……走りたくない。誰か助けて……誰かわたしを護ってよぉ……………」

膝を折って乱れた呼吸を整えながら目からは涙が溢れ出る。

人の愛情を知らないながらに愛情を求める。城に閉じ込められた姫のように…白馬の王子様を待ちわびる。

……あるいは、無償の庇護をくれる両親、兄のような人を。

しかしそんな少女の前に現れたのは生きる気力、夢を奪う、あらがいようのない現実。

自分に危害を加えるエクセプションだった。


「シカク……ヲ………ウバ…エ……」

「ワレラ…二……人…ノ……シカク…ヲ」


「ひっ……!?誰か……助けて…だれかああああぁぁぁーー!!」


助けを求める少女の悲鳴が聞こえる者はどこにもいない。

数分後、少女のいた場所からは人影はなく、無残に散るイキモノの肉片と血の痕だけが残っていた……。




ブレイズ ~non fiction perfect~ ファイル№6 脆く崩れ去る希望の夢



森の南 12:20


響 愛美 (11)


逃げる少女を追って走った。それ以前からずっと歩き続けていた少女の体力は限界を超えていた。

「………すー…すー」

泥だらけになりながら意識を手放し、今は眠り身体を休める。彼女の見ている夢の中には家族が一緒にいる。

家の中で食事を取りながら、その日一日あったことを両親と話している。

恐怖も苦痛も無い夢の中の愛美は幸福に満ちていた。しかしそれでも愛美はすぐに目を覚ます。

「ん……ふあ…っ…うっそ…眠っちゃったの………どのくらい寝てたんだろう……?」

逃げた少女を完全に見失った愛美は自分がどこにいるのかも知らない。

眠っていた方が幸せだった。

「………いい夢だったなあ…お父さんもお母さんもいた…お家の中でご飯を食べて、笑って……危機感ないなあ、わたし……」

しかしその夢の中には、一人の少年がいない。

目を覚ましたままの体勢でズボンのポケットからケータイを取り出す。電線の一つも無い森の中で電波は圏外。本来の用向きを果たせない機械は一つのデータを取り出す。それは少女が翔護と二人で撮ったたった一枚の写真だ。中学に上がった学ラン姿の翔護と中学の校門前にて。思春期特有の照れくささから写真を撮ることを嫌がる翔護をなんとか説得して撮ったたった一枚の写真だ。

「……ねえ翔護…一人じゃないよね。一緒に帰るんだ。中学校でいじめられてたって、こんなところにいるより100倍マシだって翔護だってわかるよね。こんなところで死んじゃったりしたくないよね。翔護……わたし絶対お前を見付けて帰るから。まってろよ、翔護」


夢は人に力を与える。それが実現できる将来のヴィジョンであっても、自分で実現できない幻想であっても。

自己防衛のために眠りに就いた少女は、家に帰る夢に力をもらって立ち上がる。

しかし、愛美は勘違いをしている。

鳴海 翔護は学校でいじめられていて、抵抗することも出来ないくらい弱いのだという勘違い。自分が強くあって、彼を護らなくてはならないのだと。その勘違いこそが一人ぼっちの今の愛美の心を支えている。

冷静さと体力を取り戻した愛美は、ようやく自分がどこにいるのかを調べ始めた。


「なんだここ……家の中じゃないか!?さっきまで森の中にいたのにどうして?」


どうやら愛美は少女を追いかけて知らぬ間に押入れに入り込んで眠っていたらしい。

「そうだ!家なら人がいるはずじゃないか。助けてもらえないかな?」

民家があったことを知って期待に胸を膨らませると、慎重にふすまを開けてみた。

だがその外の光景は愛美が予想したものとは違うものだった。

広く運動に適したスペースと、バスケットのゴール。そして校長先生が長話をするステージ。

学校の体育館の光景だ。

本来なら休み時間に生徒がバスケットボールやドッジボールを楽しんだり体育の授業を受けている場所だ。

しかしそこにいるのは学校の生徒や教師ではなく、理性を失くした元人間達だけだった。

「ひっ…!!」

「アアアアア………!!!」

愛美がうっかり上げてしまった声にそのうちの一体が気付き、その他のエクセプションも一斉にそちらを向く。

「い……いやああああああーー!!!」

「ウバエ……!シカクヲ……ヨコ…セ!!」

力の無い少女には戦う術が無い。捕まれば成すすべなく殺される。

自分を追う者の目には明らかな殺意が見える。真っ赤に充血した目で自分の一点を狙う追跡者たちから逃げまどう中、愛美は自分が追い掛けていた少女を思い出した。

(こんなところにいたら殺されちゃう。逃げなくちゃ。あの子も一緒に…!!それに夢観ちゃんも)

「と、とにかくこいつらから逃げきらなくちゃ!何か使えるモノ持って無かったっけ!?」

ここにきてようやく自分の持ち物に意識が行った愛美は、自分のコートのポケットに入っているあるものを思い出した。

「携帯電話以外にたしか翔護の忘れ物があったんだっけ!」

ここの森に来る以前、山で翔護が来るのを待っていた愛美は、その前に中学校に翔護の様子を見に行っていた。

そこで初めて翔護がいじめられていることを翔護の下駄箱の中の外履きの大量の画鋲を見付けて知ることになった。その後に翔護の教室に行くもすれ違いになってしまい、その時に忘れ物があったことに気が付いた。

「………何で机の中に『鞭』が入ってたんだろう……」

翔護が危ない趣味を持っているのではないか大いに心配になりながら、長さと硬さを確認するとエクセプション目がけて一気に腕を振り抜いた。

ヒュバン!!

空気抵抗を超えて音速で振るわれた鞭が小気味良い音を立てながら敵一体の足に巻きついて躓かせた。

「グオ!?」

一人に巻き込まれる形で全員が倒れ伏す。その隙を逃さずに愛美は一気に廊下を走りぬけて行った。先には生徒玄関が見えている。

「良し、このまままっすぐ行けば出られるけど、あの子がいるかもしれないからね。まずは放送室を探そう。

校内全体に放送すれば建物の中にいれば連絡出来るよね。後は……運任せだ!!」

逃げ出したい気持ちを抑えつけて更に先にある階段を駆け上がっていく。

「あ」

しかし上の階に登り切る前に唐突に足を止める。

「………さっきのやつ、体育館にいる奴で全部ってことは無いんじゃないカナ……?」

途端に血の気が引いて行く音がする。

「………どうしよう。先に誰か連れて来た方がいいんじゃないカナ……?あ、いやいや、でもそんなことしてる間にあの子一人ぼっちなわけだし、わたしが行かなきゃ誰が行くのサ…?」

冷静になってむしろ今まで以上に動転し若干言動までおかしくなる愛美。

「………うん。やっぱ、せめて武器くらいさがしてこよう……鞭だけじゃちょっと頼りないし。」

少女を助ける正義感 < わが身を守る生存本能

武装を探しに来た道を戻るのであった。






森の西 12:21


ジェニファー・ホームズ (24)


深い深い森の中。日の光が差し込まないその場所は、夜のように暗い。

しかし、ジェニファーのいるこの場所は何故か真夏のように熱く、梅雨のように蒸している。

「ああ、なんという蒸し暑さだ。まったく、裸にでもなりたい気分だな」

すでにジェニファーは上着を脱ぎ捨ててノースリーブだけになっている。そのため彼女の豊満な胸部はこれでもかというほどに主張されており、汗によって濡れた肌は男性の性的欲求を強く求めさせる姿になっている。

「だが、しかしこれ自体は面白いな……神秘を探求する家系でありながら魔道の系統からは最底辺の扱いを受けるホームズ家。

その次期当主になる私が、神を名乗る者に召喚され、神の力を得る儀式に参加させられているなどと。

他の歴史が長いばかりの古参家が喉から手が出るほどほしいであろう神の力だ。

『神の威光』がどのようなものなのかは分からないが、古参家では及びもつかぬような力を得られたなら、やつらを上から見下してやれる。ざまあ見ろ!」

英国の『魔術』の家系の生まれである。凡才であり修練で実を結ばせし『魔術師』(ウィザード)。

ジェニファー・ホームズは生まれたときから魔術を学んできた『魔術師』だが、その才能は他の魔術の家系には遠く及ばない。そのために通常の『魔術師』の何倍の努力を重ねてきた。

もっとも、現代において魔術師の家系は数えるほどにしかない。忘れられかけた力だ。

それを忘れないように古くから魔術を伝承してきた家系も、最盛期の力からは大きく劣化している。

その中で上を目指すというのは、一種の『井の中の蛙』だ。

「キミの相棒という男も、神の力が目当てなのだろう?しかしあれはわたしが頂く」

「好きにすれヴぁ……オレ魔術興味ない、危ないのもごめんだ」

「ハハハハ。松田さん。本当に死にそうな顔をしていますよ?」

「うるせえよ自称アイドルが……」

「ハハハハ。僕は本当にアイドルなんですよ?」

暗いくらいウジ虫のような顔でジメジメとガンを飛ばす松田とさわやかな笑顔で受け止める速水。

二人が森中を駆け回って出会ったのがこの肉感的な女性だ。戦闘能力がない二人にエクセプションが襲ってきたところを魔術で迎撃したジェシーに男のプライドを捨てて我が身を守ってもらおうとする松田と、大したことが出来ないなりに何か恩返しができないかと恩義でついてきた速水はそれぞれの思惑を持ちながら自分たちが置かれた状況を解説してもらっていた途中だった。

「そんなわけで説明は以上だ。何か質問はあるか?」

「はいジェシーさん。最初から話をまとめさせてください。まず僕たちがいるこの場所は日本どころかそもそも地球ですらない」

「そうだ。この森は神を名乗る者が創造した庭だ。

この場を創造した者が本当に人間が呼称する『神』なのかはともかく、事実この大地を創っている以上は相当な力があることは間違いないだろうな」

速水はその言葉に納得し、次の確認に移る。

「正直その話を聞いた時はまだあなたの話に信憑性を感じていませんでしたが、瑣末なことですね、次の質問の内容に比べれば」

「もったいぶるな。早くしろ」

「では……松田さん、少し失礼します」

「うわ!なんでオレの胸に手当ててんだ!?お前そっちの気まであるのか!!」

速水 レオが触れた松田の部位は胸部。強いては人体急所の心臓。人間が最も簡易に生命活動の有無を確認出来る場所。心臓の鼓動を聞くことで人は自らや他人の生命を確認出来る。

もちろん松田の心臓の鼓動を速水 レオは掌で触れて感じ取っている。

しかし速水の発言は、その事実と真っ向から異なった。

「……我々が『既に死んでいる』というのは、どういうことなのでしょう?」

自らの発言に顔を青ざめる速水をよそに、ジェシー・ホームズは冷酷に事実を突き付けた。

「だから言ったはずだ。この私も含め、この森には誰一人として『生命反応』が無い。

私の索敵魔術に一切の反応が無かったことを神とやらに問い詰めたらあっさり言ってのけたんだ――」


『この森の契約者リンカーは、己の人生の終了と同時に、その魂を我がものとする契約を結んでいる。

即ち、死せぬ者の魂を召喚することは契約違反として一切おこなっていない』


「我々は…もう……逃げられない。この森に召喚された者は皆、もう死んでいるんだからな……」


自分の口で言った言葉に怯えながら、ジェシー・ホームズは空を睨んだ。


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死人が出る(最初から生きているヤツが死人になるとは言ってない。)

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