ブレイズ non fiction perfect File№5 独力と他力本願と協力
神は言った。森に召喚された者達は選定されし者であると。彼らは現世あるいは生前に神と契約を交わし何らかの報酬を与えられた契約者。リンカーであると。
契約に従い召喚されたリンカーは皆異なる時代に異なる報酬を受け取りながら、契約の内容は等しく『神の威光』を継承すること。
もしこの契約を果たすことが出来ぬ時は魂を持って償うこと。仏教で言うところの輪廻転生の環から外され、そのまま消滅すること。
しかし、大半のリンカーはその記憶を受け継いでおらず、何故自分達がこの森に喚ばれたのかすら知らぬのが通常なのだと、神は語った。
更に、森に居る者の中にはリンカーではない飛び入りの人間もいるのだという。彼らは何らかの方法で選定され、場合によっては『選定者』として儀式に参加することが可能であるらしいが、大半は選定の杯からふるい落とされる。そして選ばれなかった者を神はエクセプション(除外された者)と呼称する。除外された者達がどうなるのかは、後の楽しみだと言って、語ることをしなかった。
この記録を書き記している途中に唄が聴こえてきた。あれは森全体に響いていたのか、それとも俺の心に響いたのかが定かではない。少なくとも俺にはあれが心優しい第三者からの警告の意志であるように感じた。
この儀式。神すらも把握していない何かが、動いているのかもしれない。
12月27日のAM11:49にこの記録を記す。西暦はここでは意味を成さないが、俺自身がいつの生まれであるのかをはっきりさせるために一度だけ記しておく。
西暦1969生誕。
俺の名は 安堂 総司。職業は、探偵。
以上の文章は安堂 総司の手帳より本人の筆跡で、とある少女の持ち物として発見された記録である。
ブレイズ ~non fiction perfect~ ファイル№5 独力と他力本願と協力
森の東 青葉 風音(11)
12月27日 11:54
「そうか…そうだった。俺はこのバカげた儀式に自分から足を踏み入れたんだった……」
神により儀式の開始が宣言され、幻想の庭園より森に送還された風音は、ここに来るまでの記憶を思い出していた。歩みを進め森の大地を踏みしめる音が、彼の悲しみを語るように鳴る。
≪青葉 風音。汝はあまりにも力が強すぎた。全てのリンカーを確認したが、契約を思い出したのは汝ただ一人である≫
「フン、どうせなら一生知らぬままであった方が……いや、俺に限っていつまでもそんな間抜けでいられるハズが無いか。どのみち俺はここに辿りつく定めだ。貴様の創った運命のレールに乗せられてな」
≪思えば、汝との付き合いも永いになったな、読心王よ≫
風音が立ち止まると風が吹く。それまで彼の顔を隠していた帽子が耐えきれずに吹き飛ばされる。
「我が生涯に、後悔の無い瞬間は無い。『青葉 風音』として転生した現代も、貴様がいた『神代の時代』に生きていた『読心王』としてもだ」
俯きながら語る風音の声は、後悔と挫折と自責の念に満ちている。
≪終わらせるつもりか?汝の輪廻の廻りを≫
風に遊ばれ木の葉が舞う。その中に俯いて立ちつくす風音。帽子が飛ばされ、隠れていた青い髪も揺れる。
木の葉や風とともに舞うように揺れる。揺れる。揺れる。やがて彼と木の葉と風の境界線が曖昧になったころ、再び風音は口を開く。
「ああ。終わらせてやる」
≪そうか。ならば……――!?≫
バン!!
神が言い終わる前に、風音と境界線が曖昧になっていた風と木の葉が吹き飛んだ。
「ただし神よ、我は風と共に在る。風と生きて民と生きた王として、神よ。貴様からアレを取り戻して道連れにしてやる!!」
姿の見えない神に対峙しているかのように顔を上げた風音の髪の毛は、深い青色から、白銀に変わっていた。
≪読心王――!!?≫
「覚悟しろ神よ。貴様に俺の仲間を好きにはさせない。あいつらを巻き込んだ時に、俺は貴様を潰すと決めたんだ」
風音の怒りに呼応するように大気が震える。総ての風の支配権を彼が握る。総ての風は、彼にひれ伏す。そして彼の意志に従って大地を走った。
ズバッ!!
「グオオオオオオ!!!?」
「ガアアアアアア!!?」
彼の周囲にいた人影は、鋭利な刃と化した烈風に襲われ地を舐める。
「『風』の支配権。
生物の真実を読み取る『読心』の呪い。
--共に貴様が俺に与えた『超能力』だ。魔力を消費する『魔術』と違い、俺に魔力切れは無い」
≪どうやら逃げるわけではないようだな読心王よ。あれだけ使用を拒み、鳴海 翔護がリンカーになっても使うことは無かった『風』を使ってくるとは。我は歓喜の気持ちを抑えきれぬ≫
「覚悟しろ神。俺の望みは『貴様を殺すこと』だ!!」
≪ああ、来るが良い読心王!父の仇を取り、滅ぼした民のへの贖罪を果たせ≫
森の北 11:56
鳴海 翔護(12) 鷺ノ宮 絹羽(18) 刈野 真(32)
「……さてどーすっかなあ。夜の山に入るから懐中電灯と予備電池はあっけど、いつまでいるかも分からない森の中で食糧が無いのはキツイ。しかしうかつに動けばいつ誰が襲ってくるもんか分かんねえ。
……中には銃持ってるのが最低二人だもんなあ」
鳴海 翔護は悩んでいた。
彼の当座の目的は生き残ること。そのためには安全の確保と食料の獲得が必須だ。
「しかもまだ愛美も見つかってねえ……あーやること多すぎて嫌になってきた。
昼寝してる間に妖精が全部やっといてくれねえかな……はあ…」
「どどど、どうするんだい少年!?このままボーっとしていて大丈夫なのか?
あの危ない蛇柄の男も銃を持っていた。その彼にあれだけ挑発していたキミだ。当然何か勝算があったんだろうね?ここでぼーっとしていたらあの男は最初に我々を狙ってくるぞ!!」
「だーったらオッサン一人でどこへでも逃げろよーオレは元々やる気のねえことはやりたくねーんだよ。
やりたいことしか出来ない今時のガキなんだぜーあんた大人なら自分の身くらい自分で守れよ」
「いやだ!!僕は絶対キミ達から離れないからな!!こんな前も見えない暗い森の中で1人なんて死んでしまうじゃ無いか!!」
子どものように駄々をこねる大人をとてもイタい目でみる大人より働く子ども。
いい加減どこかで本当に捨てようかと考えていると、年齢も性格も子どもと大人の中間の少女が提案する。
「あの、翔護さんのお連れの方を先に探した方が良いのではないでしょうか?
わたくしも一人でいた時はとても心細かったのです。きっとその方もそうなのではないでしょうか?」
「いや、一応そっちは俺の仲間が面倒見ててくれてるから無理せずに動いてもダイジョーブですよ」
この時は鳴海 翔護は知らなかった。
響 愛美と青葉 風音が既にバラバラに行動しているということを。
敵の位置をある程度把握出来る風音は、ほぼ自由に森中を探すことが出来るが、自分が一人で移動することが出来ない今風音に託す方が安全だと判断したのだ。
その判断が、一生のキズになるとも知らずに。
「とはいえ、せめて敵が何人いるのかくらい知りてーなあ…」
≪ならば『重憧』を使用するがいい。鳴海 翔護よ≫
「「――!?」」
「……なあ神さんよお」
≪どうした?≫
「そんな気軽に話しかけてっと神様としての『神格』落ちるんじゃね?」
≪な……!!?≫
「だって人間て視えねーからこそ敬って神格化するもんじゃね?話が出来てちゃダメだろーよ」
≪――っ…汝の『重憧』を儀式用に調律しておいた!森の中のどこに人物がいるか分かるようにしておいたから好きに使え!!!あとステータス表をパラメータルールに則って付属しておいた!!フン!!≫
「……神が拗ねるとことか初めて見たわ…なんかショック」
「翔護さん、よろしいのですか?神様にあんな無礼なことを仰っては…」
「いや、ダイジョーブでしょ。なんだかんだでちゃんと役に立つ情報くれたし。
神さんは強制的に俺らを連れて来て、強引に戦わせようとしてるっぽいっスけど…意味も無く殺すならわざわざこんなとこ連れて来んでしょうし……」
「じょ、上司に逆らえば目を付けられてどんな嫌がらせを受けるか分からんぞ!!そんなことも分からんのか少年!?」
「いや、むしろボーナスくれたじゃんよ。こーいうバトルロイヤルのゲームはマップとキャラ表示はあった方が有利だし。スペックも分かるにこしたことねーし。さて、早速オッサンのステでも見とこか?」
「なに?ステ??」
刈野が話について行けていないのを無視して翔護は『重憧』を使う準備をする。
グニュ!!
「ひいいいいいぃぃぃーー!!???」
「ど、どうしたのですか!?」
「あー姉ちゃんは見ねー方がいいっスよ。グロいっスから」
唐突に右手を左目に添えた翔護は、あろうことかそのまま左目の眼球をえぐり出したのだ。
中身の眼球を失い栓が外れた目は瞬く間血潮をこぼし、翔護の顔半分を赤く染めた。
「いててて…………ふうっ。さて『重憧・開眼』!!」
右目に義眼を持ったままの状態の翔護の左目に紅く充血し瞳が二つある眼球が現れた。
「き、キミその目は…!!」
「ん。俺二年前に怪我で左目無くしちまったから義眼はめてんの。魔力さえ通してやれば本物の目も出てくるけど無駄に魔力消費し過ぎると疲れるからな。っと、これがオッサンのステか」
刈野 真
身長172㎝ 体重59kg
(なかなか悪くないんじゃないか?ちょっとひよってやがるけどいざ戦いになれば使えるレベルの――)
筋力E(最低値) 瞬発D 耐久E(最低値) 頭脳D 精神E(最低値) 幸運E(最低値) 魔力E(最低値) 固有スキル 無し
最低値で埋めつくされたステータス表が現れ愕然とする。通知表で言えば1であり留年モノの評価だ。
「………おっさん、いや雑兵」
「誰が雑兵だね!?」
翔護の『重憧』には刈野 真という男のステータスがはっきりと雑魚であると告げた。
「お前だよこの役立たず!」
「急にどうしたのだよ少年。あんまり罵倒ばかりしてくると私は泣くぞ!?」
「黙れ吠えるだけの駄犬!!ステータスの標準値(C)に届くもんが一つも無い!おまけにこのニートばりの弱腰……雑兵と呼ぶのも失礼だ。口だけでも雑兵なりに最強名乗ってたほうが100倍マシじゃねえか。このゴミがッ!!」
「わ、私は会社を辞めても上司に怒られなければならないのか……!?」
翔護は人生のトラウマに打ちひしがれる真を全力でシカトすると今度は絹羽の方を向いた。
「さて、姉さんの方は……いや、戦ってもらうわけじゃないからいいか」
翔護はめんどくさがりの割に古風な考えを持っている。男は女を護る者。
「戦う時は駄犬を盾にすればいいよな。うん」
「な、何を言うのだね!?護っておくれよこの非力な私を!!」
「……まあ、あんたがこの状況から生き残れたら考えてやるよ」
「へ???」
「どうやら神様のごきげんを損ねると本当に嫌がらせされるらしいぜ」
三人を取り囲むのは天を覆い尽くすほどに大きく成長した樹木。そして日光を隔絶して生まれた色彩の判別が出来ないほど暗い闇。そして、神によって送られた刺客達の気配。
「こ、この方達は一体…?」
「………さあね。白衣にメガネを見ると研究者って感じもするがね」
「「ヴヴ……ッ!!!」」
飢えた獣のような目をして三人を囲む、同じ服装をした人間達。
その様子に人の理性や知性は感じさせない。
「こいつらが俺達に向けてくる殺意はちっぽけなもん。おそらく本物の雑兵だろうな……」
刈野 真を見たのと同じように『重憧』を使う翔護。
エクセプション――除外されし者×4
総合ステータスE
筋力D 瞬発E 耐久E 頭脳E 精神― 幸運E 魔力D
「ん?こいつら人間じゃないのか……神の用意した敵の駒か?いや、そもそもこの儀式は『神の威光』とかいうのを見付けるものなんじゃないのか。何でここまで用意周到にゲームっぽくなってんだ??」
「ヨコせ………!!!」
「ひっ!?なんなんだねこれは!!次から次へと~」
「「シカクおwヨコせえええEEええーー!!!!」」
「うわあああああああああーーー!!!!」
4体のエクセプションが身にまとった白衣を揺らしながら三人に襲いかかる。
外観が人間そのものであるエクセプション。これらは皆人間と同じパラメータルールでランク付けされている。
つまり三人は大人4人に襲われているのに匹敵するピンチを迎えている。
スペック上互角であるはずの刈野は怯えて逃げまどい、女性の絹羽は恐怖で身を凍らせている。
「シカク……キサマらガモツシカクをヨコせエエええええ!!!」
「きゃああああーー!!」
逃げまどう刈野より動かない絹羽に一斉に狙いを定めると四方から襲いかかるエクセプション。
「「ヨコせええエエエええ!!!!」」
恐怖で凍る絹羽には抵抗する術が無い。組伏せられるとそのまま四方から魔の手が伸びる。
何故か翔護に襲いかかる者はただの一体もいなかった。
翔護は大人の刈野よりも狙いやすいはずだ。それでも彼らは翔護を避ける。
「ったく、あの雑兵マジ使えねえ……」
「っっ!!!やめてくださ……いやっ!!」
「どけっ亡者共!おらあっ!!」
「「グウウウッ!?」」
中学生と大人の体格差を感じさせない勢いでエクセプションを蹴散らすと絹羽を抱きかかえた。
「しょ、翔護さん…っ!!」
「しっかり捕まってて下さい。走ります」
「ですが翔護さん。どちらへ逃げるのですか!?」
「奴らが付いて来られない場所まで」
「でしたらわたくしのことは置いて行かれた方がいいのではないでしょうか?」
「いや…こんなとこに女性残して逃げるとか後ろめた過ぎて逆に足遅くなりそうだし無しの方向で」
「で、ですが……」
「大丈夫ッス。俺に付いてこれる生物なんてこの世に存在しない……ってあれーん??」
無抵抗の絹羽に襲いかかったエクセプションは翔護が助けに入るとすぐに標的を刈野に変えていた。
もちろん一人とて翔護たちの前には残っていない。
「………行ってしまいましたね……」
「そーっすね。なんかここまで露骨に避けられてると鬼ごっこの時に自分だけ鬼に追い掛けられないでハブられてるような複雑な気分なんスけど(・ω・` )」
翔護が複雑な気分になっている間、刈野はずっとリアル鬼ごっこに没頭する。
「だすげてえええええええええええええええええええーーー!!!!!」
「………(・ω・` )」
「翔護君!!私をたすけてくれえええええええええええーーー!!!」
「……(・ω・` )」
「うわあああああああああーー!!!」
「あ、あの…翔護さま。そろそろ下ろしていただけませんか………?」
「……あ、すんません。どうぞー」
「ありがとうございます。それでは申し上げ難いのですが、あの方にも手を差し伸べてはいただけませんか?
そろそろ逃げるのも難しいご様子ですので」
絹羽が指さした刈野の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっており、足は千鳥足だった。
「うーん………いや、あと十分くらい死ぬ気で走るのもいいでしょう」
「ゑ!?」
まさかの翔護のドS発言に顔の原型を留めないほどの驚愕を見せた刈野。
「お、鬼かねキミはああああああああーーーっっ!!!」
「いや。俺女見捨ててテメーだけ逃げるような根性ないやつって吐き気がするほど嫌いなんだよね。
だから十分経ってまだ生きてたら助けてやるよ。そいつらこっちには手出す気無いみたいだし。
生き残れないなら死ねばいい。死んじゃえ、雑兵。bang!」
「ギャー絶望うううううううううううううーーーー!!!!!」
指で銃をの形を取りながら撃つそぶりをすると翔護はその辺に落ちた木の枝で1人遊びを始めた。
「あーこんなところに切株があるや。姉さん座りません?俺のフード脱いで敷物にすれば綺麗な和服も汚れませんよー」
結局その後刈野は20分以上鬼ごっこを続けるハメになったのだった。
森の南 12:00
響 愛美(11)
暗く冷たい森の中。戦いに赴く者がいて、己の生命を護るために策を練る者もいる。
しかし参加者のほとんどは状況を理解しておらず、更にはそもそもリンカーではない一般人も中にいた。
リンカー鳴海 翔護の幼馴染の響 愛美は、彼が儀式に参加するきっかけになっただけの一般人である。
そんな彼女は、孤高に戦う能力も無く、群れを成して身を護ることも出来ずにただ震える足を前に出していた。
「私…これからどうなっちゃうんだろう?翔護…風音……どこにいるの?」
昨夜から暗い山の中にいた愛美は精神と体力が共に限界に来ている。
息遣いは恐怖で過呼吸寸前まで達しており、ほとんど前の見えない森を夜目だけを頼りに歩いて疲労して今にも倒れそうだ。
「お母さん…お父さん……助けて……グス」
涙が愛美の頬を濡らした時、ふと声が聞こえた。
「お姉さんだいじょーぶですか?」
「え?!」
声の方を向くとそこにいたのは愛美よりも小さな少女が立っていた。
年下の女の子に泣いている姿を見られた愛美はバツが悪くなり涙をぬぐった。
「こんばんわ。って今まっくらだけどお昼くらいでした。あらためまして、こんにちは、お姉さん」
「あなたは誰?」
「わたしはゆめみ。月宮 夢観。こうみえてもまほうつかいです」
「まほうつかい?」
「はい。今は5歳の姿ですけど、実は今11歳なんです」
礼儀正しくお辞儀をする姿は、彼女が外観通りの年齢でないことを愛美に感じさせていた。
しかしまほうつかいということまでは信じられなかった。
「そういう遊びってことね。わたしは響 愛美。ちょっと言いづらいんだけど友達とはぐれてここがどこだか分からないの。教えてくれる?」
「はい。わたしはアナタを助けるためにあなたのところへ来たんですよ。愛美さん」
「どういうこと?」
夢観は優しく微笑みながら背負っていたリュックを下ろし中から懐中電灯と単一電池を2つ愛美に渡した。
「どうぞ。この先もこの森は暗いままですから持っていて下さい」
「いいの?あなたは使わなくて」
「はい。わたしは『まほう』でこの森のどこに何があるのかわかるんです。最初にいた場所から離れてしまうと分からないんですけど……」
その言葉に疑問を持ちながら、愛美はワラにすがる思いで聞いてみた。
「なら教えて!翔護や風音の居場所を!」
「翔護さんならこの時間帯なら『森の北』のほうにいたはずです。今がPM12:00ですから、あと30分は同じ場所にいるはずです。ですがその時間を超えてしまったら、もう私には翔護さんの居場所は分かりません」
それを聞くと愛美はいてもたってもいられなくなった。
「じゃあ早く行かないと!夢観ちゃん、北はどっち?」
「はい、今地図を出します。……えーっと、矢印を向いている方向が北だってお兄ちゃんが言ってたから………あ、あれれ~??今わたしどこにいるんだろう?」
自称まほうつかいの少女はこれまた自称11歳の知識をフルに使って地図の見方を思い出したが、今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。
「夢観ちゃん、急いで!!」
「は、はい~!えっとえっと、愛美さんが送還された位置がここで、時間が5分くらい経ってて……うう~~!
お兄ちゃんなら簡単に分かっちゃうのに~~!!」
夢観が地図と格闘しているうちに5分が経ち、残り時間は25分。
しかし現在地は特定出来ないまま。すると周囲から誰かの足音が聞こえてきた。
「誰か来るよ!翔護かな?」
「え!?たいへんです隠れてください」
「え、う、うん…?」
愛美は夢観に言われるままに茂みに身を隠す。夢観も荷物を片づけると周囲を警戒しながら隠れる。
しばらくすると夢観がやってきたのと逆の方向から、愛美と同じ年くらいの少女が泣きながら歩いてきた。
「おかーさーん!!どこー!!おとーさーん!!!怖いよーー!!」
いくら呼んでも返事は返ってこない。それでも泣きながら少女は両親を呼び続ける。
「……あの人は……もしかして…姫さん?」
「……うん。確かにお姫様みたいに可愛い子だね。フワフワで長い髪の毛とか、目とかもクリっとしてて……男の子もああいう子が好きなのかな」
「あ、いえ。私が言ったのは名前なんです。知り合いのお姉さんにそっくりだったので。
でも姫さんは騒ぎでご両親とはぐれてずっと街にいたって言ってたのに、何でこの森にいるんだろう??」
「ねえ、声掛けてあげよう。一人ぼっちでこんな暗いところ。不安でたまらないはずだよ」
「……そうですね」
(あとでお兄ちゃんに怒られるかもしれないけど、仕方ないよね)
「よし。ねえ、あなたもひとりなの?」
「――ッッ!??」
突然声を掛けられた少女は驚いて逃げ出してしまった。
「あ、ねえ待って!!」
愛美は少女を一人にするまいと追い掛ける。
「愛美さん!!あんまりこの場所から離れちゃうと翔護さんの居場所分からなくなっちゃいますよ!!」
更にその後を夢観が追い掛ける。
逃げる少女と愛美の走る速度はほとんど五分だった。しかし五歳児の身体の夢観は追い掛けてもドンドン離されてしまう。背中のリュックがそのハンデに拍車をかける。
「こ…このままじゃ…ハア…二人とも、見失っちゃう……っ!!」
息を切らしながら走る少女は胸に下がっている宝石に意識が行く。
しかしすぐに自身を戒めて一層力を入れて走った。
もう愛美の声も聞こえない。
それでも走るのをやめない。
もうどちらの方向に走ればいいのかも分からない。
「みつけなきゃ……おにいちゃんの…お友だち……っ!」
必死に走り続ける。走り続けて走り続けて、辿りついた先は自身の体力の限界だった。
とうとう立つこともままならなくなった足は夢観を地面に倒れ込ませた。大きな瞳に涙の粒を浮かべながら、本来の身体よりもさらに矮躯な身体で、本来の身体以上のガッツで地面を這う。
ドロドロになりながら前に進んでいると、視界にとらえきれないくらい前方で悲鳴が上がった。
「きゃああああああーー!!!」
「――っっ!!なに?何があったの……っ!助けに行かなくちゃ」
夢観は五歳児の身体をなんとか歩かせようと自立を試みるも、足がふらつき言うことを聞かない。
「おねがい立って、わたし。誰かが危ないかもしれないの……!!」
自分自身を励ましながら木を支えに立とうとする。しかしまた滑り落ちて支えを失う。
だが今度は地面にぶつかる感触が無い。不意に自分の身体が宙に浮いているのを感じた。
それが誰かに抱きかかえられているのだと気が付いた。
「助けていただいてありがとうございます………あの、あなたは…だれですか?」
「………安堂 総司。気まぐれで事件を解決する……探偵だ」
その男は夢観を抱きかかえたまま悲鳴がした方向へ進む。
「お前の本気を感じた。何をしたい?協力してやる」
一瞬驚いた夢観は目を丸くしながら今一番重要なことが何かを考えると、迷いなく男に告げた。
「女の子を2人助けるのを手伝ってください!!」
夢観が言い終わると同時に、総司は走り出した。
現在時刻はPM12:13翔護の居場所が分からなくなるまで……残り17分。
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さて、一話でも書きましたが、この話は大学時代に書いて、日の目を見なかった物語です。
ストックはありますが、完結していません。
しかも、書くの止めてからもう五年くらい経ってます。何が言いたいかというと、この話……ラストは決まってても途中構成はぼんやりとしか考えていなかったので、ストックが無くなれば更新しないか、いっそ途中から考えて書き直すかしなければならない時が来てしまいます。
書くの止めたのはモチベーションの低下だったわけですが。
もし、続きが読みたいと言う意見があれば書いてみようかな……広げた風呂敷が膨大でヤバいことになってますが。
とりあえず、File9までは書いてあります。それ以降は、面白いと思っていただける方がいたら。と言うことで。