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ブレイズ non fiction perfect File3別離と邂逅

思ったより読んで貰えてるなら読まれる内に投稿投稿。

1999年12月27日、1993年12月27日更に2019年と2020年そして2010年―

それらの『時代』の少なくとも一人がとある森の中で消息不明になっている。

後に通報があり、警察や自衛隊などが森を調査に入ったものの、行方不明者がそこにいた証拠を何一つ上げることは叶わなかった。

しかし、それは現代の警察の無能さや怠慢とは異なった理由からである。

それを知ることになったのは、たった一つの生還者の紡いだ言葉だ。

生還者はこの失踪事件をこう語った

『誰も知ってはならない事実がある。関わる者は消えた者と同じ運命を辿ることになるだろう

我らは神の威光に……いや、神によって辿る筈の運命を狂わされたのだ……!!』

語り手の声は、怨嗟と恐怖に満ちて、言いながら助かった自分自身に安堵していた。

これから語るのは、その森中で何があったのか、その一部分を伝える物語

non fiction perfect 一切虚飾の無い真実 である。

嘘にまみれた世界に生きる者達よ、活目せよ。

嘘の無い、運命を翻弄されし者達の真実の声を聞け。




ブレイズ ~non fiction perfect~ ファイル№3別離と遭遇


絶望はこの森に、希望は大地に飲み込まれる。




安堂総司(30) FILE

森の中央部 10:32


草木以外邪魔をしなかった道を進んで目的地を眼の前にした安堂総司は相棒の松と一緒に立ち止まっていた。

眼の前には銃で武装した白衣の男達。

男達は警告する。『これ以上先には進むことは許可されていない』と。

威嚇の為に数発撃ちこんだ銃弾が、銃がおもちゃでは無いということを証明した。

「お、おい総司。早く引き返そう!って言うか帰国かえろう、日本に!!」

銃弾に怯えた相棒が一刻も早いこの場からの退避を望む。しかし探偵は違った。

「……銃を向けるのなら本気で来い」

眼の前の者に自分の行く手を阻むことを許可しないという自我が、総司が引き返すことを認めない。

「ちょ、お、ま!!それまずいって!!今は逃げようジャストなう!!!」

「断る。俺の行き先は俺が決める」

「立ち去らないのならお前の行き先は地獄へ変更してもらうだけだぞ」

白衣の男達も断固として譲らない。この先にある物の正体を知っていて、ソレを独占したいという欲望からだ。

「………」

総司は構わず前に進む。敵の持つ銃などどこ吹く風だ。

すると敵は覚悟を決めて総司に向けて引き金を引いた。

「発砲許可!放て!!」

ガンガンガンッ――!!!

自然に囲まれた森に似つかわしく無い銃声と火薬の臭いが巻き散らかされる。

「ひいいいいいぃぃぃぃーー!!!!」

松はそれに怯え、脱兎のごとく逃亡する。

しかし、そこにいるはずの探偵の姿が見つからない。

姿を見つかる為に辺りを見回す白衣の男の一人が奇妙な声を上げると、全員が男のみる方向を向いた。

「せいやあっ!!」

「――!!?う、撃て!!撃つんだ!!」

そこには無傷の探偵の姿。そして、高身長でガタイの良い身体から繰り出されるハイキックに沈む…仲間の姿だった。

沈んだ敵の身体を掴みあげ盾にしながら接近し、十分な間合いに入ったたところで標的の男に向かって蹴り渡す。

そうして怯んだ所を逃さず蹴り穿つ。

バキッ!!

「グギャア――!?」

「な、何なんだこの男は!?」

全て実戦で探偵が得た力だ。

元々戦いと無関係であろう白衣の男達は、銃という切り札を持っているからこそここにいる。

「命を賭けろ、死ぬ気になれ。本気で来なければ命を落とす……!!」

自分達と実力の違う探偵の眼光に、白衣の男達は本気で死を意識する。

そして自分達の力が通用しないと分かると、装備を放棄して一目散に逃げ出していった。

「…………他愛も無い。しかも目的だけはきっちり果たしやがったな…」

男達が去った後、いましましそうに呟く総司。

敵の撃退に成功した総司にとっては相手のもくろみを潰したようにも見えるが、一つだけ大事なことを忘れていた。

「松……どこまで逃げたんだ?探さないことには先に進めないじゃないか。ハア……」

溜息を吐きながら結局来た道を引き返すことになった総司であった。






浅倉 仁(25)FILE

日本国内 首都 21:38


≪本部より全車へ通達――都内を逃走中の脱獄犯、浅倉あさくら じんは武装警官隊25名を負傷させ、現在行方を眩ませております。警官隊の証言によると逃走者は上下蛇柄の服装に着替えした後、警官隊から拳銃を奪って逃走しています。厳戒態勢で捜索に臨んで下さい≫

路地裏の隅で警官隊のトランシーバーからの通達を聞いて、牢獄から脱獄した男

浅倉 仁は警察を嘲り鼻で笑う。

「拳銃と弾だけじゃねえ……こんなもんも持って来てんだよ」

警察がどう動くのかを知ることは、脱獄犯には必須の情報だ。

それを知ることが出来る状況にいながら、浅倉は不機嫌な声を出している。原因は今の警察から逃げていることのストレスとも、また別の特別な理由とも違う。

浅倉はいつも不機嫌でイライラしているのだ。

たまたま道ですれ違っただけでも、浅倉にとってはケンカの理由になる。

一般人でも不良でもヤクザでも関係ない。イライラするなら潰す。それが浅倉の人生だ。

「イライラするぜ………せっかくあのつまらねえ豚小屋から出てきたってのに、この世界はいつまでも俺の望む世界になりゃしねえな……」

呟きながら路地裏から公道に出ると、見渡す限りに人々が闊歩する。

その光景は、浅倉を苛立たせるのには十分すぎた。

「ったくよお……本当に、イライラ……するんだよ……」

ベルトに挟んであった拳銃を引き安全装置を外すと適当な人間に標準を定め発砲する。

バン――!!

不幸にも浅倉に狙われた者に、発砲された弾が命中する。

「キャアアアアアアーー!!?」

「な、なんだ!?」

「人が撃たれたぞーー!!!」

「ちっ…」

自分の発砲が原因にも関わらず、騒ぎだした衆目に対してさらにムカつきを増す浅倉。

黙らせようと更に発砲する。三人を殺したところでようやく周囲を巡回していた警官達が騒ぎを聞きつけ現れる。

普通なら脱獄犯はここで逃げるだろう。しかし、浅倉は違った。

「イライラ…するんだよ……!!」

ベルトに挟んであった二つ目の拳銃を抜いてそのまま乱射し応戦した。

「くっ!?止めろ浅倉!!関係無い人を巻き込むんじゃない!!」

「発砲はするな!!民間人にも被害が出かねん!!」

「どいつもこいつも…死にさらせ……!」

警官の成す術の無い間も浅倉は発砲を止めずに次々と銃を使い捨てていく。

そして撃ちながら距離を詰めると同時に格闘戦に切り替えた。

「チャンスだ!!この機に捕まえろ!!」

「四方から挟みこめ!!」

「イライラ……するんだよ……っ!!」

浅倉は一人に対して警官隊は次々に増えていく。この騒ぎも終結するかと誰もが思っていた。

しかし当の浅倉は

(なんでこんなにイライラさせるんだ?どいつもこいつもうっとおしい……死んだ魚みたいな目で生きてやがって……気に入らねえんだよ……俺に殺されちまえよ!!)

「浅倉!大人しくしろ!!」

「警官隊全員分の銃を奪ったはずだ。確保しろ!!」

(なんで俺はこんな世界で生きてるんだ?おい…誰か俺をここから連れ出せ……もうこんなところに居たってしょうがねえ。誰でもいい。俺を、俺を居場所に……)

「俺の戦場いばしょに連れて行けええええええええええーーー!!!!」

空に向かって雄たけびを上げた。

それは魂の叫び。世界への不満と満たされない乾きを訴える叫び声。

赤ん坊の誕生を知らせるものと同じ、生命の鈴の音の響だった。

「何を騒いで……っっっ!!!?な、何だこれは!!」

浅倉の願いは成就した。魂の叫びがあの森に届いた瞬間だ。

これより先の事象は何人たりとも干渉できない不可侵の『奇跡』。

それに導かれた浅倉は召喚される。『選定者』として、あの森に。神の候補として。

浅倉が真に選ばれた時には叶うだろう。浅倉の願いが。

「どいつもこいつも俺がこの手でブチ殺す!!!」

その言葉を最後に、浅倉の身体は姿を消した。


今この時、浅倉 仁が参戦した。







青葉 風音(11) 響 愛美(11)FILE 


森の南側 9:00



「なあ、もう少しゆっくり歩いてくれよ……」

風音の示すままに歩いていた愛美が疲労の色を見せた。

「………それは構わないが、翔護を見つけなくてもいいのか愛美?」

「そんなこと言ってないだろ!でもこの森ぬかるんでるし、雑草はヘタすると肩まで来てたりするんだよ。歩き慣れてない上にどこに行くかも知らないわで体力が……」

愛美は学校でも体力のある方ではある。しかし11歳の小学生なので、当然疲れも早い。

しかしそれは風音も同じハズなのだが、彼はどういうわけか汗一つ搔いていない。

「翔護ならこんなことでヘタれたりしないぞ。ほら頑張れ愛美」

「また翔護…翔護。だいたい風音はどこで翔護と知り合ったんだよ!!さっきからわたしの知ってる翔護と全然違う奴に聞こえるぞ!」

「そうか?俺は寧ろキミの言っている翔護の方が理解に苦しむよ。

翔護は女性に助けられることを拒むタイプだと思っていた」

「何言ってんだか。あいつは私が護ってやらなきゃ学校でもいじめられてるような奴なんだぞ!

そんなかっこいい奴だったら、私だってこんなわけの分かんないところに来なかったのに!!」

翔護を救いたいがために山に入った愛美は最初からこの森に来るつもりは無かった。

それも、あの山に行かなければ。もっと早く翔護が来ていれば。あの時地震さえ起こらなければ。

様々な不運と不満を込めながら、愛美は不平を洩らす。

だが風音はその事情を知らない。

記憶を失ったとはいえ元は自分自身の意志でこの森に入った風音には知るよしの無いことだ。

だと言うのに風音は愛美の頭を撫でるように手を置くと

「…………なるほどなあ。翔護を鍛えようとして山に誘い出したはいいが、中々姿を現さない上に会えたと思ったら今度は地震。更にいつの間にか森の中…か。ミイラ取りがミイラだな」

「――!??」

そのものズバリ言い当ててみせた。

「さてと……こりゃ本当に翔護見付けてやらないとキミの精神が参っちまうか」

「ちょ、ちょっと待てよ!!何でここに来る前のことお前が知ってるんだよ!?

それだけじゃない!私のことだって話する前から響 愛美だって分かってた!!

普通話聞いただけであそこまで自信満々に言い切れるものじゃない!!お前は一体何者なんだよ!?」

わけも分からないままに付いて行かされたへの愛美の疑問と怒りが一気に風音に向けられる。

「もういい加減にしてくれよ!!わけの分からないまんまこんなところにいて、なにも教えられないまま休みなく歩き続けてもう限界だ!!お前の知ってることを全部わたしに話せ!!お前に従うかどうかはそれから決める!いつまでもわたしが言いなりでいると思うなよ!!!」

今まで抑えていた怒りが本人にも抑えられないところまで来てしまった愛美は、大声で風音に怒鳴り散らす。

森に入る前から山で精神的に疲労していた愛美は不安でいっぱいだったのだ。

自分がどこにいるのかも分からず、帰ることすら出来ず、一緒にいたはずの翔護は姿を消している。

何かを知っていそうな少年は何も語らない。

不安に押しつぶされそうな少女は、強気にでることで自分を必死に誤魔化して。

ついに堪え切れずに、彼女の瞳から涙がこぼれ出す。

「怖いんだよ……何でわたしはこんなところにいるんだ?翔護はどこだ?

私達帰れるのか?なあ、これからどうなっちゃうんだよ……??」

涙がこぼれるたびに小さくなっていく声を、風音は一言一句聞き漏らさない。

それがとうとう聞き取れなくなった時、風音は口を開く。

「…………翔護は今のキミのように泣いている子に手を差し伸べる奴だ。

今だって、キミを探してこの森のどこかにいるはずだよ。俺だって、何の意味も無く歩かせていたわけじゃない」

そう言うと、風音は上着の内ポケットから何かを取り出した。

「………やっと気付きやがったか鳴海 翔護。

…おい、聞こえるか?」

半分祈るように取り出した何かに話しかける風音。どうやら無線機であるらしいソレから帰ってきた返答は……


《ああ、聞こえているよ、シオン。こちら鳴海 翔護だ》


「――っっ!??」

「色々言いたいことはあるが、まずはお前のgirl friendに声を掛けてやれ。精神的にも潰れかけてる」

《………ガールフレンド?一体何を言っているんだシオン。だいたいあんたどこにいるんだ?『こいつ』の有効範囲はせいぜい市町村が限界のはずだろ。ステイツのお前と何でコンタクトが取れてるんだ?》

「そいつを説明する前に彼女に声を掛けてやれと言っているんだ。ったく、どうやらお前は2年経っても鈍いとこは直らんらしいな。とにかく彼女に代わるぞ」

そう言うと風音は愛美に通信機を手渡した。

「も…もしもし?翔護?」

《あれ、愛美か?何でそこにいる……って、まさかシオンも同じ森にいるのか?》

「そうだ!お前どうして私のそばにいなかったんだ!?」

《い、いきなり何言ってんだよ……??》

「うるさいバカ!!お前は一人じゃ何にも出来ないんだから私といっしょにいなきゃだめだろ!!」

《り…理不尽過ぎる……!こっちも何が何だか分かんねえうちにぼっちだったってのに……いや、それより落ち込んでるんじゃなかったのか?》

「お前の声を聞いた瞬間に怒りしか湧いてこなくなったわ!バーカ!!」

《うるせえ……もういいだろ、シオンに代わってくれ》

「ふんだ!!さっさと私を探し出せよ!!ほら風音!!」

すっかり元気むかつきになった愛美に投げ渡された通信機を難無く受け取ると何事も無く会話を始める。

「とりあえず精神的には回復したようだな。」

《めんどくさいけどね……これでも幼馴染ってやつだから。

あんたもその辺少しくらい付き合ってやってもいいんじゃないか?

陽香ちゃんにさ》

「ふん……肝心な時に傍にいられない男に何を言われても説得力もない」

《言いやがる……ところでシオン、あんたはこの森にどうやって入って来たんだ?》

「………お前と一緒だ。気が付いたらこの森の中に立っていた。最初はいつものカフェでモーニングコーヒー飲んでたんだがな。

ここに来てからの初めての記憶は、見渡す限りの木々と何故か落ちていたマンガのキャラクターの描いてあるカードだ」

《え、マジで何ソレ……??》



「それより翔護、今お前の戦力を自己分析出来るか?」



《何だよ急に?》

「嫌な気配がするんだよ…欲望と怨念、負の感情がこの森はあまりにも強すぎる」

《………俺は自分のことは自分で護れる。そんなにマズイ感情ばかり読みとれるなら、愛美を護ってやってくれ……――!?うわっ何だこれ!?》

「どうした?何があった?――おい!翔護!!返事をしろ!!

くそっ通信が切れやがった。愛美、先を急ぐぞ!!」

通信が途絶えた翔護の身を案じて先を行こうと愛美に声を掛ける。

しかし、それに対する返事が返ってくることはなかった。

「おい……?どこへ消えたんだ、愛美……?」

翔護との通信が切れた時、また愛美もどこかへ消えていたのだった………。





鳴海翔護(11)FILE


森の東側 9:11


青葉 風音と交信が切れた直後。

「………あーあ、やっちゃった。ヘビかと思った物はただのオモチャだし、無線機はパニクってどっか投げちまうし。最悪だ……」

森の中を歩きながら通信していた翔護は、ふと足元の違和感の正体を探るために足を上げたところに蜘蛛がいた。しかしそれはよく似たオモチャであり、それに気付かなかった翔護が慌てて逃げたところ躓いてころび、その拍子に無線機も投げてしまったのだ。

「つーか何でヘビのオモチャ?悪趣味にも程があるだろ。

えっと、名前が書いてあるな。んーと……ア サ ク ラ ヒ ト シ?」

ヘビの腹に赤い字で書かれた名前は、字を覚えたばかりの子どもが書いたかのような大きさの不揃いな文字だった。

「さっきシオンが拾ったと言うカードと、このヘビのオモチャから察するに、ここには人間が来るってことか。

………あるいは、オレ達のようにわけも分からずに入った者が『過去』にいたのか?」

翔護は自分がここに入った経緯を思い出していた。

「最初に居たのは、地元の街から見て高い山だった。地震の影響で地割れが起きた際に運悪く二人とも落ちて気が付けば木々が茂る森の中で倒れていた。そしてシオンもまた何故かこの森にいつの間にかいたと言う。

『あの』青葉 風音が、だ」

翔護は思考を巡らせ、自分の置かれている状況を整理する。

あるいは自分と愛美だけがこの森にいたというのなら、ごく低い可能性で『気を失っているうちに運ばれた』という考えで無理やり納得してもいい。むしろ『山の亀裂に落ちたら下は森だった』と考えるよりはまだ常識的な回答であると言える。

しかし翔護にとって、その僅かな可能性を完全に潰したと言っていい証拠が現れた。それが青葉 風音の存在だ。

翔護は自分の身体的戦力とかつて己の目で見た10歳の頃の青葉 風音の戦力差を分析する。

「………やはり、オレが勝てる見込みは低いな」

少し考えて即座に自身の敗北を認めざるを得ない。

鳴海 翔護は昔ひょんなことから少しの間だけ青葉 風音と仲間として戦っていたことがある。

その時に翔護が何よりも驚いたのは、青葉 風音の予言とも言える敵の行動への適切な対処だった。

戦いのときはもちろん、シオンは日常生活においても一切の隙を見せない。背後に敵が立とうとすればその立ち位置に地雷を仕掛けるくらいの戦略を見せる。相手が罠を張っていれば戦闘に立って一つ残らず解除してから仲間に先に進ませる。

その完璧さに憧れと尊敬の念を抱いたのは一度や二度では無い。

さらにシオンは空手を習得しており、師匠からは技術だけなら黒帯を渡してもいいと言われているのを見学に行った時にも聞いている。

集団戦闘も個人戦闘も名実ともに大人顔負けというわけだ。

「オレだけならともかくシオンをいつの間にか森に放り込むなんて、普通の人間じゃ無理だ」

しかし、山の下に森があったという結論もありえない。

「その仮定でいくと、オレ達はお互いにあの山にいたってことになる。

しかしシオンはマークの店でコーヒーを飲んでいたと言っていたんだ」

それ以外の仮説を立てるとしたら


1.実はオレは山から落ちた時に致命傷を負って意識混濁状態、これは夢である。


2.今は授業中でオレは居眠りをしていて起きたら先生に殴られる運命、これは夢である。


3.世界にはまだ解明されていないことが幾つもある。これはその一端によるもの。


「………稚拙ってレベルじゃねーぞこれ」

結局どれだけ考えても答えがでないので、翔護は無くした無線機を探すことにした。

あたりの茂みをゴソゴソ探す。


ゴソゴソ…何も見当たらない。

ゴソゴソ…何も見当たらない。

ゴソゴソ…何も見当たらない。

ゴソゴソ…『9mm口径銃弾』を2つ手に入れた。

ゴソゴソ…何も見当たらない。

ゴソゴソ…キャンディーを手に入れた。

ゴソゴソ…『7.62mm×63口径銃弾』を1つ手に入れた。


「………待てコラ。何で弾薬が落ちてんだよ。バイオじゃあるまいし。

あと場に不釣り合いな綺麗な袋に包まれたキャンディー落ちてんのが地味に腹立つわ……」

他の茂みを探しても無線機が見当たらない翔護は、段々と無線電波が繋がりにくい方へと離れていってしまう。

そのうちに翔護はそれまでの木々に覆われた景色とは違う物を見た。

水が物理法則に逆らわずに流れ落ちるその音が辺りに鈍く広がる場所。

大きな滝と川がある場所に出た。そこはそれまでと違い、日の光が射すごくわずかな場所でもあった。

「………普通に半日振りの日光じゃん。世界のささやかな加護と愛を感じられるな~

あと動き回って喉乾いてたんだわ。オレ実は知らないとこで1人でじっとしてるの無理な人なんだわ」

日の光と水を発見したことは翔護の大きな心の支えになった。見ず知らずの場所で遭難した場合、水を確保出来る場所があるのは幸運であると言える。

それを理解しているからこそ、翔護は沈んでいたテンションも回復したのだ。独り言で饒舌になるほどに。

「大切な順に言えば愛美を探して家に帰ることだけど、ソレが難しいなら水分確保マジ必須だね。

生死分けるから、マジで。あと日の光。身体を冷やすと体調悪くなるし動きも鈍くなるから絶対気を付けた方がいいね!」

「そうなのですか、お勉強になりますわ。他には、どういったことに気を配るべきなのでしょうか?」

「そーだね、日が暮れるまでに脱出の目処が立つかどうかを判断しなきゃだね。

アレしないとさ、寝床作らないと毒のある虫とか野生の動物とかに襲われるんだよね。

なるべく高い位置に眠れるようにしないとね!あとは食糧かね。ほら、人食わないと死ぬし。

あ、そうそう忘れちゃいけないのが火を起こすことなんだよ!!ソレ最重要だわ!!動物も虫も火ビビるし!

夜も動けるように火だけでも起こしたいな」

「ではこちらをお使い下さい、父のライターを借りたままにしていたものです」

「おお!サンクス綺麗なお姉ちゃん!和服着こなして大人しそうなのにライター持ってるあたり家のしきたりとかに嫌気がさして不良に憧れたりするタイプかね汝?」

「よくお分かりですね。知識が豊富なだけでなくそんなことまで分かってしまうなんて、尊敬いたします」

「キター!!美人に誉められると嬉しいな。しかもなんか今一つ世間という物が分かっていないっぽい箱入り娘な感じのあどけない表情がまたたまりません!!では遠慮なくライターお借りしまーす」

「はい、お役に立てて下さいな!」

役に立ったことが嬉しいらしく、和服の女性はあどけなく顔をほころばせてほほ笑った。

それは親に初めてほめられた子どものような純粋な笑顔だった。

「―――ってお姉さん誰ええええええーー!???」

そこでようやく自分以外に人がいる子とに気が付いた隙だらけの翔護は、女性が何者かを尋ねた。

すると女性はきちんとした姿勢でお辞儀をすると答えた。

「申し遅れました。わたくしは 鷺ノさぎのみや 絹羽きぬはともうします。

あなた様のお話がとても興味深いものだったもので、つい夢中になってしまいました。

まだお若い殿方とお見受けいたしましたが、とても博識でいらっしゃいますのね。素敵です」

「あーいえ…それほどでも……」

絹羽の良家のお嬢様を思わせる丁寧なあいさつと言葉使いに一気に素に戻った翔護は、バツが悪そうに頬を指で掻きながら歯切れの悪い返事を返す。

「あの…もしよろしければ、お名前を聞かせていただけませんか……?」

「あ、ああ。オレは鳴海 翔護です。えっと、もしかしてこの辺に住んでるんですか?」

「いいえ、その…変なことを言うようなのですが、わたくしは気が付いたらこの森に立っていたのです。

何故ここにいるのか、分からないのです」

「オレ達と一緒か……」

「まあ、翔護さまもそうですの?でしたらすこし安心しました。…知らない森でまでひとりぼっちになってしまったのかと不安でしたの」

「しょ、翔護さま?ちょ、待ってよ。オレ様付けされるような人間じゃないし第一絹羽さんのほうが目上じゃないですか?オレはまだ13の中学生ですよ」

「不快でしたのならお詫びいたします…申し訳ありません。では、翔護さんとお呼びしてもいいですか?」

さん付でも十分耳にくすぐったい翔護だったが、彼女の振る舞いをみてソレが自然体なのだと諦めることにした。

その後、川岸に落ちていた乾いた岩でキャンプ用のかまどを簡単に組み立てて、絹羽から借りたライターで火を付ける。

「何故火を岩で囲っているのですか翔護さん?」

「風で消されないようにとか、あと何か焼くときに便利かなって。こうしておけば火傷もしないだろうし」

「やはり翔護さんは色々なことをご存じなのですね。尊敬いたしますわ」

翔護の説明にまたも目を輝かせて笑う絹羽。

話によると彼女は本当に由緒ある家柄の娘で、箱入りだったという。

因みに翔護より年上の18歳。

(子どもみたいな笑顔だな。むかしの愛美もこんなだったのにな…どこでああなったんだか)

そんなことを考えながら、絹羽の笑顔を眺める翔護は少し休んだ後に木の太い枝を折って腰に巻いていた縄で巻いて担ぐと、絹羽と一緒に無線機探しを再開することにした………














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