超能力者になってはみたものの(瞬間移動)
小説家になろうというサイトを見て、一番最初に書きたかったのは、自分が超能力者になったという話でした。
ですが書き始めると、なかなか筆が進まず、結局、こんな話になってしまいました。
俺は53歳の何の変哲もない「おっさん」だ。
その何の変哲もない「おっさん」が、ある日突然超能力者になってしまった。
もちろん喜んだ。
いや、狂喜乱舞という言葉は、この時にあるのではないかと思った位、喜んだ。
狂喜乱舞でなければ、有頂天外、歓天喜地でも、欣喜雀躍でもいい。(いいのか?合ってるか?)
要するに、とにかく喜んだ。
だが、その時は、当然”そんなこと”は分からなかった。
世の中そんなに甘いもんじゃないということを。
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俺はある日突然、瞬間移動、テレポーテーションが使えるようになった。
だが、その能力には条件設定があった。
まず第一に行ったことがないと、そこへは瞬間移動できない。
次に明確にその場所を自分の中で認識していないと、そこへは瞬間移動できない。
なあんだ、そんなことかと思ったあなたは、まだこの2つの条件を理解していない。
俺は53歳にもなっているから、それ相応の人生経験もあり、旅行もかなりしてきた。
海外旅行も両手・両足の指の本数以上行っている。
しかし、瞬間移動の能力があると分かった時には、旅行に行った記憶を明確に覚えていないことに気がついてしまった。
例えばスコットランドに行ったことがある。
スコットランドのどこそこへ行ったというのは地図を見ればわかるし、今時はgoogle mapで細かい地図や航空写真、その場所の写真なんかも見れるから、あ、ここ行ったことあるなあ程度はもちろん覚えている。
しかしそれでは瞬間出来ないのだ。
それは「明確にその場所を自分の中で認識している」という条件に当てはまらないらしい。
ある旅行の写真が残っていて、そこのことは覚えていたので、google mapの地図を見て、航空写真を見て、あ、この場所だときちんと認識出来たら、瞬間移動出来たのだ。
では、写真が残っていれば、それで大丈夫かと言えば、とにかくきちんと覚えていないとだめなのだ。
もうこの段階でかなりの欠陥能力である。
覚えていないとだめ。
覚えていてもきちんとその場所を俺の頭が認識していないとだめ。
繰り返しで申し訳ないが、俺はもう53歳。
記憶力も、これから記憶する能力もそれほど高いとは思えない。
なんというか、メモリ(記憶容量)の残りが少ない気がする。
この辺は何歳になっても記憶力は落ちないなんて言う人もたまにいるんで一概には言えないことは分かっているが、瞬間移動の能力の前に、記憶力がないとだめなんて・・・・・
更に、更にである。
もっと俺を恐怖に叩き落した条件がある。
俺はある時、旅行の写真をもとに、とある湖の湖畔に瞬間移動した。
「お!出来た!」
と思った瞬間、俺は水の中にドボンと落ちていた。
間抜けな時は、さらに間抜けが重なる。
それは冬だった。
おまけにその湖は北海道。
今考えればよく水面が凍っていなかったなあ。
つまり、俺が記憶して、きちんと認識した湖の湖畔は、旅行してから5年も経過していて、たまたま地形が変わって、湖の一部になっていたのである。
幸か不幸か、幸いにして俺は意識がなくなる前に、再度瞬間移動して、自分の部屋に戻って、九死に一生を得た。
が、もちろん部屋は微妙に臭い水やら藻やらをまき散らした結果、後始末にも四苦八苦した。
いやそんなことより、とっさに瞬間移動しなければ確実に心臓麻痺で死んでいただろう。
つまりこの条件は表現すれば、瞬間移動した先の現在に状態は考慮に入らないということになるだろうか?
瞬間移動した先がどうなっていても、その周囲の状況を俺は甘んじて身に受けなければならないのだ。
・・・・・。
映画や漫画なんかでは、超能力は気軽に使われている。
俺の瞬間移動のような面倒くさい条件設定なんて聞いたことがない。
まあ実際に超能力者がいるなんていう話は現実にはないのだが。
〇ビル2世なんか、こんな条件設定だったら絶対に瞬間移動使わないよな。
これまで説明してきた3つの条件を安定的にかつ安全にクリアしようと思うと、一番確実なのは今見えている所なのではないかと思ったこともある。
だが、これもそうではないことが、数回の実験によって判明してしまった。
先ほどの湖の上に瞬間移動するようなことは、目に見える所にする場合には起こらない。
しかし、瞬間移動した次の瞬間にその場所に何かが来ることが絶対にないということはない。
回りくどい言い方になってしまったが、例えば目に見えるあそこに瞬間移動する。
瞬間移動した次の瞬間、その瞬間移動した場所に車が突っ込んでくるとか、自転車が突っ込んでくることだってあるのである。
しかしそんな安全確認をしていては、瞬間移動のうまみがどんどん減ってしまう。
さて、まとめてみよう。
①見えない場所に移動する場合は、そこの状況確認をきちんとできるか、誰かにしてもらわないと、恐ろしくて瞬間移動できない。
②見えている場所に移動する場合は、周囲の安全確認をきちんとしなければならない。
前者の場合は協力者ないしは協力体制が必要となり、それって最早超能力ではないような気もするが・・・・・
そもそも現代社会において超能力者であるなんていうことは、それこそ大っぴらに言えないわけだから、協力者なんてそうそう出来るわけもなく・・・・
後者の場合は見える範囲で瞬間移動を繰り返し使えばある程度有効な移動手段になりそうである。
ところが、ここにもまた落とし穴があったのだ。
ん?落とし穴の話じゃなくて条件の話だよな。うん。
どうも瞬間移動の実験を繰り返しているうちに、一応体力を使うことが分かった。
○ビル二世も、超能力を使い過ぎると体力が落ちていくことで、ヨ○に負けたり、それを利用してヨ○をやっつけたりしてるからな。
おまけに遠くに瞬間移動することより、回数を瞬間移動する方が、より疲れるようなのだ。
その度合いは以下のような計算式にまとめられるのではないかという結論に至った。
疲れ = (回数×回数)× 移動距離(単位:10km)
例:1回 1㎞移動 = 1×1×1 = 1
3回 10m移動 = 3×3×1 = 9
1回 90㎞移動 = 1×1×9 = 9
この例から分かるように、3回10m移動するのと、90km移動する疲れが一緒なのだ。
これだけの様々な条件があって、とどめを刺すのは、俺の瞬間移動の条件設定ではなく、超能力者が現代に生きるという制約があるという点だ。
一番は先ほども言った通り、現代において超能力者はその存在を秘匿しなければならない。
知られてはならないのである。
瞬間移動できることが知られれば、研究所でモルモットコースなんていうのが確実な気がする。
さて、ここまで書いてきただけでも数多くの条件や制約があることが分かってもらえるだろう。
超能力者になっても喜べるのは最初だけ、とても実際に使える能力ではないのだ。
まあそれでもないよりはあった方がましなことも多い。
利用する条件設定さえ間違えなければ、使える能力だ。
だが、俺が夢見た超能力者には、程遠かった。
〇ビル2世なんか、夢のまた夢だ。