好き
この作品は『べたべた恋愛同好会』の作品です。
バスの中はうちの学生と会社員でいっぱいだ。その中で笑い声や昨日のドラマの話などが絶え間なく飛び交っている。俺の隣にいる黒いマフラーを巻いた久保田淳士こと、あっちゃんも例外ではない。
「昨日のラスト良かったよな。俺泣いちゃったべ」
どうやら今流行りのドラマようだ。俺は窓から外の景色を見る。……そろそろか。
「俺は見てない」
そう言うと、あっちゃんは宇宙人でも見るような目で見てきた。何もそんな目で見なくても。
「お前、見てないの?」
あっちゃんは溜め息をつきながらそう言うと、「いいか?」と言ってドラマのストーリーや出てる役者などの話をし始めた。俺はバスの乗車口を見ていて、あっちゃんの話をこれぽっちも聞いてない。それにはちゃんと理由がある。
バスが止まり、乗車口が開いた。そこに女の子が乗り込んできた。艶の良い黒く長い髪、その髪には赤いヘアピンが二つ付いている。小顔で真っ白な肌、赤縁の眼鏡をかけ、レンズの奥にある奇麗なビー玉のような瞳を持つ女子、里塚亜希。
里塚は近くの吊り革を握り、いつものように雪が降る外を眺めた。俺は里塚が好きだ。出会ったその日から。
バスが再び動き出し、学校に近づいていく。隣ではあっちゃんがまだ語ってるいるが、俺は全く聞いてない。はっきり言って俺には関係のない事だし、それにあのドラマは好きじゃない。
「って、おい。聞いてんのかよ?」
あっちゃんの声ですぐに里塚から目を反らし、振り返るとふて腐れたあっちゃんの顔が真ん前にあった。
「聞いてなかったろ?」
「あっ、うん。……悪い」
あっちゃんは溜め息をついてからまた最初から話し始めた。今度はチラチラ俺を見ながら。あ〜、早く学校に着かないかなぁ〜。
○
学校に着いて自分の教室に入ると、黒板にはクラスの女子が書いたと思われる『冬休み』という字と絵などが周りにあり、鮮やかになっていた。いつも授業で訳の分からない公式やだらだらと書かれる文字しか書かれないだからだろうか。妙に新鮮だ。
「翔太」
呼ばれて振り返ると、あっちゃんが不気味な笑みを浮かべていた。
「可愛い女子がお見えだ」
あっちゃんは俺に小声でそう言うと、肩をポンと叩いて自分の席に行ってしまった。俺は心臓が高鳴るのを感じながら、ゆっくり教室を出た。
廊下に出て、すぐ横にその女子はいた。
「あっ。ふ、深谷君」
見るといつもバスで見ていた俺の大好き里塚が、俯きながら俺の名前を呼んだ。な、なんで里塚が。
「あっ、あの。俺に……用なの?」
若干震えた声で言うと、里塚は黙って頷いた。
「……ほ、放課後……六組の教室で待ってます」
「え?」
聞き返す間もなく里塚は俯きながら、背を向けて走り出してしまった。俺は妙にドキドキしながら里塚の後ろ姿を見ていた。すると、
「なぁ〜に顔赤くしてんだよ」
突然あっちゃんが後ろから腕を回してくる。俺は驚きのあまり体が固まってしまった。それを見たあっちゃんは笑いながら前屈みになった。一体どこが面白いのだろう。
「何がそんなにおかしいんだよ?」
「別にぃ〜」
あっちゃんは笑みを崩さずそう言うと、俺の肩を叩いた。
「おい。久保田、深谷。早く教室入れ〜」
そんな事をしていたら、後ろから担任の阿部先生が呼んできた。俺らは言われた通りに教室に入り、自分の席着いた。阿部先生も教室に入り、教壇に上がる。
「きり〜つ」
俺の前に座る日直の前原望が言うのを合図にクラス全員が立ち上がる。
「おはようございま〜す」
前原の続いて一礼し、バラバラと席に着く。
「今日は終業式だ。これから体育館に行って終業式をして終わりだ」
そう言うと阿部先生は、俺らを廊下に並ばせ体育館に向かう。俺はそんな中、里塚の事が気になってかなりドキドキしていた。
○
「あぁ〜、疲れた。校長の話わや長いんだよな」
終業式が終わり、教室で帰りの支度をしているあっちゃんがそう言った。俺は取り合えず頷いたが、今はそれ所じゃない。ついに放課後だ。一体何があるのだろうか。
「あ〜、しょ…………そっか。用事あるんだもんな」
あっちゃんがまた不気味な笑みを浮かべながら言うと、周りにいた友達が「なんだなんだ」と群がってきた。俺は一応ないとは言ったが、あまり信じてはもらえなかった。
「じゃあな翔太」
あっちゃんと他の友達が手を振ってきたので、俺も手を振る。
「うん。じゃあ」
そう言ってみんなと別れたあと、大きく深呼吸してから六組の教室に向かった。廊下にはちらほらと生徒が残っていて冬休みの予定の事などを話している。
六組に近づく度に心臓が高鳴ってきた。なんとか落ち着かせようとするが、なかなか落ち着かない。
そうこうしている間に六組の教室の前まで来ていた。教室からは声が聞こえない。誰もいないのだろうか。取り合えず俺は勇気を出して教室の中に入った。
教室の中は静かで、その中に里塚はいた。窓側に取り付けられた手摺りに両腕を乗せて、外を眺めている。俺はゆっくりと里塚に近寄ると、
「あっ! ふ、深谷君!」
俺の存在に気づいてかなり驚いたようで、机にぶつかった。そんなに驚かなくても。
「あ、あの。大丈夫?」
「え? あっ、うん」
そう言うと黙って俯いてしまった。教室が静かになり、廊下からまだ残っている生徒の笑い声が聞こえてくる。気まずい。率直にそう思った。
「あっ、あのさ。俺に何か用?」
そう言うと里塚は思い出したようで、はっと顔を上げた。
「あっ、うん。えっと……その……」
里塚は俯いてまた黙り込んでしまった。その時、俺はある事に気がついた。告白するチャンスだ。一度深呼吸してから、口を開いた。
「大好きです」、「大好きです」
俺と里塚は一瞬、瞬きしてからお互いを見つめ合った。すると、里塚は少し微笑み俯いた。
「俺、里塚と……初めて会った時からずっと……好きだった」
一年前
空からは激しい雨が降り、地面に当たって小気味よい音を立てている。俺はその中を鞄を頭の上にまで持ち上げ、雨を凌ごうとしていた。
「なんでこんな日に限って雨降んだよ」
そんな事を言ってても一向に止む気配がない。俺は仕方なく、近くにあったマンションの入口で雨宿りをする事にした。だが、そこには既に先客がいた。
うちの学校の女子だ。
その子はピンク色のタオルで顔を拭っていた。黒く長い髪が白い肌にぺったりと張り付き、シャツは濡れて中のブラジャーが薄らと姿を現している。
俺は視線をすぐに空に移した。さすがにあれをずっと見ているのはまずい。それに俺もシャツが濡れて薄らと肌が見えてる。頼むから早く止んでくれ。
「あっ、あの」
後ろから声がしたので振り返るとあの子がタオルを差し出していた。
「よ、良かったら……使って下さい」
その子は顔を真っ赤にしながらはっきりとそう言った。
「ちょっと……汗臭いかも」
そうつけ足した。
俺は躊躇いながもそれを受け取り、取り合えず髪だけを拭いた。すると、
「あっ」
再び声がしたので振り返ると、その子は鞄から奇麗に畳まれた折り畳み傘を握っていた。俺は何故かおかしくなり、吹き出してしまった。すると、その子も八重歯を見せながら笑った。
俺はその子にタオルを返し、その子は傘を広げ雨の下に出た。そこで立ち止まり、振り返ってこう言った。
「……入る?」
その子の名前が里塚と分かったのは後になってからだ。俺は何故かあの日の事が頭から離れず、ずっと悩んでいた。だけどすぐに恋をしたと分かった。
俺は里塚が好きだ。
「うん。あ、あたしも。深谷君と会ってからなんか深谷君の事ばっかり考えちゃって」
里塚は恥ずかしいそうに俯きながら言った。俺もそれを聞いて俯いた。
驚いた。まさか両想いだったなんて。こんな事なら早く言ってたら良かった。
「あ、あの。あたしと……付き合って……くれますか?」
「も、もちろん! 大歓迎です!」
そう言うと里塚は涙を浮かべながら「良かった」と呟いた。俺はそれを見て思わず里塚を抱きしめた。
「俺……お前の事……絶対離さない」
そう言うと里塚は俺の胸の中で小さく頷くと、腕を背中に回し俺を抱きしめた。
俺と里塚はしばらく教室で抱きしめ合った。静かになった学校にチャイムが鳴り響いた。それがなんとなく祝福しているかのように聞こえた。
これを読んでくれている方、今回も本当にありがとうございます。
今回は時間が沢山あったのにストーリーが二転三転となっていってしまったので、ストーリーを作り直した結果、こんな作品になってしまいました。本当に申し訳ありません。それに前回と比べると明らかにべたが少ない。申し訳ない以外に言葉がありません。
第三回があれば今度こそ甘くべたで心温まる作品にしたいと思います。