夜の出航は格好いいぞ。眠いけどね。
壱岐の港に投錨することが決まったとき、ある海曹はもの凄く喜んだ。
なんでもこの時期、艦が出す光に集まるイカを取り放題だそうな。
見ると真鍮の棒先を尖らせ、それを曲げて同じ物を三本作り束ねて仕掛けをニコニコしながら作っていた。
だがしかし、漁協から文句が付いた。イカ釣りは禁止され、艦が出す明かりも極力抑えることとなった。
海曹は酷く落ち込んでしまった。私も取れたての透明なイカを食べ損ねた。
そんな私達を「まきぐも」乗せて一路壱岐へ、途中第三郡と合流して大艦隊となり広い湾内へと入っていった。
入って驚いた! 海底の岩が見えるのだ、白い砂の上に大きな岩がゴロゴロしている。なんて透明度! 流石としか言いようが無い。艦低が岩にぶつかるんじゃないかとヒヤヒヤした。
順番に投錨して周りを見ると、ここはトラック島か? と思うほど護衛艦が勢揃い。雲と月、波は居なかったが他の隊も多数いた。
早速内火艇で上陸だ。
だが浮き桟橋が一つしかなかったので、そこは大混雑した。
艇が浮き桟橋に付くと又その隣に艇が着いてー、と言う具合に次々と重なり最初に付いた艇がなかなか出発出来ない。
それでも何とか上陸員を丘に上げたのだが今度は酔っ払った乗員を迎えに行かねばならない。
あ、そうそう、私はここで心霊写真を撮ったのでした。桟橋で撮ったのですが画面イッパイに七色の線が乱舞している写真です。まったく意味が分かりません、因みに写真は無くしてしまいました。
話を戻して、暗いのでどれがどの艦の艇か分かりません。
「まきぐもはこっちですよー」
「もちずきはこっちだぞー」
わいのいわいのやってると、ズダーーン! と何かが落ちる音がしました。
「い、痛え! なにしやがる、俺は〇〇の航海長だぞっ!」
どうやら酔っているのでノロノロと艇に乗ろうとしたら後ろから誰かに押されたようです。
結局誰が押したのか分からなかったのですが、私は知ってます、私は見ましたよ山崎士長(海曹とは違う)チッ、と舌打ちをしてスススー、と離れていくのを。
そんなこんなで上陸員を収容して今度は当直です。
普通は玄門に立つのが当直なのですが、夜、投錨中は艦橋に上がり羅針盤を見て艦が移動してないか、どの方向を向いているかを記録するのだが、この時他の艦が探照灯を点灯させていた。
なんでこんな時間に? と聞いてみると、なんでも内火艇がコースを誤って漁網をスクリューに巻き込んだらしい。
なるほど、光の先を見ると艇が照らされている。
「今他の艇が助けに向かっているから、直ぐに脱出できるだろう」
と当直海曹は言っていたが、その助けに行った艇も漁網に絡まってしまった。
結局私の当直の間、脱出することができなかったので、その後どうなったかは分からない。
出航は朝の暗いうちに行われた、海底が砂だったので錨鎖が汚れなかった。
出航するときも格好良かった、夜空を背景に幾つものシルエットがゆっくりと進み出す。
ラッパも鳴り響く、この時マストの天辺に青い光が点滅する、速力灯だ。
「あさぐも1戦そーく」
「よし、こちらも両舷第1戦そーーく」
次々に速力を上げて湾を出て行く。因みに1戦速は、ツーーー、タン、と点滅する。




