最後の航海。その二
「3」「2」「1」「ドッカーン」
「わーい」「なぜなにじえいたい」
「なぜだ、最近ランクインしてない。ずっと四十位あたりをウロウロしてたのに」
「何かの間違いだったのよ、考えてみなさい私たちの掛け合いがランクインするなんて」
「そ、そうだな、少し魔が差したに違いない」
「あら、意外とあっさり認めたわね」
「まあね。気を取り直して最後の航海の続きを解説するぞ」
「えっ、まだ続けるの ?」
「まだ前半しか話してないからね。広報活動はたまに行く壱岐の福江港で行われたんだ」
「あー、あったわね。イカ釣りをしょうとして漁協からクレームを受けたり、夜中に内火艇が漁網に引っかかって動けなくなった所よね」
「う、うん、そこそこ。でだ、福江港でどんな広報活動をしたのかはぜんぜん覚えてないんだ」
「……うん、何となくそう思ってた。でもそれじゃ解説できないわよね」
「あ、でも佐世保に入港する時を少し覚えてるんだ。あの水道を通る、航海保安配置に付け。の号令で僕も甲板に出たんだ」
「えっ、配置は無いんでしょ。わざわざ行かなくてもー」
「うん、だけどこれが最後の入港かと思うと、出れずにはいられなかった」
「でも甲板にでても艦首に張り付けないでしょ、配置がないんだから」
「乗員じゃないからね、だから中部のアスロック甲板に出たんだ」
「その日まで何百回と出入りしてたのよね、どうだった ?」
「うん、涙が止まらなかった。なぜかこれが最後だと思うと……」
「思い出すわね、水道の横、山の中腹にある食堂に原付バイクで行って、カップラーメンみたいなラーメンを食べてから自分の名前を拡声器で呼んでほしい。って頼んでたわね」
「ハハッ、本当に懐かしいね。あの時は名前を呼ばれるのがブームみたいになってたんだよ」
「でも大変よね、出ていく艦もいれば入ってくる艦もいるのに、ずっと待ち構えて放送するなんて」
「あー、だから何だか嫌そうな顔をしてたんだ。おっと話がズレてしまった」
「あ、最後の航海の話だったわね。でもそんなに泣いて他の乗員に見られなかったの ?」
「大丈夫、もう暗くなっていたし何より航海保安中だったからね。それと乗員ですよー、みたいな感じに戦闘服装してたから」
「戦闘服装 ?」
「まずズボンの裾を靴下に入れてから上着もズボンの中に入れてベルトを締める、そして最後に帽子の顎紐を掛けて戦闘服装の出来上がり。あと後ろのポケットに軍手と艦の名前が入ったタオルをベルトに通したら完璧だっ」
「なるほどね、暗ければ乗員だと思われるわね」
「その後何とか涙を止めて補給所の皆が居る食堂に帰ったわけさ」
「目が真っ赤、とか言われなかったの」
「気を利かせてくれたのかな、それは無かったよ。よし、今日はここまで」
「それじゃあみんなー」
「「バイビー」」
ガタンと終わりのフリップが落ちてくる。




