雪なんです。
「……あれはどこの港だったのだろう」
「ちょっと、いきなり何を始めてるのよ」
「寒かったので北の港か冬の時期かもしれない」
「ほほう、私を無視する気ね」
「舷門当番。入港時四直制で当直海曹と一緒に舷門に立つことを言う」
「へえ、今週の話は舷門関係なのね」
「この時私は三直の当番だった。昼間は午後四時から八時まで、夜は午前二時から四時までの二時間だ」
「他の直の時間割も話しなさいよっ」
「……まきぐも時代では他の港でも夜は制服の着用を義務付けられていたが、しまゆき時代になって夜は作業服でよい、となった。なので制服の外套ではなくちゃんとした防寒着を着用できるのは嬉しい」
「あー、セーラー服じゃ中に着込めないものね」
「いや当時制服の下に着れるインナースーツという便利なつなぎのー……」
「あ、やっと返事した。それで、そのインナースーツてー」
「あーもう、たまには一人語りしようと思ってたのに、つい返事をしてしまった」
「私がいるのに無駄なことよ。それよりインナー、じゃなくて舷門の続きを話しなさい」
「わかったよ。当時買ったインナースーツが小さくて又に食い込んで大変だったんだ」
「だれがー ! フゥ。い、いいから舷門の話をして、お、お願いだから」
「分かったから笑いながら言うのは止めてくれ。えっと、三直だったことは話したかな、あれを見たのは夜の事つまり夜中の三時ぐらいだね」
「えっ、また怖い話なの ?」
「怖い話はもう品切れさ、まあ続きを聞いてくれ。冬場の舷門では小さな小屋を作るんだ、人が二人座れる程度の」
「そうね、ふきっさらしじゃ立ってられないものね」
「そこから見えた景色なんだけど、三百メートルぐらいだったかな。堤防の先に小さな街灯が立ってたんだ」
「ああ、赤と青が点滅しているやつね」
「いや普通のスポットライトみたいに斜め下を照らすライトだったよ。真っ暗な中そこだけがクッキリと見えていたんだ」
「珍しいわね、堤防の先端に。他の街灯はなかったの ?」
「うん、そこだけにポッン、てぇ感じに立ってたんだ」
「それが印象に残っている景色なの ?」
「いや、もう一つ要素が加わった。それが雪なんだ」
「雪 ? 雪ねぇ。よくわからないわ」
「雪は雪でもボタン雪てぇやつで、大きくてフワフワしたやつだった」
「真っ暗な中雪が降り始めたのね」
「そう、その雪は街灯のスポットライトの部分に入ると白く光り、とても、とても綺麗だったんだよ。そのうち激しく降り始めてね、これまたすごかった」
「へえ、それは私も見てみたかったわね。真っ暗な中にそこだけ白く輝く。ねぇ……」
「まあどこの港で見たのか全然覚えてないんだけどね。それじゃあ今週はここまで」
「来週はどうするの ?」
「うっ、今から考える」
「こりゃダメだわ。期待しないで待っててね。それじゃあみんなー」
「「バイビー」」
ガタン、と終わりのフリップが落ちてくる。




