霞に浮かぶ白灯
これは遠洋航海の時のお話です。
遠洋航海、略して遠航は年に一度コースを決めて練習幹部を乗せ約半年間外国を廻る航海です。
この時「まきぐも」が参加したコースは太平洋一周コースと呼ばれ、横須賀からハワイ、フィージーオーストラリア、インド等を廻るコースです。
事件は横須賀からハワイへ行く途中のミッドウェー付近で起こりました。
まずこの事件を話す前に艦内の事を話さなければなりません。それは夜に甲板上に出没する白い影の話です。
最初は艦橋当直海曹の堤海曹の話です。
堤海曹はヒトフタ、マルマルからマルフタ、マルマルまでの艦橋ワッチに付いていた所、月明かりの下前甲板にある三十一番砲塔に白い影が隠れるのを見たそうです。
堤海曹は急いで前甲板に向かいます。何故なら以前堤海曹は酔っぱらって下着姿で夜中甲板に出で海に落ちそうになった人を助けた事があるからです。
「また下着姿でウロウロしてやがる!」と前甲板に出てみるとー、だれも居ない。
当時このような白い影を見た乗員が数名おりました、その一人が二分隊の信号長です。
これまた夜に旗甲板(艦橋の後ろ)点検していた所、暗い中白い影がマストに抱き着いていたそうです。驚いて持っていたライトで照らすとその影は消えてしまったそうです。
この話をしてくれた信号長は最後にこう語ってくれました。
「今の作業服は青だが昔は白だったんだ……、連れて帰ってほしいんだろうなぁ」と。
さて、次は本命の白灯の話です。
あれはたしかミッドウェー慰霊祭の前後だったと思います。
「当直士官日没になりました、灯火管制令します」
「うむ、灯火管制」
「了解」
当直海曹がマイクに向かい「灯火管制」と令すると航海灯が灯ります。見張りはその航海灯がちゃんと点灯したことを艦橋に報告しなければなりません。
「艦橋ー右見張り、マスト灯ゾウゲン灯右舷灯異常なし。右視界内異常なし」
左見張りが左舷灯を、後部見張りは艦尾灯が点灯したことを報告します。この航海灯は艦がどちらの方角に進んでいるのかを示すための灯りです。
この時私は艦橋伝令でした。本当の配置は右見張りなのですが船が全くいない海の真ん中では見張りが楽なために当直海曹がー、いえ、私に経験を積ませるために代わってくれるのです。
そしてその海曹から無電池電話で報告が入ります。珍しく船が通りがかった様です。
「艦橋ー、右見張り」
「はい艦橋」
「白頭1、右二十度、水平線、動静不明」
「了解」
私は当直士官に同じように伝えると士官は自分の胸に下げている双眼鏡で白灯を確認して。
「CICへ、約右二十度、シー方位二百八十度、約一万の目標側的始め」
「了解」
「CIC艦橋」
私はCICを呼び出して士官の命令を伝えます。
私はてっきり、その目標アルファー目標と呼称する。ただいま側的中。と帰って来ると思ってました、でもー。
「方位二百八十度ですか? そちらの方には何もありませんよ」
「えっ!!」
これに怒ったのが報告した海曹です。
「なにやってんだ! ちゃんとレーダー見てんのか?!」
「無い物は無いんだ! そっちこそ星か何かを見間違えてないか!」
いきなり喧嘩を始めてしまいました。
で、私も艦橋の中から白灯を見ることができました、日没直後なので周りはじゅうぶん明るいです。しかし、水平線付近には靄がかかり白灯だけで船体が見えない様です。
これが北の方だったら水平線の向こうまでハッキリと見ることができるのですが。
そうこうしている内にかなりの速さで白灯は艦首の方へ移動します、そしてーふわり。
浮き上がるように移動したかと思うと、いきなり消えてしまったのです。
CICから「目標はどうなった?」と聞いて来ます。それに対し当直士官は。
「今のは……、UFOと言う事にしておこう」
と、のたまったのです。それをCICに伝えるのは私なのに。
「えー、CIC艦橋、先ほどの目標はー、UFO」
「UFO? ……そうか」
よく納得してくれました。しかし、私はUFOとは認めません! あれは幽霊船ではなかったのでしょうか?