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チョン。

 ユラユラ、ユラユラ。体が前後にゆっくりと揺れている、……懐かしい。


 私は未だに痛む左腕を下にして寝ていた。


 懐かしいと言うのは艦に乗艦していた時、航海中は波に揺られて丁度この時の感じに似ていたのだ。


 でも……、何か違う。肉体はジッ、としているのに幽体がユラユラと揺れている感じだ。


 これで貯水タンクのザザーン、ドドーンと水の音が聞こえたらいいのになー。と思っていたらー。


 いきなり猫が布団の上に現れ、何かを追いかけ回すように私の周りを走り回った。布団の上からの感触でそんなには大きくない猫だとわかる。


 えっ? と思った瞬間金縛りである。


 金縛りには以前頻繁にかかっていたので解く方法も心得ていた、指先からゆっくりと動かしていくのである。


 しかし、今回の金縛りは小指一本動かすことができずに焦った。


 猫が頭の上まで来た所でフッ、と気配が消えると体も動くようになった。


 どうやら私の部屋には見ることができない猫がいるらしい。餌代とかトイレの掃除しなくていいからラッキー、とは言えない。


 ただ布団の上を走り回り、見ることも撫でることもできないなんて。


 この猫の正体は……、そうだ、チョンかもしれない。


 チョンとは方言で猫、を意味する。道端で猫を見かけると。


「お、チョンがいる。チョンチョン、おいで~」と話しかけるのだ。


 チョンとの出会いはもう二十年前だ、朝方麻雀の帰り草むらでニーニー、と声がする。ん? と思いニャーニャー、と呼びかけると子猫が走り出してきた。


 黒トラ猫であった。人に慣れているようでニーニー、となきながら私の後を付いてくる。


 仕方なく車に乗せて連れ帰ることにした。


 家には元々メスの三毛猫がいた、昔の田舎らしく放し飼いだ。当然子猫をポンポン産む、一度私の布団の上で産んだことがあるぐらいだ。


 そのたび父が子猫をどこかへ捨てに行っていた。


 子供の頃は川で遊んでるとたまに子猫と出会う、この子猫も捨てられたのだろう。子供は残酷でそんな子猫を泳がせたりして遊んでいた。


 親猫も自分の死を悟り、どこかに消えていた。そういう物だと教えられていた。


 そして我が家に子猫が来た、部屋に入れたのだが朝方私の布団に乗り死んでいないかを確かめるように前足で唇を踏み踏みするのには困ったものだ。


 しかし、大きくなり親猫より少し小さいぐらいに成長した時異変が起きた。


 息を浅くそして早くしている、見るからに体調が悪そうだ。普通なら動物病院へと連れていくものだろうが、田舎なので動物病院を見たことがない。


 犬や猫は体調を悪くしていても基本放置なのだ、だいたい自然に完治していたので私はそのままにして会社へと仕事に出た。


 戻ってくると猫は死んでいた。


 母がすでにどこかに埋めてしまっていた。


 そしてチョンは夢に出てきた、私の顔を踏み踏みするのだ。


 もしかするとまだ私の周りにチョンはいるのだろうか? そして何か悪いものを追い払っているのだろうか。

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