内火艇、ああ内火艇、内火艇。
実はずっと引っかかっていることがある、それ内火艇のことだ。
ある日私は「しまゆき」で内火艇の操縦をすることとなった、元々「まきぐも」で内火艇の艇長をやっていたのでお手の物、と言いたいが「しまゆき」の内火艇は新型になっていた。
「まきぐも」の内火艇は後部に立って後ろ手に舵を持ち、笛でエンジンの調節を指示する。対して「しまゆき」の内火艇は中央に立ち、舵輪とレバーで操縦する。
なので予め「まきぐも」の内火艇より舵のききが悪いと聞かされていた。なので私は「しまゆき」に横付けするときは充分に余裕を持ち、後ろからアクセスしようと考えていた。
私が操る内火艇は「しまゆき」の艦首方向から接近して、後方で百八十度回頭して「しまゆき」の舷梯に横付けをするミッションを開始した。
私は「しまゆき」を右側に見て距離を取る、「まきぐも」の内火艇なら艦を真横に見たら回頭を始めるが、この艇は舵のききが悪いらしいのでもう少し通り過ぎてから回頭を始めようと思っていた。
がっ、横にアドバイザーとして乗っていた海曹が回頭しろ! と指示を出した。
私はまだ早い、と思ったが海曹の指示通り舵を切った。
そして見事に失敗した。回頭が間に合わず「しまゆき」の横に突き刺さるように付いてしまった。
やはり舵のききがハンパなく悪かった。そして周りの皆は……あ~あ、やっぱりね。となってしまった。
お、俺が悪いんじゃない、俺はチャンと後方で回頭しようと思ってたんだーー!
その後私が内火艇を操縦することは二度と無かった。
ううっ、チョコッとでいいからあの時に戻ってちゃんと操縦したひ。




