ジャイア~ン
私達は浮き桟橋からゆっくりと底が見えない緑色をした海の中へと入っていく、平泳ぎで海を泳いで先ず感じたのがー「タマタマが痒い」である。
なぜか痒い、それと海の中は暗く少し恐怖を感じたが、毎日泳いでいると慣れた物で水の中が楽になる。
走るよりもずっと泳いでいたいぐらいだ。
顔を水につけて真下を見ると三メートル下を大量の白いクラゲが漂っていた。
遠泳は午前中に始まり夕方に終わる、なので昼食も海の中だ。どうやって食べるのかと言うと・・・・・・どうやってたかな? えっとー、教官達はカッターで私達の横に付いていくのだが、そのカッターの横に竹竿が海面に向かい取り付けられている。
私達はその竹竿に代わる代わるぶら下がり、配られるおにぎりを頬張るのだ。塩味がキツいが中々美味しい。
そしておやつは氷砂糖だ、教官達はまるで池の鯉に餌をやるように氷砂糖をばらまく。
私達はこれを奪い合い、それが沈まないうちに拾い上げ口へと放り込む。
これも甘塩っぱくて美味しい。
そして遠泳の終わりは「すべり」と呼ばれてる斜めになっている所から這い上がる。
這い上がって直ぐは体が重い、立とうとしても立てない、腰が疲労で立たないのだ。
暫くは四つん這いで進みその後何とか立ち上がる。
遠泳訓練の時こんなこともあった、いじめっ子が居たのだ。
遠泳にはゴーグルが必要だ、ゴーグルが無いと目が開けられないのでずっと泳いでる間顔を上げてないといけない。
いじめっ子は自分でゴーグルなんか買わない、取り上げれば済むことだからだ。
私は取り上げられないようにわざと目の間の位置をずらしていた、なんせ私はこれが無いと溺れて死んでしまうかもしれないからだ。
私の狙いは的中し、いじめっ子は私からゴーグルを奪わなかった。
しかしゴーグルは必要なので違う者からゴーグルを取り上げた。
そいつは私より泳ぎが苦手だったので周りの者は皆こいつからゴーグルは取り上げない方が良いのでは無いか、と思ったが言えるわけが無い。
案の定そいつは列からはみ出して明後日の方へ溺れながらも泳ぎだした。
慌てて教官が助け出し事なきを得た。
教官が、いつもは泳げたのにどうした? と聞くがいつものゴーグルを付けていないことには気付かなかった。
あとこのいじめっ子は終業時江田島を離れるとき、私が持っていたポータブルカセットデッキも取ろうとしたが、なんとか誤魔化してカセットを守った。
全く、別々のバスに乗るのに「後で返すから貸してくれ」なんてよく言えた者だ。まぁジャイアンだから仕方が無いか。




