ケツが皆黄色くなる。
約三ヶ月の教育隊訓練の後半になるとカッター訓練が行われる。
その前は走る、ひたすら走る。
一、そーれ、二、そーれ、三、そーれ! 一二三四、一二三四。をひたすら繰り返す。
口には風邪など引いていないのに全員マスクだ、今の使い捨てマスクではなくガーゼを挟む布マスクだ。これが苦しいのなんのって、さらに走っている間最後尾の者が先頭までダッシュするを繰り返す。
話を戻してカッターとは短艇のことで、片方五人ずつ並んで大きなオールを漕ぐ訓練だ。
艇長は班長で後部に座り舵を取りながら号令を掛ける。
力がある者は後部近くに陣取るのだが、私はか弱いので真っ先に右の一番、一番前に陣取った。
カイの長さはどれぐらいだっただろうか、三メートル以上あったかな? 先端が細くなっていて右手で下から掴む、左手は上から乗せる。
進行方向とは逆に座り「用意」の号令で手にしたカイを前に突き出す。
すると平たい先端は進行方向に向く、そして「前へ!」の号令で海面にオールを入れて思いっきり漕ぐ。
漕ぎ方は、両手を前に着きだした状態で全体重を乗せたまま寝そべるように後ろへ倒れ込む。
完全に寝そべる前にカイを引いて起き上がる、を繰り返す。
これを繰り返すことによりカッターは前へ進むのだ。
ただ、これを繰り返すことによってある事が起こる。
そしてそのある事は他の皆より一番早く私の身に起こってしまった、それはー。
「尻の皮がむける」のだ。
なぜか私の尻の皮が一番最初にむけた、私の尻の皮が特別薄い訳では無い、たぶん漕ぎ方が良かったのだ。と、思う。
訓練が終わった日の夕方、班長が「伝統的な薬がある」と言って黄色い液体を持ってきて塗ってくれた。
「伝統的」は「伝説的」に染みる薬だった。
ケツを出したまま飛び上がり、居住区内を走り回ってしまった。
何だよその薬、今も使ってるよな? 伝統的なんだからいくら染みるからと言って途中で止めたら怒るぞ。苦痛は全員で味会わないと、ねえ。




