飲酒運転、ダメ、絶対!
私はお酒には強い方かも知れない。
記憶を無くしたことも無いし、ましてやお酒で失敗した事なんて・・・・・・、ありました。
「まきぐも」時代はお酒なら何でも持ち込んで良かった、もちろん航海が一週間以上続く時だけ。
それは一週間に一度海の上、航海中でも休みがあるからです。その日お酒が解禁される。
「しまゆき」時代ではビールのみになっていたが、今はどうなのだろう。
兎に角、お酒に関しては昔の方がおおらかだった。
先ずはその「まきぐも」時代のこと、遠洋航海中、水雷士と砲術士が漫才師の様にうまく艦内を盛り上げていました。
休みの日は班ごとに飲み会が始まりますが混乱も無く、穏やかな「酔い」が艦内に充満します。
なので砲術士や水雷士は各班呼ばれて、相当飲まされた様です。
夜の艦橋は灯火管制がしてあり机の周りをカーテンが囲み、暗い中所々にあるメーターや羅針盤が淡い光を放っています。
当直時間になって水雷士はフラフラと艦橋に上がってきましたが、全然使い物になりません。
とうとう航海長に「仕方無い奴だ、下のCICに行って水かポカリを飲んでこい!」と言われて又フラフラと階段を下りていきました。
私は水雷士に少し同情します、真面目に各班を回ればそうなって当たり前です。
ただ水雷士だけでは無く私もこの時舵輪を握っていましたが相当酔ってました、酔っ払い運転です。
舵輪の正面には大きな羅針盤のメーターがあり、舵輪の位置を示す針がある横に細長メーターの上に方位の示す数字が表示去れています。
当直士官に「二百三十度ヨーソロー」と言われると私は舵輪を動かして、その度数に合わせ「ヨーソロー二百三十度」と言うと。
当直士官はそれを羅針盤で確認してから「ヨーソロー」と言います。
タマに「基本進路二百三十度、〇〇かぜの後ヨーソロー」と言う号令があります、これは前を走る護衛艦の後ろを付いていかないといけません。フォーメーション1(ワン)というやつです。
私はこれが出来ませんでした、どうしても前を走る護衛艦に付いていけづズレてしまうのです。
いやぁ焦った焦った、基本進路にしても全然後ろに付けないんでやんの。
結局艦首と目の前の環境にある羅針盤を結んだ直線上に、前を走る護衛艦の艦尾を持ってくるようにすれば良いと発見したのです。
話を戻して飲酒運転です。
護衛艦だと何点ぐらい引かれるのでしょうか? 罰金は?
それはともかく、先程からトレース板の様に光る机に突っ伏している艦橋伝令の兵長の山崎士長がニタニタと笑いながらこちらを見ています。
「な、なんですか? 山崎士長」
「・・・・・・いいや、なんでもー」
士長がワシッ! と舵輪を掴みます。
「ない、よっ!」
カラカラカラカラーーー!
「山崎士長! なにをー」
士長が思いっきり舵輪を回したのです!
一気に酔いが覚めました、舵輪の針を見失ったのです。
艦橋の天井付近に設置されている方向舵の動きを示す針がゆっくりと倒れていきます、方向舵は動きが鈍いのです。
しかし艦首がゆっくりと回り始め、方向を示す数字はクルクルと回り始めます。
なんとか針を見つけて当て舵をして元のコースへと戻します。
当直士官はゆっくりと私を見て、またゆっくりと前方を見ました。