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とりあえず、質問を続ける。

「ねえ、僕の住んでいた街が模造都市であったというのなら。そこに住んでいたひとたちってどうなのかな」

僕は。少し掠れる声で質問する。

「お父さんやお母さん。街のひとたち。僕の友達。みんなコピーで偽者だったということ?」

(もちろん。いや、正確には大人たちだけが、偽者だったのだけれどね)

では。水無元さんは、本物なのか。

「それってさ。ようするに子供たちだけが本物の月見ヶ原から模造都市に連れてこられた、てことなんだよね」

(正解)

「でも」

僕は、まるで。でたらめなパズルをなんとか組み立てるような気持ちで問いかけを続ける。

「一体誰がなんのために、そんなことをしたというの」

(DPRKという独裁国家がある。いや、あったというべきなんだろうね。独裁者の死とともに、国家が崩壊した)

「つまり」

僕は息を呑む。

「その独裁国家が模造都市を造って。僕らを拉致して連れてきたと。でも結局国家が崩壊して維持できなくなったから、住民をみんな殺すことにして」

(まあ、ほぼ正解。でもゾンビ化しても死ぬとはいえないけれどね)

それでは。

「住民をゾンビ化して。何がしたかったの?」

(まあ、デモンストレーションというところか。崩壊した独裁国家の幹部が亡命するときに手土産としてT.ウィルスを持っていけるということを示したかったんだろうね)

「僕はその巻き添えになって死ぬところだったということ?」

(そういうこと)

僕は。はあ、と深いため息をつく。

「その模造都市はなんのために造られたか、てのは?」

(DPRKが造った模造都市は月見ヶ原だけじゃないよ。アメリカ、中国、ロシア、韓国、色々な国家の模造都市が造られていた)

僕は。あんぐりと口があく。

「なんで?」

(都市テロルの演習を行うため。君たちこどもを利用して、テロリストに洗脳して。本物の街でテロを引き起こすため)

おいおい。

「僕は洗脳されているの?」

(いや)

ふう、と安堵のため息が出る。

「まだ大丈夫なんだ」

(まあ、記憶操作は受けているよ)

ええっ! なんだってぇ。

(君はテロの演習をさせられていたときの記憶はないだろう)

なるほど。確かにそれはそうかもしれない。

(でも君はテロ兵器を手渡されて、何度か模造都市を壊滅状態に持っていっている)

げげげっ。

「ほんとなの?」

(よく、思い出してごらん。君にテロ兵器を手渡したのは。青い猫型ロボット)

僕はそのとき。

なぜか君が歩いていたホテル・カリフォルニアへいたる道を思い出す。

青い空。

青い海。

その青さと同じ、猫型ロボットがいて。

そう。確かに。破壊的な兵器を色々と。

「まって、まって。信じられない。僕の消されたはずの記憶。今断片的に思い出したけれど。でもそれだったらさ。DPRKは物凄いテクノロジーを持っていたんじゃないの?」

人力コンピュータはなぜか笑った気がした。

(どんなことを思い出したの?)

「ええと。瞬間移動装置みたいなのとか。ものの大きさを大きくしたり、小さくしたりとか。精神をコントロールするとか。そういうの使っていた」

(それらは完全だった?)

「うーん。ほとんど一度使うと二度と使えなかったような気もする」

(そう。テロ兵器はどれも不完全だった)

僕は首をふる。

「それにしたって」

(ああ。君の思っていることはもっともだよ。なぜDPRKはそんなテクノロジーを手に入れることができたのか? その答えがここにある)

「ここって」

(つまり採掘場)

僕は、へなっと腰砕けになる。

「ちょっと待ってよ。ここはお経を採掘しているのでしょう?」

(まあね。お経が何かが問題なんだよ)

「お経って。お経じゃない」

(ここで採掘しているお経はね。虚空菩薩の教えを記したもの。西欧ふうにいえば。アカシック・レコードを読み取ったもの)

なんだそりゃ。

「ア、アカシック・レコード? 何それ」

(世界が始まって以来の記憶。つまり集合無意識のレベルの記憶だよ)

判らん。

何がなんやら。

(まあ、前世の記憶といってもいい。超古代。今は失われた超テクノロジーが存在したのだよ。アトランティスやムーは御伽噺だけれど。本当に古代の超テクノロジーは存在した。その時代まで前世の記憶をさかのぼって書き記したもの。それが埋蔵経典だ)

びっくりだ。

よく判らないけれど、びっくりだ。

「じゃあ、人力コンピュータ。君はもしかして」

(僕は埋蔵経典の解読装置。この寺院は埋蔵経典をデコードする装置として、造られたもの)

うーん、でもね。

「判らないな。そもそも僕のコピーを作るっていうのがさ。超古代のテクノロジーを使わなくても可能でないと。君の存在の説明がつかないよ」

(ああ、N2シリーズは、超古代のテクノロジーじゃない)

がくっ、となる僕。

「でも、ひとのコピーを造るなんて」

(もともとはUSSRで開発されたレトロ・ウィルスを利用してN2シリーズは造られた。君が天性のテロリストであるということが判ったから。君のDNAをコピーして別の人間に写しこまれたんだよ)

おいおい。

僕が天性のテロリストだなんて。

いいたい放題だな。

「レトロ・ウィルスって」

(USSRの強制収容所では人権なんて無かったから。色々な人体実験が行われていた。そのひとつがDNAコピーをおこなうレトロ・ウィルス。それと、人間をコンピュータ化する技術が複合されて人力コンピュータである僕が生まれたんだ)

なんと。

人間をコンピュータ化するなんて。

「一体どういうことなの?」

(白痴のサヴァンと呼ばれる、高機能アスペルガー。左脳障害によってひとはコンピュータ以上の速度で計算をする能力を身につけたりすることがある。USSRでは、高機能アスペルガーのひとをコンピュータとして利用する技術があった。それをさらに進めて、人工的に脳障害をおこして高機能アスペルガーを生み出す技術を組み合わせ、さらにDNAコピーのレトロ・ウィルスがそれに利用されて)

うーん。

「まず、君が生まれて。そして、超古代のテクノロジーの解析が始まった。そういうことなの?」

(正解)

なんとまあ。

長い。

長い話の果てにたどりついたのは。

結局行き先の無い迷路みたいな場所だった。

いったい。

僕は。

「これからどうしようか」

(ねえ、ホテル・カリフォルニアのことは聞かないの?)

ああ、それねぇ。

「まあ、一応聞いておこうか」

(あれはね、元々君をテロリストとして養成していた猫型ロボットなんだよ)

え、どういうこと?

「あそこは、ホテルじゃん。なんであれがロボットなの?」

(四次元ポケットってあるでしょ)

「ああ、あったね」

(あれがようするにさ。人工的に造られた小宇宙でね。あそこは元々テロ用の兵器を開発する工場だったんだよ)

ふうん。

(でも、DPRKが崩壊したせいで猫型ロボットのメンテナンスができなくなって)

もしかして。

「暴走したってこと?」

(そうだよ。四次元ポケットが裏返って閉ざされてしまった。ねえ。ホテル・カリフォルニアへ行ってみなよ)

なんで。

「どうして?」

(多分。そこに行けば。進むべき道が見えると思うよ)

けれど。

「どうやっていくのさ」

(量産型N2が案内してくれる)

進むべき道ねえ。

多分、もう僕には選択肢がない。

じゃあ、まあ。行ってみるか。



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