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僕は。

このホテルの出口が開くのであれば、きっと空が割れたり海が消滅するみたいな大変動が起こるに違いないと思っていたのだけれど。

ドクター・キョンの死は、何も引き起こさなかった。

死体の折り重なる広間に、もうひとつ死体が追加されただけで。

あたりは静寂につつまれたまま、夜明けを迎えようとしていた。

僕は。

アリスに尋ねる。

「ねえ、何処に出口が開いてるわけ?」

「いや。多分エマージェンシーシステムが作動する条件が満たされていない。ドクター・キョンは死んだけれど、おそらくメインシステムが生きておりエマージェンシーシステムの作動を抑止している」

君は。

僕の傍らに膝をつくと、水無元さんの身体を僕から受け取った。

水無元さんは君の腕の中に納まり、そして君は口を開く。

「ねえ。オリジナルの僕。君がここのメインシステムを停止するべきだよ」

なんと。

僕の出番がきたとおっしゃいますか。

「なんで?」

「ここのメインシステムが、それを望んでいるから。それと、君自身が」

君は。

ゴーグルの奥から僕をじっと見つめる。

「失った大切なものを取り戻さなくちゃあ」

なんだって?

「僕が失ったもの?」

君は。

静かに頷く。

「そうだよ。君はまるでマンガの中に生きてるようだったのだろう?」

僕は頷く。

「君の現実。君の戦い。そして君の恐怖。それらが失われている。いや、それはオリジナルの君からとりあげられて、僕たちコピーに配布されたと言っていい」

なるほど。君はゴーグルの奥から小鹿のようにつぶらな瞳で僕を見ている。

「だから君は。最後の扉を開くのだよ。この閉ざされた場所を、再び世界へと解放するために」

僕は。

立ち上がった。

「で、どこに行けばいいの?」

君は。

静寂に包まれた、広間の奥深く。ドクター・キョンとナイトドレスの女が登場してきた扉を指差す。

「あそこから、地下の兵器工場へと降りていける。そして最も深いところにメインシステムがいてる」

「判った」

歩きだそうとする僕に、アリスが声をかける。

「これを持っていきなさい」

アリスは拳銃を僕に差し出す。N2シリーズが使うエレファントキラーほどではないにしても、それはとても大きな銃だった。

S&W M500。

僕はそれを受け取る。

そして僕は歩きはじめた。


僕は大きな拳銃を手に提げたまま、地下への階段を下ってゆく。

その階段は、闇につつまれていた。

冥界へ繋がって行くかのようなその階段を、僕は降りてゆく。

降りてゆく? いや。

奇妙なことに。

ああ、本当に奇妙なことにいつのまにか階段は昇りとなっていた。

この世界の中心を超えて重力が裏返ったかのように。

僕は闇に沈んでいるその階段を一歩一歩、踏みしめて上っていく。

長い。

とても長い階段を昇りつめて。

扉の前についた。

僕は扉を開き、外に出る。

蒼い。

哀しいまでに蒼く美しい空が、目に飛び込んできた。

僕は一歩踏み出す。

そこは砂浜だ。

そして、空には。彼がはりついていた。

青い猫型ロボット。

そのロボットは、腹のところで空にはりついている。

丸い頭がくるりと動くと、顔が僕のほうを向いた。

(遅かったね。随分待ったよ)

僕は頷く。

「これでも、頑張ったつもりなんだけれどね」


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