WiLL NoW HaLT
目に付くのは白を基調とした配色の小さな部屋の有様。
狭い室内には部屋角の隅にベッドが一床と、その周辺へ数多の医療機器。それらの発する妙に耳障りな電子音は、ひとつだけでも充分すぎるほど気分を害するに足るレベルのものであったが、さらに加えてそれぞれの機器から響く音が、初手から調和など考えていない調子でバラバラに気遣い無く重なり合い、極まった不協和音となって耳を通して生理的不快感をいや増してゆく。
ただ唯一、左右へと開き、すっきりとしたスライド収納式ガラス窓によって開放された部位だけが、そんな重苦しい病室の雰囲気と音響兵器の類かと疑う機器類からのストレスを幾分なり、和らげていた。
そして当然、ベッドの上には患者がひとり。
周囲、所狭しと配された様々な医療機器から幾本も伸びるチューブに体中を貫かれ、容易に意識の無いだろうことを推察させる、長期の昏睡で弛緩し、わずか開いた口元と瞑目した両眼、青白さを通り越して土気色へと変色し、薄水色の病衣の上からもひと目で分かる、肉という肉が削げ落ち、骨と皮だけとなるまで痩せこけた肉体。
もはや朽木としか見えない両手と両足には、血液透析のチューブや、PCPS(人工心肺装置)から繋がった脱血カニューラと送血カニューラなどが痛々しく突き刺さっている。
さらに。
鼻を突くのは独特の薬品臭と、それへ紛れ、薄れた糞尿、汗、血肉といったものが腐敗した臭い。
加えて、嗅覚の鋭敏な者なら嗅ぎ取れてしまうだろう、極めて微かに鼻腔の奥を刺激するよう香る死臭。
そんな病院特有の。
桂一はベッド脇へと身を置き、当の昏睡患者の顔を退屈そうに眺めていた。
と。
「どうです? 桂一さん。こうして改めて、自分を生み出した親……は言い過ぎとしても……生み出す元となった相手を、しかも自ら殺した相手の実体を実際、見てみた気分っていうのは」
本来ならばベッドの傍へと移動させて使われるのだろう、離れて置かれた見舞い人用の簡素な椅子に足を組んで座りながら、【NiGHT JoKeR】は珍しく大人しめの口調で桂一の背中へ向かい、問いかけた。
瞬間、背しか見えていなくとも分かるほどの大きな嘆息を吐くと、桂一は振り返りもせず、
「……気分、ね……」
いかにも気だるげな、しゃべるのもおっくうといった風の前置きをつぶやき、
「別に、これといったもんは無いな……ただ、強いて思うところがあるとしたら、俺はやっと自分ていうものの立ち位置を自分なり、把握できた気がする。そこだけは収穫だと感じなくもない」
「自分の立ち位置……その自分なりの把握、とは?」
「簡単さ」
間へ差し挟んできた【NiGHT JoKeR】の、質問を強調するよう加えられたオウム返しを聞きつつ、答える。
「俺は糸田洋介って人間の、『本当の偽物』なんだって、そう確信が持てた。それだけだ」
すると、それを聞いた【NiGHT JoKeR】は何やら納得したよう軽く振り上げた首をゆっくりと縦へ下ろし、鼻歌のような声をごく短いメロディへ乗せて漏らした。
きっかけ、急に揃えて持ち上げた両足を勢いよく床へと振り落とし、その反動でもって即座に椅子から立ち上がる。
惰性の如くなお、口を止めず続ける桂一の、どこか苛立った印象を受ける声を耳にしながら。
「ほんと、こいつもバカだよな……というかそれ以前、こいつも実はとっくに狂っちまってたのか……現実の体がこんな有様だってのに、こいつはそれでも生き返れると……いや、生き返りたいと……自分の体に戻りたいと、本気で願ってた。こんな体にだぜ? とっくに全脳死して……大脳、小脳、脳幹まですべて機能を失った、自発呼吸も不可能な、繋がれた人工心肺で形だけ生かされてるだけの、ただの死体にだ。どう考えたって生き返れるわけないだろうに……つくづく、バカだ。とうの昔、こいつが戻れる場所なんてあるはずがない。もう、死んでるんだからな。元から死んでる俺と同じく、もう……死んでるんだから……」
侮蔑と憐憫。共感と唾棄。
統一性も無く混沌とした感情で幾重にも彩られた心へ強く蓋をして、ただ文面だけの吐露。
それを聞き、果たして【NiGHT JoKeR】が何を思ったのか。何を感じたのか。そこは彼女自身にしか分かりえないことではある。
だが。
「それでも、理屈で不可能だと理解していても、求めてしまうものなんですよ。普通はね。理性や常識といった部分を超越して、まさしく本能的に求める……生物であれば生存欲求、人格データであれば存在欲求、とでも呼ぶんでしょうか。だけど……」
そこへ回答を乗せる【NiGHT JoKeR】の顔には、
「だからこそ、そういう甘ったれた希望を絶つことが、とても大切なんですよ」
これまで見たことも無い……少なくとも、桂一は一度として見たことの無い、ひどく生真面目で鹿爪らしい表情を表し、桂一へと向けた眼差しもそれに合わせたよう、厳しく研ぎ澄まされた輝きが満たされていた。
「それにしても結果的、最高の経過状態へ【eNDLeSS・BaBeL】は進化してくれましたね。始めこそ僕らが共通しておこなってきた『人間存在の完全な情報への変換』の基礎研究と、さらに個々人でおこなっていた異なる内容の応用研究を続けるため、【eNDLeSS・BaBeL】という最高の実験室を失うわけにはいかなかったというのが理由でしたが……当初の予定通り、単なる練兵用仮想訓練プログラムとしての機能が充分であると確認されてしまった時点で雇い主が民間委託した分の……つまり僕たちの持つ【eNDLeSS・BaBeL】と、余計なことを知りすぎた僕らをまとめて抹消に掛かった……まあ、殺されることについてはそもそもこんな非合法な仕事を引き受けようって決めたとき、覚悟は終えてましたからどうでもよかったんですが、そのせいで研究が滞ることは我慢ならなかったんです。これもまたもちろん、僕だけでなく二条さんを始め、研究員全員の総意として」
「……前にも聞いたが、自分の命よりもまず研究、か……つくづく、お前ら揃って狂ってるな……」
「というより研究者なんてものは例外無く、どこか狂ってなくちゃ務まりませんよ。さておき、話を戻して続けましょう。自分たちの欲しかった研究成果を得られた雇い主はまず、【eNDLeSS・BaBeL】の消去から始めました。日本にあるメイン・サーバも、アメリカ本国にあるサブ・サーバも、すべて閉鎖して。けど、そういった手段は容易に想定できていましたし、対抗策も用意していました。僕は研究の最初期段階から【BaBeL PRoGRaM】が人間の脳へ致命的な負荷をかける問題を知っていた。そして知った上でその問題を放置したまま発展させた。【eNDLeSS・BaBeL】へと、ね。現実とは大きく異なる情報負荷によって、高確率で脳機能障害が頻発することを見越し、今度はそれを治療するための【D.N.N.D】を開発。【eNDLeSS・BaBeL】を存続させるのに必要なサーバを用意する必要はあるものの、これだけの規模のサーバをそこいらで調達したんじゃ、すぐに雇い主へ見つけられて始末されてしまう。だから【D.N.N.D】っていう発想へ行き着いたんです。連中だってまさか治療機器の中にサーバが仕込まれていて、しかもそれが数百、数千、数万人単位のシステムにまで膨れ上がろうだなんて考えつきもしないだろうと思いましたし、もし仮にそれを見破られたとしても、気づかれたころにはもう回収不可能な数まで【D.N.N.D】は普及すると踏んでいた。そして実際、普及してくれた。今や、僕らの【eNDLeSS・BaBeL】を消し去ろうとするなら、情報管制不能なレベルの大量殺戮……軍人、民間人を問わずの大量虐殺を実行でもしない限りは無理。つまり不可能ということ。連中、いつになるか知りませんが、事実を知った時は歯噛みして悔しがるでしょうね……本来であればこの【eNDLeSS・BaBeL】……【D.N.N.D】によって構築され、現実世界へ被せ合わされた仮想世界は、為政者にとって夢のような代物だというのに、それを己の無知から放棄したわけですから。実に、実に滑稽です……」
「……為政者の……夢?」
「考えても見てください。【D.N.N.D】を埋め込まれた人間はその自身の人格データを自動的に【D.N.N.D】の中へと蓄積しています。そして死亡すると同時、そのデータを他の【D.N.N.D】へ拡散送信する……肉体を持った現実の人間が死ぬと、即座にその人間の人格データは【eNDLeSS・BaBeL】の世界へ解き放たれる……すなわち、人間ひとりひとりをデータとしてバックアップしているわけで、かなり乱暴な考え方ですが、もし人格データを不完全ながらも『人間の複製』だと捉えたとしたら、これはもう一種の不死、と考えることも出来るのでは? 肉体的な寿命に寄らず、無数の【D.N.N.D】によってバックアップされることで人格データは破損・欠落などのリスクを限り無くゼロに近づけ、その存在を半永久的に保障する。上手く使えば、不死の権力者による半恒久的なディストピアを生み出すことだって出来るってわけです。なのに奴らは目先のつまらない成果に目がくらんで、こんな奇跡みたいなチャンスをドブに捨てた。たとえ幻想の域を出ないとしても、『永遠の生命』なんて夢物語みたいなチャンスを。ですから僕は滑稽だ、と言ったんですよ」
「……なるほど」
長く【NiGHT JoKeR】の話を聞いた桂一は、直立したままの姿勢を続けて張った肩をほぐすよう、しばらく首を後ろへ強く反らせると、バネ仕掛けの如く顎を引き直し、ほっと漏れる息と同時に得心の声を上げる。
艶も無く、ふやけた洋介の顔へ再び視線を向けながら。
すると。
「そこで、貴方ですよ桂一さん。結果的にこそ、そんな為政者の介入は幸運なことにありませんでしたが、人間が『死なない』なんてこと……まして、『生き返る』なんてことは、ありえない……のではなく、あってはいけないんです。人が生物という曖昧な枠組みの中にある限り、人はその存在の曖昧さゆえ、自由にオカルティックな夢へと逃げられてしまう。実存性の不確実さゆえ、手前勝手な夢に酩酊し、溺れ、覚醒しながら何も見ず、何も聞かず、何も知ろうとしなくなる。望まない現実からただ目を背け、耳を塞ぎ、思考を止めてゆく……『不死』なんて、実体はそんなものです。誰もが恐れる死という現実を腐らせ、消滅という現実を腐らせ、無意味な恍惚に意識を逃がし続ける最悪の害毒。なら、どうすればいいか。事実として半ば『不死』がまかり通っているこの【eNDLeSS・BaBeL】の世界を、その害毒からどう守ればいいのか。その答えこそが、まさしく……」
改めてまた口を開き、桂一の背へ向け語りを続け始めた【NiGHT JoKeR】の、発しようとした言葉を代弁するよう、
「……【DeaD MaNS HaND】」
まるで、
すべて理解したとばかりの落ち着いた口調でたった一言、その名を声へ乗せ吐き出すや、桂一はやおら踵を返すと、背後で立つ【NiGHT JoKeR】へ、身を斜に構えた格好で目線を送る。
直後。
「そういうことです」
頷く代わり、両の瞼をそっと開け閉めして返答する彼女へと。
「原則、【eNDLeSS・BaBeL】内の人格データはすべてがバックアップを取られています。もし何らかの原因で死亡判定を受けても、そこまでのデータが消去されるだけのこと。何度でも複製され、蘇ってくる……無論、その際にはかなり大幅な記憶削除を受けますので、部分的ながら消滅の恐怖……死に類似した恐怖を本能的に感じはしますけど、それでも本当に消え去るわけじゃないという事実に変わりはありません。ですが先にも言ったようにこれは原則。ゲームのシステム内から脱出する手立てとしての【NiL SPaDiLLe】があったように、特別や例外というのは常にあるんです。サクラメント・サーバで僕がC-CLaSSの試験体を壊して奪った『未設定の死亡判定』……それを使い、桂一さん……貴方のアカウントを一時的に無効化し、重複した死亡判定を植えつけることで貴方へと付加したのが、【NiL SPaDiLLe】のアカウントに隠しておいたもうひとつのコード……【eNDLeSS・BaBeL】の中で唯一、壊した相手の人格データを、バックアップごとすべて残さず破壊するオブジェクト・コード……それが、【DeaD MaNS HaND】……」
「死者の手だけが、死者をも殺す……と?」
そう短く例えた解釈を憂鬱げ、口へ出すと桂一は流し目に【NiGHT JoKeR】へ視線を合わせた。
まもなく、その例えへの肯定を苦笑とも微笑ともつかない笑みを映す首を屈めるよう、肩をすくめることで表す彼女の瞳にと。
途端。
陽光の差し込む開放された窓を一陣、風が病室の中へと吹き込む。
純白のリネンのカーテンがふわりと風へなびき、横たわる洋介の胴部を包んだシーツをわずかにずらした。
刹那、パタパタという足音ともにひとりのナースが小走りで部屋を横切ると、急いだ様子でガラス戸を閉め始める。
途中、透けてすり抜けた【NiGHT JoKeR】や、桂一の存在になど気づくはずもなく。
見えもしない。触れられもしない。
そんなふたりになど気づくはずもなく。
と、おもむろ。
「……もう、出るか。ここでの暇つぶしもさすがに飽きてきた。河岸の変え時だろ、そろそろ」
良い契機だと感じ、桂一は半身だったから体勢からひと息、身を翻し、病室の出口へと踏み出した。
数歩、足を進めるうちに早々、【NiGHT JoKeR】の横を掠めながら。
すると反転。すれ違い、通り過ぎられた【NiGHT JoKeR】は慌てたように振り返って桂一の背中を追う。
勢い、髪へ結わえたヴェネツィアン・マスクが小刻みに揺れた。
さもケタケタ笑っているかのよう、赤いリボンと揃って揺れた。
少しく急ぎ足に、桂一へ付いて進める歩に合わせ、止まることなく。
「しかし、桂一さんも随分と言うようになりましたね。敵だったとはいえ、遡って考えれば洋介さんがいたからこそ桂一さんはこうして今、存在するわけでしょ? その亡骸を眺める行為を暇つぶしって……」
「だが事実だろ? 別段ここに限ったことじゃない。俺からしたら、現状の何もかもが暇つぶしだよ。そう、次の……さっさと次のゲームが始まってくれるまでの、どれもこれもが暇つぶしの座興さ」
「……ほう」
咄嗟、【NiGHT JoKeR】はこの桂一の返しへ思わず感心の声を漏らす。
再び己の中に熱気のような、好奇と愉悦の疼きが胸の内側を這う感覚へ、ジワリと口角の引き上げられるのを感じて。
「それはつまりまたゲームへ戻るつもりだということですか? せっかく苦労して脱出したというのにまた? 分かっていますよね。また再度、新しく改めてゲーム用の環境を構築したとしても、記憶の削除は必ずおこなわれる。というか、二条さんなら絶対にやるでしょう。前回と同じく大幅な記憶の削除を……それへ対する恐怖は無いんですか? 自分が自分で分からなくなる、曖昧になる、そういったことへの恐怖心は? 僕から言わせたら桂一さん、貴方のその発想も充分に狂ってますよ」
「いや、そうでもない」
これまでと違ってひどく落ち着いた、理性に裏付けられた穏やかさを響かす声音で、桂一は即答した。
「怖くないといったら、それは嘘だ。怖いに決まってる。体験して分かったが、記憶を奪われるっていうのは自分を分解されるみたいな怖さだ。それも中途半端に分解されるっていうのがなお怖い。漠然と、何かを失っている自覚はあるのに、それが何だか分からない……その恐怖ときたら、死や消滅へ対しての恐怖にも匹敵する。だけど……」
そこまで言って、やおら桂一は足早な歩みを急に止め、自分を追ってきている【NiGHT JoKeR】へ向かい、首を後ろへ回すと、
「現実世界にいたって俺に見えるのは、『俺は単なるデータ』だっていう事実だけだ。それに比べて、記憶が曖昧になれば俺は『疑える』。自分が人間なのか、はたまたそうでないのか、と。確信までは出来なくても、『疑える』ってだけでも幸せなことだよ。少なくとも、そう疑念している間は、半々でも自分を人間かもしれないと思える。まだ人間であるのかもしれないと思い込める。そんな幸福な疑念が抱けるなら、記憶を奪われる恐怖も、自分が自分でなくなる恐怖も、代償としては安いもんだ。違うか?」
続け答えて、見開かれた彼女の瞳と視線を合わせる。
それを聞いて、その目を見て、【NiGHT JoKeR】は己の推測の半ば正しかったことを知るや、至福に沸き立つ心を抑えつつ、うっとりと桂一の眼差しを見つめ返した。
彼は狂気にも適応する。
いや、しているのだと。
周囲の環境・状況が異常であった時、しかもそれが修正不可能なものであった時、誰もが決断を強いられる。
自分を曲げず、正常なまま抗うか。もしくは、自分を異常な環境・状況に沿わせて変質するか。
だがこれはあくまで、自分は正常であるという前提での話。
ならば、自分もまた周囲の環境・状況とは違った形で異常な存在であったら?
何を直せばいい? 何を曲げればいい?
そもそも、正常か異常かの基準を求める規範尺度が無い状態で、何を定規にそれをすればいいのか?
桂一は答えを出していた。
『利』を基準に定め、動けばいい。それだけだと。
純粋に自らの利益を考え、それに従い、動けばいいだけだと。
そこには正義も悪も無い。正しいか間違っているかといった判断も無い。
そこには無為があるだけ。
正常であることも異常であることも、自然であることに比べたら極めて矮小な問題でしかない。
それを論理ではなく、感覚的・本能的な領域で理解しているからこそ、桂一は、
もはや狂気にすら適応してしまっていた。
と、しばしして。
「……道理……ですね。とても自然で、純粋な動機付けだ。なら、今しばらくはお互い、桂一さん言うところの暇つぶしで時間を消化するとしましょうか。【NiL SPaDiLLe】によってほぼ全壊したとはいえ、【eNDLeSS・BaBeL】のサーバであり、外部記憶装置でもある【D.N.N.D】は無数にあります。今すぐにとは当然いきませんが、それでも早晩、ゲームシステムの復旧は終わるはずです。その時まで、まあのんびりするとしましょう。すべては座興……そう思えば、退屈な待ち時間でも楽しめる。ええ、とてもポジティブで素敵な考えですよ。とても僕好みの……」
相変わらず、氷のように冷めきった目つきで自分の瞳を覗き込んでくる……それは別に自分へ限ったことではなく、今の彼は何に対してもその目つきを変えはしなかっだか……そんな桂一の瞳を覗き返しながら、【NiGHT JoKeR】は脈打つように鳴動する、自身の中の興奮を努めて御し、感想を述べると、
「ああ、それと」
わざとらしくも胡乱な調子で語り出したかと思うや、
「ひとつ朗報ですよ桂一さん。システムの復旧次第、始める次のゲーム……」
彼に見えるよう。
よく見えるよう。
人差し指を自分の頭へ突き立て、クルクルとその指を回しながら。
「睦月さんの参戦が決定しました」
高く上げた口角を広げ、うっすら空いた唇の間から真白な歯列を獣のように覗かせたそこから、そう言って告げると、
一瞬、驚きのためか見開かれた桂一のその瞳を狂おしく、同じよう歓喜に見開かれた瞳で凝視しつつ、【NiGHT JoKeR】は、
さも嬉しげに、ニタリと笑った。




