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oFF-LiNe  作者: 花街ナズナ
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DaTa FiLe [RooT 33]

薄暗い【MoNiToR RooM】の中心部。人影がふたつ。


ひとつは椅子へと腰浅く座り、極端な猫背の姿勢から首だけを眩く照りつけるモニターへ向かって突き出し、指を組んだ両手を口元へ寄せ、付き合わせた二本の親指の先を唇に押し当てながら厳しい表情を浮かべ、反射する光に爛々とする双眸からの視線を画面へと固着させ、微動だにしない。


ひとつはちょうど、それの背後で寄り添うよう直立し、同じモニターを少しく距離を置き、落ち着いた顔つきの中にも隠し切れない険しさを微か、靄のように淡い雰囲気として滲ませつつ見つめている。


そして。


『……さて、いよいよこれでこのゲームも大詰めか……【DuSK KiNG】。それに、糸田……君』


そんなふたりの見つめるモニター内。


正方形のコンクリート・フロアのちょうど中央。そこにもまた人影がふたつ。


ひとつは本来、正確に言おうとすれば人影と呼ぶのには適さない奇妙な人型。


複数の小さなブロックノイズが重なり合い、人の形を成したもの。すなわち【iMiTaTioN】。


対し、その傍らで佇むもうひとつの影は、紛うことなく人間のそれであった。


普通に考えれば、すべての管理者のもとへ敵として送り込まれる【iMiTaTioN】には、思考や躊躇いといったものは無い。


ただただ本能的、視界へ入った人間を一切の例外無く殺害する。

はずである。のだが、


不思議なことに、【iMiTaTioN】はその場で立ち尽くしたまま、微動だにしない。


すぐ眼前、自らのまさしく眼前に無防備で横を向き、相変わらず一面、一色で統一された殺風景な室内の、天井に当たる部分の一部を見つめ、何やら独り言のように呟く男の姿や声が、まるで見えていない、聞こえていないかのように。


とはいえ、奇妙な点はそこに限ったわけではない。


戦いの場へすでに【iMiTaTioN】が現れているにも係わらず、【MoNiToR RooM】へ居座ったままの洋介と【DuSK KiNG】も今、まさに必死の思いで戦っている彩香や【NooN JaCK】、英也や【DaWN QueeN】のことを考えるなら不思議だとも言えなくは無いが、何よりそれ以上、密閉された室内で【iMiTaTioN】と対峙し、そのくせまるきり戦う様子も無く【MoNiToR RooM】内の洋介らへ、まるでそちらから見えているかのように話しかけかけているその男の姿が、


『思えば、本当に長かったね……少なくとも他のみんなはともかく、糸田君……君みたいに意識も記憶もリセットされることなく、ここまでやってきた人間にとっては、特に強く、そう感じるだろう』


二条博和であること。


が、モニター越しに彼を見つめる洋介の様子に特別、驚いた様子は浮かばない。


代わり、怒りにも似たひどく険しい感情が、傍に立つ【DuSK KiNG】の目にも明らかなほど、全身を覆っている。


と。


『ああ……頼むよ、そう怖い顔をしないでくれ。僕は(あっち)の僕じゃあない。基本、誰か他人と係わったり、話したりする場合、僕は(こっち)の僕……【NooN JaCK】のところへお邪魔したときと同じ、この僕でしか現れない。でなきゃそもそも話すらまともに回らない。そこはさすがに自覚してるし、だからこうして最低限の気遣いはしてるんだ。お世辞にも人の顔色を見て物を言うタイプじゃない(あっち)の僕じゃ、みんなの不興を買うばかりで会話そのものが成立しないってことぐらい、僕自身が嫌ってほどよく分かっているしね』


一方的、モニターを通して見られる立場でしかないはずが、博和はまるで己へ向かい送られてくる視線の主を知覚しているかの如く、さも憂いたような寂しい口調でなおも言葉を続け、


『おっと……でも会話とは言ったけど、出来れば君らは声を出さないでくれると在り難いな。僕は今、このゲーム内には存在しないことにしているから、何を話そうと何をしゃべろうと、僕の声を認識できるのは現在、僕が意図して声を聞けるようにしている君たちだけだ。【aBoVeBoaRD】の効果による永続通信の影響も受けない。だから僕がこれから発する言葉が、君の計画に支障をきたすこともない。その辺りは安心してくれていい。これでもそれなり、配慮したんだ。僕なりに』


言うのを聞きつつ、洋介の表情はさらに険しさを、眼光は鋭さを増す。


刹那。


『まあ何にせよ、もうすぐだ。もうすぐ何もかもが終わる。そして始まるだろう。ほんのあと数分……今まで、君らが耐えてきた時間の長さに比べたらまさしく、微々たる時間さ。そして君も、彼らも、ずっと待ち望んでいた通り、きちんとここから出られる。そこについては心配はいらないよ。僕からの保障なんて信用できないかもしれないけど、確かに君と彼らは【eNDLeSS・BaBeL】に存在する唯一のクリア条件をすべて満たした。趣味の悪い、不快なお遊びもこれにて終了。現実への帰還は達成される。それはもう決定。そう、あとは……』


博和はふと流暢な口を濁すや、わずかに顔を曇らせ、小さく嘆息のような一息をついて再び開口。


『……【aBoVeBoaRD】実行前に君が今、この現在の状況を予測して実行予約していた、ふたつの固有スキル……あえて使わず、温存してきた最後のスキル……これが発動すれば、【NiL SPaDiLLe】を目覚めさせるための全条件は自動的に揃う。君が彼らに語り聞かせた、多くの(真実)と、いくつかの(嘘)も……』


かく語り、


『……報われるよ。きっと……それが良い意味にせよ、悪い意味にせよ、必ず……』


終えるや博和は、瞬きすら忘れて捉え、己のことを直視し続けてきていた洋介の焦点から忽然、さながらカットされたフィルムのよう、密室であるはずの室内から瞬刻にして、その姿を消した。


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