表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oFF-LiNe  作者: 花街ナズナ
3/75

1st TuToRiaL

勇気のある若者は少ない。


勇気とは、恐怖を知る者だけが得られるものだからだ。


恐怖を知る若者は少ない。


ゆえに犯す。危険を。


その意味を理解せず、後悔の意味も知らず、無知と勇気を混同して過ちを犯す。


二十二世紀も終わりを迎えようとしていた頃、あるゲームが世間に注目された。


大手IT系複合企業【HeCaTeヘカテー】傘下にあるゲーム会社【NeT TRuDe】が開発、実現した世界初のVRMMOである【eNDLeSS・BaBeL】。


自動生成される迷宮のような塔を冒険する、内容だけならありきたりなゲーム。


しかし、このゲームには他とは大きく違う特徴があった。


「薬物投与と頭部への電気刺激によって、仮想世界をあたかも現実のように体験できる」という、まさしく仮想現実体験の骨頂。


国によっては非合法。


が、日本ではグレーゾーンに置かれていた。


立ち位置としてはバンジージャンプやスカイダイビングなどのような(自己責任型娯楽)が近い線であろうか。


とはいえ、危険性は異常に高い。


人間の生理機能は複雑だ。

医学的見地からすれば、このゲームの制限時間は必要睡眠時間の約2倍。


15時間が安全域。


仮に一週間の昏睡を起こしただけでも、脳に限らず身体の受けるダメージはとてつもなく深刻である。


意識が失われている状態が長く続けば、そのリスクはさらに増大する。


全身の筋肉の委縮。

骨密度の低下による骨折リスクの増加。

排尿や排便の処理に伴う感染症の危険。


特に感染症の危険は命の危険に直結している。


栄養補給のための点滴や、鼻から胃への経管栄養法などを行う場合、これも感染症の危険が常に付きまとう。


極端な話だが一年以上の昏睡の場合、低下した身体機能からくる免疫力の喪失により、感染症による死亡という例は珍しく無い。


もし助かったとしても予後は極めて不良。

リハビリによって回復できる範囲も限られる。


命を過信するとどうなるかを如実に示す症例とも言えるだろう。


だが、


それでもこのゲームに没頭する若者は後を絶たない。


(自分は死なない)

(自分は大丈夫)

(死ぬ奴は運が悪かっただけ)


都合のいい解釈で自己正当化をし、一時の快楽で身を滅ぼす。


しかしそれもまた個人の選択が招く結果。


需要があれば供給は絶えない。


実際、都内だけでも百を超す医療機関がこのゲームのシステムを備え付け、常時全世界数十万人以上とも言われるプレイヤーが【eNDLeSS・BaBeL】の世界でその名の通り、終わりの無い冒険を楽しんでいる。


ゲーム自体のシステムは参加するプレイヤー数に反し、至ってシンプルである。


四人の管理者、


黄昏の王、【DuSK KiNGダスク・キング

真昼の騎士、【NooN JaCKヌーン・ジャック

夜明けの女王、【DaWN QueeNドーン・クイーン

真夜中の道化師、【NiGHT JoKeRナイト・ジョーカー


そのうちのひとりと同盟する形でゲームは始まる。


同盟する管理者によって与えられるメリットとデメリットに違いがあり、さらに管理者はそれぞれに独自の行動基準を持つため、それに従わなければならない。


とはいえ、ルールらしきものはその程度。


シンプルであるがゆえに奥深いというのもまた事実であり、それが絶えず新規プレイヤーを引き付ける魅力となっているのもまた確か。


複数のプレイヤーが協力して塔を攻略してゆく楽しみに、若者は自らの現実における孤独を塗り潰そうとしているとも言える。


そして、


また今日もひとりの若者がゲームの入り口へと立つ。


つまらない現実に辟易し、退屈に後押しされ、この世に(想像以上の不幸)があることも知らず、無知と言う名の勇気を胸に前進する。


運は、


決して人に味方しないというのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ