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oFF-LiNe  作者: 花街ナズナ
19/75

DaTa FiLe [RooT 03]

少々時間をさかのぼり、桂一たちの通信による会話がおこなわれていた時のこと。


「ですから、とりあえずは小難しく考えず、その場その場で僕の指示に従ってくれれば……」

「……待て……」


独り舞台のように話を続けていた【NiGHT JoKeR】へ、背後から桂一が声を掛けた。


なおも肌は蒼白く、気分も体調もすぐれないままなのは明白な状態で、それでも弱々しいが頑とした調子を通してモニターと【NiGHT JoKeR】の間に割り込むや、


「そこから先は俺が話す……」


そう言って椅子にも座らず、モニターへ噛り付くように身を寄せると、ゆっくり語り出す。


「こいつが話したんじゃあ、話半分どころか……ほとんど詐欺になっちまう……」

『……桂一君、どういう意味だ? それは』

「言葉通りの意味です」


不思議な顔をしてそう問う彩香へ忌々しげに一言、答えて嘆息すると桂一は続けた。


「言うタイミングが無かったから……というのは言い訳がましいと思いますけど、聞かされた範囲の話からして、こいつ……【NiGHT JoKeR】が提案した作戦、大きな穴があることに気が付いてますか?」

『穴……?』

「こういうのも何ですが、睦月さんも長内さんも職業柄、この【eNDLeSS・BaBeL】については調査とか捜査とかって方面のアプローチがメインだったろうから正直、ゲームとしての内容に関してはそれほど詳しくないと思うんですけど」

『……む……』


言われたことを頭の中で反芻しながら、彩香は少し考えつつ、肯定でも否定でもない声を漏らす。


黙り、腕を組み、同時に自分にも投げかけられた言葉を思ってモニターから視線を桂一へ向ける英也と、様子こそ違えど、ほぼ同一の思考を巡らせて。


指摘されてみれば実際、桂一とは彩香も英也も【eNDLeSS・BaBeL】に対する視点が異なる。


ゲームであるという見方こそ共通しているが、あくまで彩香と英也は表面上の意味でしか理解はしていない。


分かりやすく言うなら。

どこまで行っても単に(ルールを知っている)といった程度でしかないのである。


しかしそれも無理からぬことで、彩香と英也がマークしているのは【eNDLeSS・BaBeL】そのものではなく、その背後にあるゲーム会社【NeT TRuDe】、ひいては親会社の【HeCaTe】の実態調査が主目的。


元から目指していた部分が異なっている。


立ち位置が違うのだから、そうした点も同じく違うのはむしろ当然であろう。


「つまり自慢にもなりませんし、自慢する気もありませんが、こと、この【eNDLeSS・BaBeL】を純然たるゲームって考えた場合、恐らくは逆に俺みたいなガキのほうが得手えてなんじゃないかと思うんですよ」

『……確かに、そう言われれば理屈ではある、な。だが、具体的にはどこがどのように君の得手だと?』

「そこでさっき俺の言った、今回の作戦にある穴の話へ戻ります。俺のところが、あえて少数で【DuSK KiNG】の所有階層に攻撃を仕掛け、占領などは考えず、ただ注意を引き付け続けて、その間に睦月さんが【NooN JaCK】の固有スキル、【SeaL(封鎖)】で【DuSK KiNG】からの反撃を封じる。ちょっと聞いた感じは悪くない作戦にも思えますね。俺からの攻撃については【HiDDeN】の効果のせいで少数による時間稼ぎだと知られるまでに時間がかかるでしょう。おかげでより時間が稼げるし、まさかこっちの全兵力が2だとは思わないだろうから、残存兵力を勝手に向こうは憶測して攻め手が鈍る。二重三重のハッタリで【DuSK KiNG】の動きを制限したうえで【SeaL】の使用。あとは向こうから手出しが出来ない【DuSK KiNG】の階層へ各々が攻め入って占領。生存猶予期間を手に入れ、それでまた【BiND oVeR】を更新する。圧倒的な戦力差の相手を前にしては決して間違いとは言えない作戦ではあります。けど、間違ってはいなくても正しいわけでもない。こんなその場しのぎの作戦、続けてたらジリ貧になるのは目に見えてますよ。特にこの作戦だと、睦月さんの【SeaL】は必須になりますから、その分の負担が後になってくるとジワジワ蓄積してくるはずです」


弱り切った様子にもかかわらず、ひと息にそう言い切った桂一へ、彩香はもちろん英也も反論できなかった。


現実、桂一の言い分の通りだったがゆえに。


補足すると。

【SeaL】とは【NooN JaCK】との同盟プレイヤーが持つ固有スキルのひとつである。


発動後3時間に限り、指定したプレイヤーひとりの攻撃命令を無効化することが可能。


ただし防衛戦に関してはその限りではない。


そして。

使用コストは30時間。


凄まじいまでのビハインド。


こんな浪費を繰り返していたら早晩、作戦が破綻するのは目に見えている。


なのに。

どこかで現実から目を逸らしていた。


ここまでの窮地に陥ってさえ、まだ賭けを打つことを無意識に拒否していた。


思って、彩香も英也も、如何に人間は極限状況に置かれると思考が硬直してしまうのかに気づき、狭窄した自らの視野に寒気すら覚えた。


だが。


「ですけど」


桂一は屹然とした口調で、


「この……【NiGHT JoKeR】も正しい道へのヒントは口にしてました。九頭竜川の戦い。これに限ったことじゃありませんが、少数勢力が大勢力に勝つ方途はたったひとつしかありません」


言い切る。


「命懸けの攻勢だけです。出し惜しみ無しの絶対的な攻勢。守勢に回れば一局面では勝てたとしても、最終的には兵力で勝るほうがその圧倒的な物量によって確実に勝利します。戦略レベルで見れば、最後は必ずそうなると歴史が証明してます。だから小勢の生き延びる道はひとつしかない。出来るだけ速やかに、それも無茶を承知の賭けを何としてでも押し通し、戦術レベルの戦闘成果を無理にでも戦略レベルまで押し上げるしかない。数で勝る側にとって時間は味方ですが、数に劣る側は時間が最大の敵ですからね」


そう述べて若干、蒼ざめた顔に興奮して血色を戻した桂一に、もはや反論する者はいなかった。


彩香、英也。

【NooN JaCK】に【DaWN QueeN】までも。


加えて、【NiGHT JoKeR】さえ。


モニターと、それに向かう桂一へ背を向け、暗い部屋の隅をただ、


薄ら笑いを浮かべて眺めているだけだった。


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