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oFF-LiNe  作者: 花街ナズナ
18/75

DaTa FiLe [RooT 02]


「どうした。何だか鹿爪らしい顔をしているが、君がそんな顔をするようなことなど何かあったかね?」


広さに反比例し、極端な暗さが圧迫感すら与える一室。

巨大なモニター以外、光源らしき光源を持たない奇妙な一室。


今それぞれに桂一、彩香、英也がいるのともまた違った同一の作りをした一室。

四つ目の部屋。


そう、つまり。

そこは【DuSK KiNG】のモニター室。


人影はふたつ。


モニターの前の椅子に座るひとり。

その傍らで佇むひとりの計ふたり。


どうやら先ほどの声の主は暗がりに佇む人物であるらしく、何故かまるで返事を寄越す素振りも無いモニター前の人物に、続けて話しかける。


「珍しいこともあるものだ。まあ、緊張感を持つことは良い。如何にほぼ戦局・形勢が決まったとはいえ、どこで足下をすくわれるか分からぬ。そうした過ぎる用心は、戦う者として失ってはならない背骨のようなもの。『勝って兜の緒を締めよ』は、勝者だからこそ心せねばならぬ有り様。さすがはこの【DuSK KiNG】の同盟者だと褒めておこう」


語りつつ、自らを【DuSK KiNG】と名乗った人物は少しく微笑んだ。


男性。それも五十代がらみだろうか。


白髪混じりの長髪を揺らし、蓄えた顎鬚も同じく白髪がところどころに見える。


落ち窪んでいるが、眼光の鋭い切れ長の双眸でモニターとその前に座る人物を交互に見つめる姿は、およそ身長が190ほど。


赤と呼ぶよりスカーレットと呼ぶほうが相応しい、派手派手しくも決して下品には見えない、むしろ威厳すら漂わせるスーツを着込み、すらりと背筋を伸ばしている。


「しかし、感心はするがやはり気にしすぎではないか? 『窮鼠猫を噛む』の喩えもあるにはあるが、いくらなんでもこの戦況を覆し得る手立てなどやつらにあるとは到底思えん。せいぜいが【BiND oVeR】の効果切れと同時に三方からの奇襲か、もしくは全軍で玉砕覚悟の正面一点突破といった自暴自棄程度だろう。どちらにせよ今の盤石な大勢が揺らぐことはあるまいよ」


もっともな意見だった。


仮に【NooN JaCK】、【DaWN QueeN】、【NiGHT JoKeR】の三者が上限まで徴兵していたとしても、攻め落とした階層分を差し引かなかったとしてさえ最大合計768。


彼我兵力差は軽く10倍を超える。


しかもこの戦力は三人が共闘して始めて可能な動員兵力。


すなわち連合している前提での仮説でしかない。


さらに、指揮系統がひとつに限られていても完璧な用兵は困難だというのに、連合軍となれば混乱を回避するのはもはや不可能に近い。


共闘していると仮定しても、常にそうした爆弾を三人は抱えて戦わねばならない。


特にこんな短時間で即席に仕立て上げた連合ならなおのこと。


畢竟、三者が手を組んでいようと組んでいまいと、絶対的な優劣に変化が起きる要素など無いのである。


にもかかわらず。

椅子に座り、モニターを真っ直ぐ見つめたまま動かぬ人影は、急に口を開いたかと思うや、


「……それでもなお、用心するに如く(し)は無し……ってね。特に、今回はあいつがいる。それこそ、俺らには想像もできないことをしてくるかもしれない。油断はできないさ」


どこか楽しげにも聞こえる声音こわねで言う。


まるで何かを期待しているような、そんな声音で。


「ふむ……とはいえ、別に【NiGHT JoKeR】が相手にいるのは何も今度に限ったことではあるまい。そこはすでに予測の範疇……」

「そうじゃないよ、【DuSK KiNG】」


途端。

語り返してきた【DuSK KiNG】の言葉が終わるより早く、椅子へ腰掛けた人物は言葉を被せた。


明確な否定の言葉を。

そしてさらに付け足す。


「確かに【NiGHT JoKeR】は面倒だ。そして、やつのことを警戒しているのも間違いじゃない。けど、俺は【NiGHT JoKeR】単体に関してはさほど気にしてやしない。問題なのは、その面倒な【NiGHT JoKeR】と組んだ……」


が、それを言い終える直前。


暗く広い室内へ突如、響き渡る。


けたたましい警報と、警告音声。


『【NiGHT JoKeR】からの攻撃により、【DuSK FLooR 4095】が侵略されています。ただちに防衛行動をおこなってください』


予想外の事態。


少なくとも【DuSK KiNG】にとっては。


その証拠に、部屋中を木霊する警告の声を聞き、【DuSK KiNG】は驚きというよりも不思議といった表情をして耳をそばだてた。


ところが。


『【NiGHT JoKeR】からの攻撃により、【DuSK FLooR 4096】が侵略されています。ただちに防衛行動をおこなってください』


矢継ぎ早、また新たな警告。


すると、怪訝な顔で状況を確認しようと横からモニターを覗き込んできた【DuSK KiNG】には一瞥もくれず、先刻よりずっとモニターの前へ陣取っていた人物は、やおら改めて口を開く。


「そらね。やっぱりだ」

「やっぱり……とは?」

「腰抜けの奇襲なら、そりゃあ【BiND oVeR】の効果切れまで足踏みもする。けど、本当に強いやつだったらそんなことはしない。だって意味無いだろ? それじゃあ自分から奇襲のタイミングをこっちへ教えてるようなものだからね」

「……なるほど、道理だな。が、そう簡単に切り捨てられるものなのか? とりわけ、人間が。目先の安全を、目先の命を。私としては、単にまだこれをただのゲームだと思い込んでいる愚か者の暴挙とも見えるが……」

「それは無い。賭けてもいい。もしその推測が当たっているなら、まずそんな馬鹿がこんな大胆な奇襲を掛けてこれると思うかい?」

「ふむ……」

「そして、だからこそ簡単じゃあないさ。実質は緩慢な自殺だと分かっていても、目先の数時間の安全を切り捨てるのはね。でも、あいつなら最終的には切り捨ててくる。だから厄介だと言ったんだよ。今度の相手は」

「つまり、今までのプレイヤーどもとは、ひと味違う相手だと?」

「……いや」


耳障りに響き続ける警報の中。


ふと【DuSK KiNG】とやり取りしていた人物……モニターの光に照らし出された人物は一旦、言葉を切ってひと呼吸置き。


「ひと味どころじゃない。正真正銘、命懸けの相手さ。こっちも死ぬ気でかからないと、下手すればここからでも状況をひっくり返される。そう、ひっくり返せるんだ……あいつだったら……」


言って微笑みながら、じわりと汗の滲んだその手を、


嬉しげに握り締めた。


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