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エピローグ

 俺達も元の姿に戻った。

 一つ違っていたのは、佐百合が痩せていたことだ。

 脂肪に埋もれていた体が、すっきりとした体になっていた。

 大根足に足首が現れ、ウェストは細くなり、べったりとしていた黒髪は長くサラサラと流れ、肌はきめ細かくなっていた。こころなしか、目も大きくなっている。たらこのような唇も、ふっくらとした肉感的でセクシーな唇に変化している。

 向うでの健康的な生活が良かったのかもしれない。

 こちらに帰ってきて驚いたのは、俺達はカーリセンで数ヶ月過したのに、こちらでは二週間しか時間が経っていなかったのだ。

 区役所では佐百合は無断欠勤扱いにされていたが、有給が大量に残っていたので不問に付された。

 すっきりとしたボディになった佐百合は、今までと同じように振る舞っているつもりなのだろうが、ほのかな自信が垣間見えるようになった。

 佐百合にとってカーリセンの数ヶ月は無駄ではなかったのだ。

 俺はといえば、二週間いなくなろうが、一年いなくなろうが心配する人など誰もいない。

 メールを見たら、カモにしようと思っていた女から連絡がないので別れるという短いメッセージが入っていた。きっと次の男に乗り換えたんだろう。

 これからまた女を騙して生きて行くのかと思うと少なからず嫌気がさした。

 では、どうやって生きていけばいいのか?

 そんな時、新山元刑事が間鍛冶の親を訴えたらどうだと言っていたのを思い出した。

「家名に泥がつくのを恐れて、間鍛冶を幽閉して、捜査を妨害したのです。君に対して間鍛冶家は責任を取るべきだと思う」

 というわけで、俺は間鍛冶の家から賠償金と作造が住んでいた小屋のある土地、異世界へつながる池も含まれている、を貰った。新山元刑事がいろいろと手配してくれたおかげだ。

 俺は貰った賠償金でだまし取った金を女達に返した。

 残りの金で池を埋め立てその上にソーラーパネルを設置して売電事業を始めた。

 大した金にならないが、土地を遊ばせておくよりいいだろう。

 作造の小屋からばあちゃんの住む村までは車で二時間ほどだ。

 俺は、今、ばあちゃんの家で畑仕事を手伝いながら暮らしている。



「良ちゃーん」

 佐百合だ。佐百合が東京から尋ねてきてくれた。車から降りて走ってくる佐百合。

 こっちに帰ってきてもうすぐ一年になる。すっかり生き生きとして見違えるようだ。

 その夜、佐百合は俺んちに泊まっていった。

「ゆっくりしていきなっせ」

 ばあちゃんが気をきかせて、早々に二階の和室に引き上げた後、俺達は縁側で月を見ていた。

 浴衣を着て寛ぐ佐百合は見違えるほどしっとりしている。

「良ちゃん、私と結婚して」

 佐百合がいきなり言い出した。

「ええ? 何を言い出すんだ」

 俺は狼狽えた。いろいろあって、この一年、佐百合とはメールや電話で話しただけで、顔をあわせるのは久しぶりだ。その佐百合から、結婚してって。

 どうすればいいんだ。また、家族を作るのか。家族を作っても、また無くすかもしれない。

「ね、良ちゃん、幸せになろ!」

「いや、俺はもう家族はいいんだ。また、無くすかもしれないし」

「何言ってるの。そんなの作ってみないとわからないじゃない。はい、これ」

 佐百合が紙切れを出した。

「婚姻届け!」

「さ、サインして!」

 う、こんなものどっからって、佐百合は区役所務め。婚姻届けくらいお手の物だよな。俺は観念した。

「それより佐百合」

 俺は佐百合の目をしっかり見て抱き寄せた。

「良ちゃん」

 俺は佐百合に口づけをした。熱い口づけ。

「佐百合、愛してる」

 俺は佐百合を縁側に押し倒し浴衣の帯に手をかけた。

 と、その途端、身が縮むのを感じた。

「わんわん(嘘だろう?)」

 ええええ、どうしてその気になると変身するんだ?

 しかも、犬って、どういう事だよ。

 逆だろ! その気になったら犬から人間だったじゃないか?

 え、一体これはどういう事だ!

 庭先の井戸が光った。

 光の中から誰かが出て来た。

 あの頭!

 神官長アルゲルだ。

「ふう、やっと佐百合様と結婚しようという気になりましたね」

「はあ?」

「あなたがその気になったら、見つけられるよう呪文をかけておいたのです。さ、参りましょう。カーリセンへ。実はシーザーと話が出来なくて、神殿の封印がうまくいかないのです。良殿、今一度、手伝って貰えないでしょうか?」

「わんわんわん(勝手な事、いうんじゃねぇ。元に戻せ!)」

 オオーン。 シーザーの鳴き声だ。俺は井戸に駆け寄った。中を覗く。皆の顔が見えた。シーザーとサララ、ジャイーダ、セレリンにアシアン、書記官カスケルもいる。

 その奥にジャレスだ。

 くそぉ、俺の恋路を邪魔したのはジャレスだな。佐百合と寝ようとすると犬に変身するようにしたんだな。

 おい、待ってろ! 今、その高い鼻に噛みついてやるからな。

 俺は井戸に飛び込んだ。



「あいた!」

 俺は縁側から転がり落ちていた。

「何しとんね? そんな所で昼寝するから、落ちるんよ。しっかりせな。東京からのお客さんに笑われるよ」

 ばあちゃんの後ろから、ひょいと佐百合が顔をだした。

「佐百合!」

「良ちゃん!」

 佐百合がニコニコと笑って俺に抱きつく。

「会いたかった!」

 あれ? じゃあ、今のは夢か。そうか、夢か。ああ、良かった。また犬になったのかと思ったよ。

「ね、良ちゃん、結婚しよ」

 え? これは現実ですか? 夢ですか?

 俺は前足になっていないか両手を見た。顔に手をあてる。大丈夫、人間だ。

「ね、これ、サインして?」

 う、嘘だろ。婚姻届けって、まさか、その気になったら犬になるとか!

 一体どっちだー?!





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