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元の世界へ 一

「平太のメモによると、異世界から帰った作造はすっかり大人しくなったようです。その頃作造は、さすがに長期間の座敷牢生活に疲れ、酒を飲んで暴れるようになっていて、父親は相当、困っていたみたいですね。異世界に行って邪悪な欲望を満足させたのでしょう、暴れなくなったんですね。大人しくなった作造を見て父親は、座敷牢から出す事を考えたようです。槍鞍君の家族を殺してからすでに十年以上経過していたし、長引く不況で大勢の使用人を抱えるのが難しくなった事など、いろいろ事情があったようです。結局、父親は作造を、元の小屋に戻しています。作造は平太を連れて小屋に戻りました。おかげで、平太のメモを読めたんですがね」

 巨大な白猿は、ほーっとため息をついた。

「捜査の初期段階から間鍛冶作造は捜査線上にあがっていました。ところが、間鍛冶の家はあのあたりに絶大な影響力を持っていましてね。結局事件をうやむやにせざるをえなかった。ところが、作造と平太がひょっこり小屋に戻って来た。私は退職した。どうしても気になって、小屋を調べたんです。本当は不法侵入になるんですがね。とにかく気になって。平太のメモを読む内に異世界の話が出て来た。こちらはそんな物あるわけないと思っていますから、どこかで作造が暴れていると思ったんです。そこで、二人をつけて行って今度こそ現場を押さえようと思ったんです」

 新山刑事は、平太のメモから日時がわかったので、その時間に遠くから小屋を伺っていたのだという。そして、二人をつけて行って不思議な光の出る池に出た。最初は何かの罠かもしれないと思って踏み込めなかったが、好奇心の方が強かった。

「私が巨大な猿に変身して良かったです。もし、平太のようなヘビに変身したら、作造と戦えなかったでしょう」

「新山刑事、カーリセンを代表して御礼を申し上げます。怪物を打ちのめして下さり、本当にありがとうございました」

 ジャレスが軽く頭を下げた。

「私は生きたまま、こいつを連れ帰りたかったんですよ。いろいろ調べて、今後、こんな犯人が出ないようにしたかった。残念です。しかし、ここは別世界ですからな。さて、我々は帰るとしましょうか」

 佐百合がジャレスに言った。

「ジャレス、一つ聞いていい?」

「なんでしょう?」

 佐百合がもじもじとしている。

「……あの、あなたが私を好きだと言ったのも、嘘だったの?」

「いいえ、好きですよ、佐百合」

 途端にジャレスから甘い雰囲気が漂った。佐百合を抱き締める。

「好きですよ、佐百合、恐らく生涯あなたより愛する女性には出会えないでしょう。しかし、我々は住む世界が違うのです。最初は、生贄にするまで私達を信用させておく為でした。ですが、私は本当にあなたを愛してしまったのです。私はあなたを生贄にするのを何度ためらったでしょう。その為に予備の女達も用意していたのです」

 ジャレスが声を低めた。

 恐らく、佐百合にだけ伝えるつもりだったのだろう。

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