犯人 二
しかし、長くは続かなかった。作造は食事を運んできた女中を強姦した。興奮していた作造は危うく女中を絞め殺す所だった。驚いた幸一郎は女中に金をやって暇を出した。
間鍛冶の家で働く女中達は、作造を恐れ世話を嫌がった。
そこで幸一郎は、当時、台風による土砂崩れで家族を失い一人になっていた衿杉平太を下働きに雇い、屋敷の使用人部屋に住まわせ作造の世話をさせた。
作造は、自分が殺人犯として指名手配されているとわかっていたので、牢から出ようとしなかった。座敷牢にはテレビもビデオもあった。手込めにする女中は来なくなったが、ごきぶりや蜘蛛はたくさんいたので、殺して遊ぶ生き物に不自由はなかった。
一方、頭の弱い平太はよくつまらない失敗をした。屋敷の使用人頭は、平太が失敗すると罰として、山に山菜を取りに行かせた。カゴを持たせ、それが一杯になるまで屋敷にいれなかった。
平太はしょっちゅう失敗したので、たびたび山菜を取りに行かなければならなかった。
山菜を取りに山の奥へ奥へと入った平太は、道に迷い見た事のない池の側で夜明かしをするはめになった。夜中、満月が天頂に来た時、水の中から光がさした。
平太はなんだろうと思って池に入り、異世界に迷いこんだらしい。
「平太の部屋に山ほどメモがありましてね、それに詳しく書いてあったんです。平太は異世界の話を作造にしたが、作造は信じなかった。作造は平太に、『もし、本当なら、何かとってこい』と言ったらしいです。何を持って帰ったら信じて貰えるのかわからないと書き残しています」
平太はカメラを持って行って写真を取りたいと思ったが、カメラを持っていなかった。仮にカメラを持って行っても、ヘビに変身するのでうまく写真を取れるか、自信がなかった。
平太は毎年、カーリセンに行った。
最初は見つかるかもしれないと思って遠巻きに祭りを見ていたが、自分が小さなヘビに変身していて、カーリセンの人々に見つからないとわかると、大胆になった。祭りの供え物のスイクの足をとってきて食べるようになった。スイクはうまかったが、小さなヘビの体では、たくさん食べられない。平太は土産として売られていたスイクの包みを一つ失敬して持ち帰った。包みの中には小型のスイクが丸のまま蒸されて入っていた。
平太はそれを作造に見せた。作造は見た事のないスイクを、最初はトカゲの突然変異だと思った。うまそうに食べる平太につられて、スイクを食べた作造は驚いた。今まで食べた事のない味だった。スイクの肉のうまさが、作造に異世界を信じさせた。
作造は平太に異世界に連れて行けと言った。ヘビに変身するのは面白そうだったし、ヘビに変身すれば、ネズミや鳥を殺せるかもしれないと思った。うまくすれば人を、女を殺せるかもしれない。
作造は平太に父親の持っていた座敷牢の鍵を盗ませ合鍵を作らせた。
翌年、合鍵を使って座敷牢を抜け出した作造は平太と一緒にカーリセンにやってきた。
しかし、平太は驚いた。水の中に出たからだ。いつもだったら、神殿の裏側に出る筈。平太は必死に上を目指した。水面に出ると、自分の体がいつもの小さなヘビではなく、尻尾が二つに割れた大きなヘビになっているとわかった。そして、後からやってきた作造が巨大なシャコのような怪物に変身していて、心底驚いた。
作造も、自分も平太と同じようにヘビに変身すると思っていたので、巨大な怪物に変身して驚いた。最初は戸惑ったが、馴れるとこれほど面白い体はなかった。触手は、まるで全身に毛がはえそれを自由に動かせる、そんな感じだった。作造は思いっきり暴れ回った。長い間、座敷牢で暮らしていた鬱憤を晴らそうと、羽目を外した。逃げ惑う人々が小さく見えた。自分に引裂かれるのを待つ虫けらに見えた。
作造は、人の血を浴びて興奮した。腹の辺りがムズムズする。見ると、腹が割れ、男根がそそり立っている。作造は手当たり次第に女を捕まえ犯した。
そのうち、虫けらだと思っていた連中が、剣や矢で作造を攻撃し始めた。触手に矢があたると、痛かった。痛烈に痛いわけではなかったが、針でチクチクと刺されるような痛みがあった。
平太が、「神殿が光っているうちに帰らないと、帰れなくなるかもしれない」と言うので、あわてて湖に飛び込み自分達の世界に戻った。




