戦い 一
「やめてくれ! 頼む。佐百合を助けてやってくれ!」
ジャレスが固い決意を秘めた目で俺を見下ろした。
「良、あなた方倭国の人々は我々には迷惑なのですよ」
言うなりジャレスは俺の首根っこを掴み上げた。
「な、何をする気だ!」
ジャレスが、俺の耳元で囁いた。
「あなたにも牙があるでしょう? あのヘビなら、あなたの牙でも倒せる筈です。ヘビの急所は頭のすぐ後ろです。健闘を祈ります」
ジャレスが大声で言った。
「おい、そこのヘビ! この犬も連れていけ! おまえらの仲間だ」
ジャレスが俺を思いっきり投げた。
「なんだと!」
ヘビ野郎が振り向いた。
ジャレスの投球センスは確かだ。
俺はまっすぐヘビ野郎の頭に投げつけられていた。
爪を使ってヘビの胴体にしがみつく。頭の後ろに思いっきり噛みついた。
「ギャー」
ヘビ野郎の悲鳴が響いた。
ヘビの生臭い味が口一杯に広がる。
佐百合がバランスをくずした。岩の上から地面へ。俺は何があろうとヘビ野郎の首に噛みついたままだった。そうとも、絶対離すもんか! 俺の佐百合に巻き付きやがって! 許すもんか!
ヘビの体から力が抜ける。佐百合がヘビを振りほどいた。
いいぞ、佐百合! 走れ、走って逃げるんだ!
が、佐百合は逃げなかった。側にあった石を持ち上げヘビに向って振り下ろした。ヘビの頭にゴンッとあたる。ヘビが動かなくなった。俺はようやくヘビ野郎を離した。
「このヘビ、死んだかしら?」
俺はヘビ野郎の鼻のあたりを伺った。虫の息だが、息をしている。
「いや、気絶しているだけだ」
怪物が岩を回り込んで俺達の前に現れた。
「きさまら、ヘータに何をした!」
怪物が俺達に襲いかかってきた。
「きゃああ」
俺と佐百合は必死に逃げた。湖の岸辺をバシャバシャと走る。
気になって後ろを振り返った。怪物がヘビを抱え上げて、「ヘータ、ヘータ」と言っている。
よほどあのヘビが大切だったんだろう。
どうだ、わかったか、大切な人を他人に傷つけられる悲しみが!
湖からザーっという音がした。
なんだ? 今度は何が現れた!




