ジャレス 六
「騙すんだよ」
「騙す?」
「いいか、相手が知性の持ち主じゃなかったら騙せないが、怪物だけど、知性があるんだろう。だったら、騙せるさ。いいか、怪物は女をいたぶって殺すがの好きな変態野郎だ。つまり、いきなり殺さない」
「そうです。ですが、触手をつかって残忍な行いをするのです。とても、口では言えないような事を」
ジャレスが顔をしかめた。こいつがこんな顔をするんだ、よほどひどい仕打ちなんだろう。
「とにかくだ。俺にまかせてくれ。もう時間がない。怪物が出てくる場所に連れて行ってくれ」
俺はてっきり村長の家にいるものと思っていたが、違った。気絶している間に運ばれたらしい。外に出てわかったが、そこは石で造られた要塞だった。怪物と戦う為にわざわざ作ったのだという。要塞の門を出て、ジャレスは湖の岸辺に俺達を連れて行った。湖から流れ出している川の近くだ。
「怪物は、まず、沈んだ神殿の真上あたりに顔を出します。あの辺りです」
ジャレスが指さした。
「それから、ここまで泳いで来て、この辺りから上がってくるのです。尻尾の先に猛毒の入った袋をぶらさげていて、常に猛毒を川に投げ込めるようにしています」
「猛毒の入った容器を見た奴はいるか?」
「みんな、見ましたよ。怪物は皆にわかるように高く上げましたから」
「どんな形をしていた?」
「丸い筒型のガラスのビンです」
「透明だったか?」
「いいえ、松明のあかりで見た感じでは、茶色でしたね」
「ふたは? ふたはどうなってた?」
ジャレスは少し考えてから、地面に枝を使って描いて見せた。
「そういえば、我々はサガイヤの木から作った栓でガラス瓶にふたをしますが、怪物の持っていたビンは違いました。そうだ。あれがフタなら見た事の無いフタだ」
「佐百合、あいつ、ガラスビンじゃなくて、プラスチックの容器に入れてるんじゃないか? ガラスは割れやすい。何かあった時に自分が浴びたら大変だからな」
「そうね、それにこの絵だと絶対プラスチックよね」
「それなら簡単だ。ジャレス、誰か弓のうまい奴に袋を射させろ」
「しかし、ビンが割れて毒が流れ出したらどうするのです?」
「その心配はない。落ちても割れない容器なんだ」
「割れない? そういえば、佐百合、あなたも持っていませんでしたか? 確かペットボトルと言っていた」
「ええ、そうよ。あれが、プラスチック。あれなら落としても割れないわ」
「わかりました。早速、弓の巧者を手配しましょう」
ジャレスが側にいた兵士に命令する。
「おい、それとな、牛を数頭用意してくれ。怪物に差し出すんだ。倭国から来た男だと言って。怪物には、倭国から来た男が変身した牛なのか、最初からこの世界にいた牛なのかわからないんだろう?」




