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異世界 二

「わんわんわん(俺だ、佐百合、俺だって!)」

「良ちゃん? 良ちゃんなの?」

「わんわん(俺、こんな姿になっちまったよー)」

 佐百合が俺を持ち上げる。ああ、情けない。女の子に持ち上げられるなんてよ。

「嘘!」

「わんわん(佐百合、下ろしてくれる。俺、一人前の男だか…ら…)う、うぉーん」

 泣ける。泣けてきた。

「わぉーん(一人前の男なんだよぅ)わぉぉぉん」

 佐百合の手を頭に感じた。ううう、撫でられてる。犬を撫でるみたいに。う、う、う。俺、犬じゃない。犬じゃないよう。

「さて、細かい説明は後にしましょう。私は神官長アルゲル。この神殿に務めています。これから、あなた達を族長の元に連れて行かなければなりません。さ、立って」

「ううう」

 俺は神官長を見上げて凄んだ。すかした顔しやがって! 噛みつきたい。噛みついてやりたい。ええい、くそ。俺はは顔を振って涙を振り払った。

「どこに行くんですか? 元の世界に返して下さい。お願いです」

 佐百合が必死に頼み込む。神官長が迷うような悩むような難しい顔をした。

「……、元の世界ではあなたはどういう姿をしていたのですか?」

「え? どういう姿って?」

「鏡を持て」

 周りにいた神官達が、大きな鏡を抱えて来た。立ち上がった佐百合の前に置く。

「こ、これが、私?」

「そうですよ。美しいでしょう」

 俺は佐百合と一緒に鏡の中を覗き込んだ。

 美人になった佐百合の側にちっこい白い犬が映っていた。

 犬種はテリアか? 白くふさふさした毛に覆われた愛玩犬。

 これが俺か?

 きっと俺なんだろう、首にばあちゃんから貰ったお守りが下がっている。

 俺はため息をついた。

 どうせ犬に変身するなら、シェパードとか、ドーベルマンとかカッコいい犬になりたかったなあ。

 これじゃあ、金持ちばあさんの膝の上がお似合いだ。

 俺に比べ、綺麗になった佐百合。あの脂肪はどこに行ったんだ。醜かった体はどこに行ったのか。体のどのパーツをとっても美しい。

 白く滑らかな肌。瓜実型の小さな顔。すらりとしたボディ。長く光り輝くアメ色の金髪。紫の瞳。

「こちらの世界にいる間、その姿ですよ。どうです? 元の世界に帰りたいですか?」

 神官長アルゲルが言う。

「これが私?」

「そうですよ。あなたのように美しい女性は見た事がない。元の世界に帰ったら、この体は失われてしまいます。どうです? こちらの世界にいませんか?」

「でもでも……」

「こちらの世界を見物してから元の世界に帰ってはいかがですか? あなた方の安全は保証しますよ。ね!」

「本当に安全ですか?」

「ええ、安全ですよ」

「必ず、返してくれますか?」

「ええ、返して上げますよ。私達はあなた方を歓迎しているのです。さ、参りましょう。族長があなた方をお待ちです」

 神官長アルゲルがぼーっとしている佐百合を促した。

 佐百合がこっくりとうなづいて歩き始める。

「わんわん(待ってくれ! 俺は帰るぞ! こんなとこ、いられるか!)」

「良ちゃん、お願い、私と一緒にいて。ね、お願い。一緒にいてくれたら、あのお金、返さなくていいから」

 俺は言葉に詰まった。そうだ。俺は佐百合を騙して金を取り上げていたんだ。

「わんわん(ああ、そうだな。……仕方ない、一緒にいてやるよ)」

「ありがとう、良ちゃん」

「では、行きましょうか?」

「あ、あの……」

「なんでしょう?」

「すいません、その、ひもを頂けませんか?」

「え?」

「あの、服が大き過ぎてずり落ちるんです」

 佐百合が恥ずかしそうに俯いた。佐百合がぶかぶかになった服を抑えている。今にも脱げそうだ。

「これは気が付かなかった。君、こちらの方に着物を」

 佐百合は、側に控えていた女達に別室に連れて行かれた。

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