ジャレス 四
「私達はまた罪人の女を差し出しました。今度は、余計な事をしゃべったら家族を殺すと脅しておきました。怪物は、女を散々いたぶって殺し、帰って行きました。こんな状態が数年続いて、私はもううんざりしたんです。たとえ罪人であっても、これ以上同胞を殺されたくないのです。ですから、異世界の怪物には異世界の女をあてがうべきだと」
ジャレスの目が狂気を孕んでいる。
「きさま!」
俺は歯を剥き出してジャレスを威嚇した。こんなちっこい体だけど、俺は怒ってるんだ。
「ひどい! 自分達が死にたくないからって! 私達が何をしたっていうの! あなた方に何もしてないじゃない! それなのに、ひどい!」
佐百合がジャレスに筆を投げつけた。すっと避けるジャレス。動きに無駄がない。
「では、カーリセンの人々が犠牲になればいいと」
佐百合が答えにつまった。
「……そうじゃないけど、でも、でも……。だったら、どうして、何ヶ月も前に召還したの? 直前に召還して、さっさと生け贄にすればいいじゃない。こんな、こんなお姫様みたいな生活をした後に裏切られるなんて! 信じていたのに!」
佐百合が熱くなって叫ぼうと、ジャレスは眉一つ動かさない。
「各地にある神殿は、それぞれ召還出来る時期が違うのです。この湖に沈んだ神殿は満月が正三角形を描く時。あなた方を召還した神殿は、三つの新月が重なる時なのです。首都にある神殿はあそこだけですし、遠くの神殿から召還した人々を輸送するより近くの神殿の方が安全ですから」
「もし、女を召還できなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時は今まで通り罪人の女を用意したでしょう」
「他に方法はなかったのか?」
「仕方がないでしょう。女を差し出せば、一人の死、差し出さなければ、数千人の死。為政者として、数千の命を救わなければなりません」
俺は黙った。俺だって、数千人の人々を救わなければならない立場にあったら、同じ事をしただろう。怪物の奴、なんて卑怯なんだ。数千人の命を人質にとって、好き放題しやがるとは。怪物が狡猾な奴だってよくわかったよ。
「ジャレス、ここから出してくれ。逃げたりしないから。こんな所に閉じ込められていては、まともに話も出来ない」
ジャレスはため息をついた。ジャレスは納得したわけではないと言いながらも、俺を檻から出してくれた。
「聞いてくれ。俺の、……俺の家族も殺された。両親と姉が殺されたんだ。俺はどうする事も出来なかった」
「嘘! 良ちゃんの家族が殺されていたなんて! そんな酷い目にあっていたなんて!」
佐百合が泣き出しそうな顔をして俺を見る。
おまえってホント、優しい女だよな。




