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ジャレス 一

 カナイ村の村長宅で、俺達は歓待を受けた。

 出迎えてくれたのは村長一人で、村民はどこに行ったのか一人もいなかった。祭りなのに何故だろう?

 それともこの祭りは秘密の祭りなのかもしれない。地方によっては限られた人々で行われる祭りがあると何かで読んだな。

 シーザーが心配で俺は食べる気になれなかったが、村長が困った顔をしたので、仕方なく出されたスイクの足をかじった。

 いつもなら物凄くうまい筈のスイクの足が、まるで砂を噛んでいるようで、何の味もしなかった。

 村長が酒を勧めてくれた。勧められるままに、俺は出された酒を舐めた。ここの地酒だそうだ。うー、きくなあ。

 村長が何か話している。ジャレスが笑っている。

「眠い。疲れがでたのかも」

「私が寝所に運びますから、眠ってもいいですよ」

 隣に座っていたサララが言う。

 俺は安心して宴会の席で眠ってしまった。

 気が付くと、見た事の無い部屋にいた。ジャレスが厳しい顔をして俺を見ている。

「あれ、ジャレス。サララは?」

 俺は立ち上がって驚いた。小さな檻に入れられているのだ。

「なんだ? これは。おい、ジャレス、この檻はなんだ?」

「良、悪く思わないで下さい」

 見れば佐百合も手を縛られて椅子に座らされている。眠っているようだ。

「佐百合、起きて」

 ジャレスが佐百合を揺さぶる。軽く頬を叩いた。

「いやっ! やめて。私、眠い」

「佐百合、起きなさい」

 佐百合が目を覚ました。

「え? 何? 私、眠ってたの?」

 ジャレスは佐百合の問いに答えなかった。

「あなた方に話があります」

「おう、こんな檻に入れられた理由わけくらい聞かせてくれるんだよな」

 ジャレスが冷たい瞳で俺を見る。いつもの愛想良さがまったくない。薄い唇がますます薄く横に引き締められている。

 やっぱり、こいつは食わせ者だったんだ。くそー、ここから出たら、あの高い鼻に噛みついてやる。いつまでも澄まし顔でいられると思うなよ。

「年に一回、ここでは祭りが行われています」

「ああ、月の祭りだろ。三人の月の女神を讃えた祭りだったよな」

「そう……、そう言ってあなた方を騙したのです」

「なんだと!」

「あなた方をここに連れて来たわけは、怪物の生け贄にする為です」

「生け贄!」

 俺達は同時に叫んでいた。

「生け贄って、ひどい! 安全だって言ったじゃない。安全を保証するって! それに……」

 佐百合がいい淀む。何を言いたいか、よくわかる。

 ジャレスが佐百合の唇にそっと指をおいた。

「佐百合、今は私の話を聞いて下さい。神官長アルゲルにも、他の神官達にも言っていないのです。あなた方を怪物の生け贄にする為に召還したとは」

 ジャレスが椅子を引き寄せて座った。

「私は異世界の貴重な情報がほしいからという理由で神官達に異世界との入り口を開けさせました。むろん、反対も多かったのです。異世界からやってきた人間が怪物に変身したらどうするのかと、反対する者達は言いました。そこで、私は入り口にまじないをかけられないか、研究させました。神官長アルゲルは優秀な男でしてね。古い書物の中から目的にあった呪を見つけて来たのです。男は四足の家畜に、女は美女に変身する呪いです。知識だけなら女で十分でしたから」

「じゃあ、最初から俺達はお前のいいように変身させられていたのか!」

「怪物に変身されると困るのですよ」

「だけど、封印は解かれていたのだろう。だったら、怪物に変身するわけないじゃないか!」

「封印が確実に解かれいている保証など、どこにもないのですよ。結果から推測したにすぎないのです。私は安全策を取ったのです」

「それで、俺は犬に変身したのか。あれ、でも発情すると人に戻るのは?」

「良、あなたの変身は神官長を悩ませました。ロバ達のように完全な獣になる筈だったんです。恐らく、神官長が言っていたのですが、あなたの首にかかっているお守り、倭国の呪いがかかったお守りであなたは守られているのではないでしょうか?」

「だー、そういう事か! これ、俺のばあちゃんのお守りなんだ。俺の身内はばあちゃんしかいなくてよ。俺が東京に来る時、俺に持たせてくれたんだ。絶対身に付けておけって言われてよ」

 ばあちゃん、ありがとうよ。俺、犬になったけど、正気は保てたから。

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