シーザー 五
シーザーは首都アルキヤの名物になった。
大きな生物というのはそれだけで魅力がある。
カスケルもジャレスも皆、シーザーが好きだったが、それでも、野生は野生で、万一の時はやはり殺すしかなく、そうなった場合を考えると俺はぞっとした。
俺は自分で思っているよりも、ずっとずっとシーザーを好きになっていたのだ。
人々は皆ギーの子供見たさにエンテ池に集まった。付近には、物売りや屋台が出てちょっとしたお祭り騒ぎだ。
首都アルキヤから、エンテ池に行くにはユン河を渡らなければならない。ユン河を往復する川船はいつも満席だった。シーザーのおかげで川船を安全に運行出来ないと文句を言っていた船頭達も、二倍三倍の儲けが懐に入るようになると、手のひらを返したようにシーザーを誉め称え始めた。
俺は書記官カスケルに言った。
「池の周りに観覧席を設けて金を取るといい。国営の見世物小屋を作るんだよ。税収だけじゃあ、国の収入は頭打ちだろ。国として商売するといいぞ。子供は入場料を安くしてな」
「国として商売ですか?」
カスケルが納得のいかない顔をした。
「利益を上げるのに抵抗があるんだったら、儲けた金は、恵まれない子供達に寄付すればいい」
「なるほど! では、最初から恵まれない子供達の為と銘打って観覧席を作りましょう」
これを聞いた佐百合がまたしても怒った。
「良ちゃん、シーザーで金儲けするってどういう事! シーザーは友達なのよ」
「だからなんだって言うんだ。人間社会で暮すには金がいるんだぞ。シーザーの食べる餌代だって馬鹿にならないんだ。シーザーが自分で稼げるなら、それが一番じゃないのか?」
こうして、池の周りには柵が設けられ、屋根付きの観覧席が作られた。貴族達はこぞって桟敷席を確保し、庶民は柵の間から覗いた。
金持ちが入場料を払い、貧乏人はこっそり只見というわけだ。
エンテ池一帯はシーザーランドと命名された。
命名したのはもちろん俺だ。
「ネズミの王国みたいじゃない」と佐百合が文句を言うので、「昔から遊園地はランドと決まってるの」と俺は言い返した。
俺とサララはシーザーの世話をする為に、毎日屋敷からエンテ池に通っていたのだが、観覧席と同時に管理人用の小さな家をカスケルが建ててくれたので、そこに移り住むようになった。
「毎日通うのは大変でしょうし、万一、シーザーが暴れ出した時、あなたが側にいないとまずいですからね」とカスケル。
気を使ってくれたのか、俺をもっと働かせたいのか、書記官としては両方なのだろう。が、居心地のいい一戸建てを与えられて文句のある筈がない。ただなあ、佐百合に簡単に会えなくなったのがなあ。今までだったら、ちょっと庭を回れば会えたのによ。まあ、いいさ。会いたくなったらサララに船を出して貰うさ。




