シーザー 四
準備が整った次の日、俺達はシーザーを連れて首都アルキヤに帰還した。
シーザーを中心に数十隻の川船でユン河を遡る。川船は花や布で飾られ華やかだ。
首都アルキヤは大変な騒ぎだった。
ギーの子供に乗ったジャレスを一目見ようと人々が集まった。こんなに人がいたのかと思う程の人、人、人の波だ。
河岸に設置された観覧席に族長が姿を表した。音楽が始まる。ジャレスがシーザーをぐるりと一周させた。もの凄い歓声が上がる。シーザーも得意そうだ。
ジャレスが人々に手を振った。一際大きな歓声が上がった。
なるほど、ジャレスの狙いはこれか。
人々の前で野生のギーを乗り回し、族長の息子、次期族長としての人気をあおる為だったんだな。
あーあ、俺とした事が、すっかり奴の笑顔に騙されたぜ。シーザーが好きだっていうのは本心かもしれないが、利用出来る物はなんでも利用するっていうその根性が気にいらない。
だが、今更言っても遅いし、俺達についてきたいと言ったのはシーザーだし、まあ、こうやってお披露目したんだから、シーザーが他のギーに間違われて殺されるってこともないだろう。
結果オーライといこうか。
シーザーのお披露目が終わり、ジャレスはサララをシーザーの世話係に任命した。つまり、俺が補佐役ってわけだ。ま、おまけみたいなもんかな。
ジャレスはユン河にシーザー用の生け簀を作っていた。大急ぎで作ったのだろう、木製の杭と網で囲ってあるだけだ。
俺は、生け簀に入れられたシーザーに、そこで大人しくしているように言ったが、シーザーは嫌がった。
「ココ、セマイ! シーザー、モットオヨギタイ」
シーザーは生け簀の網をさっさと壊して、ユン河を自由に泳ぎ始めた。
「ワンワン(シーザー、駄目だ。生け簀に入れ!)」
と怒鳴ってみたが、シーザーは言う事をきかない。
「シーザー、生け簀に入りなさい。餌を上げないわよ!」
とサララが脅したが、シーザーはそっぽを向いて知らん顔だ。
泳ぎ回っていたシーザーは漁民がユン河に仕掛けた網を壊し、かかっている魚を勝手に食べ始めた。サララが漁民に頭を下げ金を渡してまわる。しかし、怒った民人は屋敷にやってきて、声高に怒鳴り始めた。
「川船に安心して乗れない」
「魚の網を破られた」
「せっかく取った魚を食べられた」
苦情をきいたジャレスは、シーザーをユン河の向こう岸にあるエンテ池に移すと言って民人達をなだめた。
エンテ池は、ユン河が氾濫した時に水を逃がす為にある池で、普段は誰も使っていないそうだ。
「ワンワン(シーザー、もっと広い所に行くぞ)」
「ヒロイ トコロ?」
「ワンワン(ああ、広いぞ。きれいな花も咲いてるしな。見たくないか?)」
「シーザー、ミタイ」
実際、エンテ池にはたくさんの蓮の花が咲いていた。
「ワンワン(どうだ? きれいだろう)」
俺は自分の物のように蓮の花を自慢して見せた。
「ウン、キレイ」
シーザーはエンテ池が気に入った様子で、広い池を自由に泳ぎ回った。
シーザーを迷惑がっていた民人も、シーザーがエンテ池で泳ぐようになると、こぞってシーザーを見物にやってきた。




