シーザー 三
「ワンワン(こちらはジャレス。顔は知ってるだろ。こいつは立派な男でな。優しいし、おまえを大事に思っている。俺達と同じように、友達になってやってくれないか)」
「シーザー、ジャレス、ト、トモダチ、ニナル」
「シーザーは何といっているのです?」とジャレス。
「友達になりたいとよ」
「シーザー、私はおまえをとても好きだ。私もおまえと友達になりたい」
俺はシーザーにジャレスの言葉を翻訳した。
シーザーがクウと鳴きながら、ジャレスに頭を寄せた。辺りにいた兵士達が剣の柄に手をかける。
「大丈夫だ。シーザーは私と友達になりたいだけだ」
ジャレスが手を伸ばしシーザーの耳の後ろを撫でた。
「シーザー、気持ちがいいか?」
シーザーが頭を縦にふる。
「ワンワン(ジャレスの言葉がわかるのか?)」
「イマノハ、ワカッタ。キモチイイ」
「ジャレス、シーザーは気持ちいいそうだ。短い言葉なら雰囲気でわかるようだな」
「そうか、私を背中に乗せてくれないか?」
「ワンワン(ジャレスが背中に乗りたいと言っている。わかったか?)」
「ウン、ワカッタ」
シーザーがまたしても、頭を縦にふった。
ジャレスは、シーザーの背中に勢いをつけて飛び乗る。
「どうだ? 重たくはないか?」
シーザーが頭を横に振る。
「そうか、シーザー、私は長く潜れない。私を乗せている間は、背中を水の上にだしていてくれるか?」
「ワンワン(シーザー、ジャレスは長く潜れない。ジャレスが乗っている間は背中を水の上に出していてくれ)」
シーザーが頭を縦にふった。
ジャレスはシーザーの背に乗って、湾の中を泳いで回った。ジャレスはシーザーの首筋を叩いて、曲がる方向を指示しているみたいだ。
くそぉ、妬ける、妬けるなぁ。俺が人間だったら、あんなふうに乗れるのによ。
ジャレスは何をやっても様になる。シーザーの背にのったジャレスは、海神ポセイドンの息子トリトンのようだった。
俺なんてシーザーの頭に乗れるんだぞ、どうだ参ったかと、心の中で負け惜しみを言って見たが、気持ちは晴れなかった。
湾をぐるぐると回っていたジャレスが浜に戻って来た。
「佐百合、一緒に乗りませんか?」
ジャレスが佐百合に手を差し出す。
「え、いいんですか!」
佐百合が海にバシャバシャと入って行く。シーザーの前ビレに足をかけ、嬉しそうにジャレスの手を取った。
ジャレスが佐百合を自分の前に座らせる。
シーザーがゆっくり泳ぎ出した。
あーあ、あんなに嬉しそうにして。佐百合、騙されるなよ、なんてね、心の中で言ってみる。
佐百合をさんざん騙した俺が言うのもおかしな話だよな。
書記官カスケルは、近くの漁民や村長、川沿いの総ての民人に首輪をしたギーを攻撃してはいけないと通達を出した。
浜の村長がカスケルに、ギーの体を調べたのですかと聞いたらしいが、カスケルは調査中だと言ってごまかしたらしい。




