シーザー 二
「あ、いいなあ、良ちゃんだけずるい! 私も乗りたい!」
「明日、シーザーに頼んでやるよ。シーザーは真水でも泳げるんだ。ユン河を遡れば、首都まで一緒に行けるしな」
「え? 良ちゃん、シーザーを連れて行くの?」
「ああ、そのつもりだ」
「だって、あの子、大食らいよ! アルキヤに連れて行って、何を食べさせるの?」
俺は何も考えていなかった。何を食べさせ、どこに住まわせるのか?
住むのはユン河に住めばいいだろう。あの河は広い。シーザー一匹くらいなんでもない。しかし、食べ物なあ。今でも、魚が不足気味なのに。川魚で足りるかな。いや、やはり、無理があるなあ。
翌朝、俺はシーザーにやっぱり連れて行けないと話した。
「ワンワン(食べる物がないんだ。やっぱりここでお別れだ。シーザー、海にお帰り)」
「シーザー、ヤダ、オワカレ、イヤ。ツレテイッテ。オネガイ。シーザー、ナンデモタベル。イッショニイク」
シーザーの大きな瞳から涙が流れた。おい、首長竜ってのは、泣くのか?
「ワンワン(わかった、シーザー、泣くな。なんとかするから)」
俺はサララに、いろいろな食べ物を持って来させた。
ミルクを飲んだんだから、肉食もいけるかと思ったら、いけた。シーザーは大抵の物を食べた。シーザーは雑食系だったのだ。
「シーザー、ニク、スキ」
果たして、野生のギーに肉の味を覚えさせて良かったのかと思ったが、仕方なかった。
「ワンワン(いいか、シーザー、肉は俺達が食べていいっていうのだけ食べるんだぞ。魚は川や海を泳いでいるのを食べていい。だけど、肉は俺達が出した物だけ食べるんだぞ。そうしないと病気になるからな)」
「シーザー、ビョウキ、イヤ。シーザー、ダサレタニク、ダケ、タベル」
「ワンワン(よーし、いい子だ)」
シーザーを首都アルキヤに連れて行くなら、こっそり連れて行くわけには行かない。あの大きさだし、なついているとは言っても野生のギーだ。俺は書記官カスケルやジャレスに、シーザーが一緒に行きたいと言っていると相談した。
ジャレスは二つ返事でオーケーしてくれた。
「私もシーザーが大好きなんです。アルキヤに連れて帰ったら、皆、喜ぶでしょう。なんといっても生きたギーですから」
ジャレスが無垢な笑顔を浮かべる。
ふーん、こいつにしちゃ、珍しく本心を言ってるみたいだな。
「シーザーは、表向きは、私が捕まえた事にしましょう。もちろん、良、あなたのお手柄ですが、異世界人のあなたを表に出すわけにはいきません。私が捕まえたとすれば、貴族や民人達も納得するでしょうし、あれに何かあった時の責任は、私が取ればいいですからね」
「何かあった時って?」
「シーザーが野生の本性を出して、暴れないとは言い切れないでしょう。その時、人的被害が出るかもしれません」
「なるほど。だったら、やっぱり、シーザーを連れて行くのはやめよう。シーザーが、もし、暴れて誰かが犠牲になったら、俺はシーザーを首都に連れて行った事を後悔すると思う」
「あくまで最悪の場合ですよ。良、あなたからシーザーに暴れないようによく言ってきかせて下さい。頼みましたよ」
シーザーを連れて行きたいと頼みに行った俺が、逆にジャレスから頼み事をされてしまった。
シーザーは俺の言う事はよく聞くが、だがなあ、何かの拍子で暴れ出さないとも限らない。檻にいれておけるものでもないし、自由に泳ぎ回って尚かつ安全にって、こりゃ難題だ。
シーザーを連れて行く話を聞き及んだのだろう、書記官カスケルがシーザーに首輪を付けて他の野生のギーと区別してくれと言ってきた。
「間違って殺してしまわないようにする為です。万が一という事がありますからね」
カスケルの心配も最もだ。なんといってもシーザーはギーなのだから。
俺と佐百合、サララと三人でシーザーに首輪を巻いてやった。頭のすぐ下だから、ちょっと首を出せば、シーザーだとわかるだろう。
「ワンワン(どうだ、痛くないか?)」
「ウン、イタクナイ」
俺はシーザーにジャレスを改めて紹介した。




