シーザー 一
俺達が助けたギーの子供は、メキメキと回復していった。体の色も灰色からきれいなブルーグリーンに戻った。
佐百合とサララが協力してギーの世話をしている。俺もワンワン語でギーに話しかけた。ワンワンと吠えてみただけなのだが、ギーの子供が俺になついた。なんとなく、通じているような気がする。
「ワンワン(こっちに来い!)」
ギーがあしかのように前ビレでついてくる。
「いいね、図体がでかいけど、可愛いじゃないか。よし、一つ名前をつけてやろう。ポチってのはどうだ?」
「ポチ? 犬じゃないのよ! 首長竜なのよ!」
佐百合が憤慨したように言う。
「じゃあ、ポチザウルス」
「ポチから離れなさいって言ってるの! 私、シーザーにしたい」
「えーっと、ローマ帝国の?」
「そうよ。私、ファンなのよね。だって、カッコいいじゃない。『賽は投げられた』とか『来た! 見た! 勝った!』とか」
「ファンならよけい首長竜につけるのはおかしくない?」
「ポチよりましよ。おいで、シーザー」
ギーの子供は、佐百合がシーザーと呼んで手招きすると首を佐百合の方に向けた。シーザーという名前が気に入ったようだ。名前はシーザーに決まった。
元気になったシーザーは海で泳ぐようになったが、俺達のいる浜辺から逃げようとしなかった。餌の時間に浜辺で呼ぶと、すぐに頭を出した。
シーザーはすっかり俺達になついていた。佐百合がシーザーに棒を投げると喜んで取ってくる。シーザーが俺に棒を投げ返す。俺が走って棒をキャッチ。佐百合に届ける。佐百合が、「えらい、えらい」と言って俺の頭を撫でてくれた。
「佐百合、俺、大人の男だから」
「うふふ、いいじゃない。今は小さなテリアなんだから!」
佐百合の笑顔。俺に向けられた、俺だけの笑顔。
ま、小さい犬コロになるのも、悪くないかもな。
しかし、いつまでも海辺の別荘にいるわけにはいかない。俺達は首都アルキヤに戻る準備を始めた。シーザーにワンワン語で、もうすぐお別れだと話した。
「ワンワン(また、会えるといいな)」
「イヤ、アソンデ、アソンデ」
「な、なんだ? 今のは?」
「ボクダヨ! シーザーダヨ!」
「ワンワン(おまえ、言葉がわかるのか?)」
「ウン、ワンワン、ナラワカル」
「ワンワン(ええ!)
俺は仰天した。これって、もしかして、異種間コミニューケーションか?
いや、もしかしてじゃなく、マジで異種間コミニューケーションだ!
「ワンワン(じゃあ、俺達と一緒に来るか?)」
「イッショ?」
「ワンワン(川を泳いで行くんだ)」
「カワ?」
「ワンワン(ああ、真水が流れている所なんだが、真水、泳げるか?)」
「マミズ?」
「ワンワン(じゃあ、俺をのせてくれ。川につれていってやる)」
「ウン」
俺はシーザーの頭の上に乗った。浅瀬を出て、首都アルキヤに通じるユン川の河口に案内する。
「ワンワン(ここが川だ。海の水と味が違うだろう。これを真水っていうんだ。わかったか?)」
「ウン、ワカッタ」
「ワンワン(この川を遡るんだが、真水の中で泳げるか?)」
シーザーが河口の水に身をひたした。試しているようだ。
「オヨゲル。オヨゲルヨ!」
シーザーが嬉しそうに言う。
「ワンワン(じゃあ、俺達と一緒に行くか?)」
「ウン、イッショニイク」
俺は別荘に戻って、シーザーに乗ったと佐百合に話した。




