ギーの子供 四
これで、下顎の外から引っ張れば抜ける筈だ。
アシアンが厚手の布を剣に巻き付ける。顎の下側から剣を引っ張った。肉が剣にからんでいる。抜けそうにない。カスケルが手を貸す。二人掛かりで引っ張って、ようやく抜けた。族長付きの医者が傷を縫い合わせる。
「剣が抜けましたから餌が食べられるようになるでしょう」カスケルが言う。
「いや、これだけ弱っていると自分で食べられないんじゃないか?」と俺。
「え、そういう物なんですか?」
カスケルが医者の方を振り向いた。
「さよう、ここまで弱っていると、無理ではないかと」
俺は昔テレビで見たアシカの子供を育てる飼育員の話を思い出した。
「牛乳の中に小魚をいれて流し込んでくれ。以前、なんかの番組でアシカの子供にそうやって餌をやっていた」
医者がなるほどという顔をしてうなづいた。
カスケルの指示で小魚入り牛乳が用意された。ギーの口に流し込む。だが、ギーは吐き出してしまった。もう一度流し込む。
「わんわん(おい、飲み込め。飲み込まないと死ぬぞ!)」
ギーがうっすらと目を開いて俺を見た。俺が何といったか、わかったのかもしれない、ギーはゆっくりと飲み込んでいった。
ギーは小魚入り牛乳を何度となく飲み込んだ。十分に食べたギーは、そのまま海岸で眠ってしまった。俺達は見張りを残して別荘に引き上げた。
その夜は、ギーを助けた話で宴会が盛り上がった。
「ギーには知能はあるのですか?」
佐百合が書記官カスケルに訊く。
「さあ、どうでしょう? 今までは、そのように考えていなかったので」
「私達の世界にはイルカという動物がいるのです。高い知能をもっていて、教えるといろいろな芸をするのですよ」
「では、ギーに芸を教えるのですか?」ジャレスが言う。
「出来るといいですね」
「美しいあなたが頼めば、ギーも言う事をきくでしょう」
ジャレスが歯の浮くような台詞を言う。佐百合がぽーっと顔を赤らめた。
あーあ、見てられないね。
佐百合、もっと学習しろよ。俺みたいな赤詐欺に手玉に取られて恋愛に失敗しているくせに、何回、同じ失敗を繰り返せばわかるんだ。男は狼なんだよ! あんな台詞に心をときめかせるなよな。
と佐百合に言いたいが、そういうわけにもいかないしな。なんといっても、俺が赤詐欺だって事は佐百合にはナイショなんだからよ。
俺は酔ったふりをして、こっそり席をはずした。




