ギーの子供 三
俺はサララの腕から飛び降りた。ギーに近づく。
「いけません、それ以上近づいては。弱っていてもギーです。危険です」
サララが剣の柄に手をかけておれに警告する。
「大丈夫だって。俺、こう見えても逃げ足早いから」
「しかし……」
サララが心配するので、ちょっと遠いけど、そこからギーに吠えてみた。
「わんわん(おい、おまえ、口に刺さった剣を抜いてやるからな。じっとしてるんだぞ。噛むなよ。俺のいう事、わかる?)」
俺は犬の吠え声で、ギーの子供に話しかけてみた。通じるわけないけど、気は心だ。
俺は何度も繰り返した。
ギーの子供がもう一度、うっすらと目をあけて俺を見た。その目には何も映っていないようだった。
「サララ、大丈夫だ。こいつ、死にかかっている。口に手をいれても大丈夫だろう」
「いいえ、万が一という事があります」
サララは用心しながら、ギーの口元に近づいた。俺達は間近で口に刺さった剣を見た。
剣が曲がっている。これじゃあ、抜けるわけがない。
やってきた書記官カスケルが開口一番サララに小言を言った。
「まったく、なんて事をしれてくれたんです。私はギーの研究なぞしていないんですよ。村長になんていうんです」
「しかし、良さんのたっての頼みでしたし、良さんの頼みは可能な限り叶えるようにと言われていましたから」
カスケルが狐目のまなじりを下げ、ため息をついた。
「仕方ありません。起きてしまったのですから。で、どういう状態なのです?」
「剣が折れ曲がって、抜けないのです。その為、まともに餌が食べられなかったようで」
カスケルはきびきびと指図をして、丈夫な布をもってこさせた。ギーの口を開けさせ、布を引っかける。布を左右に引っ張って、口を大きく開けさせた。上あごと下あごをがっちりと固定。剣を抜く作業中にギーが口を閉じないようにした。
それから曲がった剣を石で打って真っすぐにしようとしたが、うまくいかない。
突然、ギーが前ビレをばたつかせた。痛いのかもしれない。
そこにジャレス、アシアン、佐百合がやってきた。
「ギーの子供が上がったってきいたけど。凄い! おっきい!」
佐百合が歓声を上がる。
「この子、死にかかってるの?」
俺は佐百合の腕に飛び乗った。
「ほら、この間、海でギーの子供に襲われたって言っただろう。あの子なんだ。剣が下顎に突き刺さって、餌が食べられなかったみたいでな。今、剣を抜こうとしている所」
佐百合は下顎にささった剣を一目見るなり言った。
「ジャレス様、あの剣、柄を外せないのですか?」
「柄? おお、なるほど! 柄というか十字鍔の部分ですね」
「私が外します」
アシアンが短剣を鍔の辺りに差し込み、なにやらガチャガチャとやり始めた。ガチッと音がして、鍔が外れた。




