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サララ

 サララの旦那はやはり兵士だった。北の山脈に盗賊がいて、そいつらを討伐に行って死んだらしい。盗賊といっても大規模な組織で、激しい戦闘だったそうだ。

「北の山脈の盗賊は、元は農民達だったのです。この所続く災害や、飢饉で食べて行けなくなって仕方なく山賊になったのです」

「え? 飢饉なんかあったの? この街を見ている感じじゃあ、そんな荒れた感じはないけど」

「十年前、はるか西の火山が爆発したのです。その影響で、雲が我が国の半分を覆い、雲に覆われた場所はすっかり日照不足になってしまったのです。カーリセンの西には広く田園地帯が広がっていましたが、そこからまったく米が取れなくなってしまいました。その時、田畑を捨てて北の山脈に逃げた人達が山賊になったのです」

「ふーん、山賊みたいな烏合の衆、訓練された軍隊が行ったら、簡単に制圧出来たんじゃないのか?」

「それが、元兵士も混じっていて」

「そいつはやっかいだな。そいつら、今も幅をきかせてるの?」

「いいえ、私の夫が遠征した戦で首領格を殺しましたので、今はさほどでもないです」

 俺は寝物語に、サララの旦那や彼女の武勇伝をきいた。

 セレリンと違って、サララは王宮の兵士として、今も警備にあたっているそうだ。サララが仕事をしている間、俺は退屈しのぎに、屋敷を探険してまわった。

 テリアの体になってよかったのは、人の体では入れない所に行ける事だ。

 石造りの屋敷は、ちょっとした平城ほどの広さがある。

 いろんな所を歩いていると、佐百合の声がした。誰かと一緒だ。

「……国勢調査をすれば、国民の今の実体を知る事が出来ます。人口統計をグラフ化すれば、どの年代の人口が多いかわかりますし、将来どういう国作りをすればいいかも見えてきます」

「あなたは美しいだけでなく、有能な方なのですね」

「いえ、そんな……」

「それに、心映えも優しい」

 佐百合と話しているのはジャレス・ジャサイダ。族長の息子だ。

 ジャレスが佐百合に笑いかけている。この笑顔。こういう笑顔をどこかで見たぞ。そうだ、ホストクラブだ。ナンバーワンホストが客の心を掴む時に浮かべていた。ぜーったい佐百合は騙されている。しかし、何故だ。何故ジャレスが佐百合を騙す必要がある?

 体目当てだろうな。佐百合に財産はない。こちらの世界では無一文だ。強いていうなら、我々の世界の知識が財産だろうか。


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