夢 二
俺は夢の中にいた。
いつもの夢だ。あの忌まわしい夢だ。姉が「良、もうすぐご飯よ」という。
実家の戸を開けようとすると、ばあちゃんが止めにくるんだ。
「ばあちゃん、大丈夫。俺、もう大人だから」
「良!」
俺は姉ちゃんと一緒に玄関の扉を開けた。
どっと押し寄せる鉄っぽい匂い。血の匂いだ。俺は玄関の三和土に足を踏み入れる。靴を脱いで和室に向う。
目の前は血の海だ。
蝉の声がやかましいのに。
平和な筈なのに。
それなのに、目の前に母ちゃんが死んでて、血が一杯流れてて、父ちゃんが柱に括り付けられていて、やっぱり死んでて、目を一杯に開いて恐ろしい形相で。
俺の父ちゃんはあんな顔じゃない。
真っ黒で目が飛び出して。
母ちゃん。
「良、助けて」
姉ちゃんが、高校の制服着てた筈の姉ちゃんが裸で、真っ赤な血を吹き出しながら「良、助けて」って。
姉ちゃん!
ごめん、姉ちゃん。
俺、助けられない。
助けられなかった。
「まだ、いたのか?」
怪物だ。
怪物が奥から出て来た。
俺は逃げた。
「良、助けて!」
姉ちゃんが追いかけて来る。いや、怪物だ。怪物が追いかけてくる。
「良、こっち。こっちに早く」
ばあちゃんだ。
ばあちゃん、ダメだ、隠れて。怪物が来る。
俺は汗びっしょりになって目を覚ました。




