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疑問

 その夜、屋敷に戻った俺達は書記官カスケルからこっぴどく叱られた。

 叱られて意気消沈している所に佐百合がやってきた。佐百合は俺が女といちゃいちゃするこの離れが嫌いで寄り付かなかったんだが、今日は来てくれた。

「良ちゃん、ギーとかいうのに襲われたんですって? 大丈夫だった?」

 佐百合は優しい。ケンカしてても俺の心配をしてくれる。

「ああ、大丈夫だ。アシアンがいてくれたからな。凄かったんだぞ。こーんな大きい口の中にずぶりと剣を突き刺したんだ」

「アシアンさん、良ちゃんを守ってくれて、ありがとうございます」

 佐百合が丁寧に頭を下げる。

「いえ、任務ですから」

 アシアンが照れくさそうに応えている。嬉しそうだ。

 佐百合のような美人に声を掛けられたら、どんな男でも舞い上がるわな。

 セレリンがアシアンを引っ張って部屋の外に連れ出してくれた。気を使ってくれたらしい。

「ギーってどんな動物だったの?」

 佐百合が興味深そうに訊く。

 あれ、えーっとケンカしてたと思ったんだけど。ケンカはどこに行ったのかな?

 機嫌を直してくれたと思っていいみたい。

「何?、良ちゃん?」

 いいながら佐百合が長椅子に座る。俺は佐百合の隣に飛び乗った。

「あ、いや、何でもない。えーっとだな、ギーってのは、恐竜だ。首長竜だと思う」

「こちらの世界って、地球の古生代にあたるのかしら? それにしちゃあ、哺乳類がいるけど」

「進化の仕方が違うんじゃないか?」

「ていうか、首長竜によく似た別の生物かもしれないわ」

「おお、なるほど! そうだな、俺も首が長いから首長竜と思っただけだからな。俺、学者じゃないし」

「ね、そのギーってもういないの? 怖いけどちょっと見たかった」

「ああ、漁師達がケレンっていう実を巻いて追っ払ってたな。あんな奴見に行かない方がいいと思うぜ。俺達は管理された動物しか見た事がない。あれは野生でしかもとびきり凶暴そうだったからな」

「私、ホェールウォッチングに行った事がある」

「クジラは人を襲わないだろう」

「でも、野生だし、人は襲わないけど、人だからって気を使わないし」

「で、何がいいたいんだ?」

 佐百合が自分の手を見てモジモジとする。言いたいけど言い難いから言えないみたいな。が、結局小さい声で言った。

「私も海に行きたい」

 ああ、なんだ。そんな事か。なんだか俺は嬉しくなった。見た目は堂々とした美人に変身したのに、中身は相変わらずおどおどと自分のしたい事がなかなか言えない佐百合だった。

「行けばいいじゃないか」

「だめなの」

「はあ? なんで?」

「今ね、国勢調査の準備をしているの。ここの人達って、自分達が治めている国の事、あんまり知らないの。だからね、国勢調査をしたらって教えたの。で、国勢調査って私しかしらないでしょ。だから休みを取るわけにはいかないの」

「だけど、少しは休まないと体がもたないだろう。海に行く休みくらい取れよ。俺からカスケルに言ってやろうか?」

 佐百合が俯いた。迷っているみたいだ。

「……ううん、大丈夫。自分で言ってみる」

「そうだな。佐百合、自信もてよ。今はすっごい美女なんだからさ」

「ありがとう良ちゃん」

 佐百合がにこっとする。お、笑いかけてくれた。やっと機嫌がなおったか。

「あのね、良ちゃん、ちょっと気になる事があるの」

「なんだ?」

「ここの人達ってね、女性の人口が圧倒的に多いのよね」

「なんで知ってるんだ?」

「各役所にある人頭帳をね、数えてもらったの」

「そういえば、ジャイーダもそんな事を言っていたな。男が少ないんだろ。女性が余ってるから再婚は難しいそうだ」

「これって普通の状態じゃないでしょ。普通、自然にしてたら、男女の比率は百六対百でわずかに男性が多い状態なの。でもここは百対百十なのよ。圧倒的に女性の方が多いわけ。不自然になった原因を聞いたら、カスケルさんがね、最近、災害が多いからじゃないかって。大きな災害が続いたって言ってたわ」

 夢中で話す佐百合。いいなあ、きらきらして。

「ねえ、おかしいと思わない?」

 佐百合に見とれていた俺は、はっとして我に返った。

「うーん、災害なら別におかしくないだろ?」

「疫病でたくさんの男性が死んだっていうんだったらわかるんだけど、災害っていうのは老若男女関係なく襲うでしょ。だから、比率は変わらない筈なの。なんだか、私達に隠している事があるような気がする」

「まあ、俺達はお客さんだからな。あまり逆らわずに彼らに協力しといた方がいいぞ。無事に帰れるまではな」

「そうね。でも……」

「なんだ?」

「なんていうのかな。ここの人達から頼られるのが凄く嬉しかったりするのよね」

「帰りたくなくなったか?」

「ううん、そうじゃないけど、その、人から大切に扱われるのっていいなって思って」

 ふーん、佐百合を大切に扱っているのは誰だ? もしかしてジャレスか?

 ああいう王子様タイプに女は弱いンだよなぁ。なんか、むかつく。

「ああ、そうだな。俺もハーレムって最高だなって思ってます」

 俺はむかついた弾みに失言をしてしまった。

 佐百合の顔がみるみる真っ赤になる。眉がつり上がった。輝く金髪が生き物みたいに逆立つ。

「もう、良ちゃんのエッチ!」

「いて!」

 佐百合が思い切り俺の頭を叩いた。

「痛いじゃないか!」

「私の心はもっと痛いの!」

 佐百合が走って出て行った。

 俺はまたまた佐百合を怒らせてしまった。

 あー、だんだん叩かれるのが快感になって来るなあ。

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