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セレリン 二

 初めての夜から一週間。

 俺はセレリンと一緒だった。彼女は俺をかいがいしく世話してくれた。ブラッシングしてくれたり、風呂に入れてくれたり、散歩に付き合ってくれたり、本を読んでくれたりと至れり尽くせりだ。

 その日、俺はたらいに入った水につかっていた。暑い日の午後はたらい水にかぎるね。セレリンが俺の背中に水をかける。細い指を毛と毛の間に滑り込ませゆっくりとマッサージしてくれる。ああ、極楽!

「俺も漁に行ってみたいな」

 半分冗談で言ってみた。話のきっかけって奴だ。

「いけません。漁はとても危険なのです。海に落ちたらどうするのです」

 彼女が凄い剣幕で怒った。

「あ、そう。ま、えーっと心配してくれてありがとう」

 セレリンがあっという顔をして口を抑えた。しまったという顔をしている。

「すいません、いい過ぎました」

「いいの、いいの、気にしなーい。ねえ、漁はどうやってするの? 網か何か使って魚を取るの?」

「潜るんです、潜って海の底にある貝を取ってきます。おいしんですよ」

「へえ、うまそうだな。一度、食べてみたいな」

「あばら屋ですけど、いらっしゃいますか? 私の家に」

「うん、行く行く」

 翌朝、俺がセレリンと彼女の家に出掛けようと廊下を歩いていると、カスケルに見つかった。

「いけません。無闇に屋敷の外に出たら。誘拐されたらどうするんです」

「あのさぁ。犬コロの俺が異世界からの人間だってわかる奴はいないって」

「しかし、万一という事があります」

 カスケルはアシアン他数人の兵士を護衛に付けてくれた。

 大げさだなあと思ったが、ここは異世界。カスケルが心配するのもわかる気がする。ま、大勢の方が楽しいから、良しとするか。


 海岸近くにある彼女の家は漁師小屋のような質素な家だった。

 彼女の子供、三つになる男の子は俺を見るなり走ってきて、「わんこ、わんこ」と言いながら俺を抱き締めた。抱き締めるだけなら良かったが、尻尾を引っ張られたのには参った。

 子供の名前はアズルカ、夫の母親、義母が面倒をみているんだそうだ。セレリンの収入で親子三人生活しているのだという。

 表向きはアシアンがセレリンの家を訪ねた形になっている。他の兵士達は、村の食堂で休ませた。大勢でいるのは楽しいが、小さな村に大勢の兵士がやってきたら目立ってしょうがない。

 義母は嫁が新しい男を連れて来たと勘違いしたようだ。

「セレリンがジャイーダ様の召使いになって、本当に助かっているのですよ。でも、休みにならないと、母親に会えない孫が不憫で。アルキヤの街で部屋を借りればいいのでしょうが、知り合いのいない所で暮すのは不安で」

 義母がアシアンに愚痴っている間、俺はセレリンの家を見て回った。

 寝室、台所兼居間という二間だけの小さな家の壁に一本のナイフが飾られていた。

「ねえ、このナイフ。君の?」

「主人の形見なんです。漁に行く時はいつも身につけて行くんですよ。お守りなんです」

 セレリンは海に潜る服装に着替えていた。召使いのお仕着せではなく、短い上着を青い帯できゅっとしめて、下に短いズボンのような物をはいている。

 体の線がはっきりでてて、いいねえ。胸元が大きく開いてて色っぽい。

 セレリンは壁からナイフを取り上げて腰に刺した。ちょっと恥ずかしそうに上着の裾を引っ張る。

 ああ、そそられる。

 セレリンが俺の耳元に口を寄せて、ささやいた。

「近くに岩場があるのです。そこなら、あなたでも大丈夫ですよ」

 義母に行ってきますと声をかけて、アシアンと俺達は岩場に向った。

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