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プロローグ

 199X年、夏。

 刑事新山秋宏にいやまあきひろは、惨劇のあった室内を見回した。

 父親が括り付けられていた柱。夫の目の前で乱暴され殺された妻の遺体があった床の間。

 同じく両親の前で乱暴され殺された十六歳の少女が倒れていた八畳間の和室。

 遺体はすでに片付けられていたが、壁や床に飛び散った血の痕が惨劇の凄まじさを語っていた。

 新山は縁側の廊下を通って奥へ進んだ。食堂、台所の奥に風呂場があった。戸を開けて中を覗いた。ここで犯人は体を洗ったのだ。

 新山は大きくため息をついた。

 現場は山奥の村だった。辺りには日本の原風景ともいえる田畑が広がる。山と山の間にある小さな集落。その片隅にある農家が惨劇の舞台だった。

 まだ調査の段階だったが、物盗り目的ではないと新山は思っていた。母親の財布に現金が残っていたからだ。或は、取る暇が無かったのかもしれない。


 子供が一人、生き残っていた。

 子供は近所の子らと近くの川で遊んでいて、異変にはまったく気が付かなかった。夕方家に戻って、惨劇を目の辺りにした。

 そして、犯人と鉢合わせした。

 子供は悲鳴を上げ、本能のまま逃げた。大人には通れない子供だけの逃走経路を使ってひたすら走った。走って走って、村の駐在所に駆け込んだのである。

 駐在所に勤務していた初老の警官は、最初、子供のいたづらだと思った。小さな村である。その子供がいたづら好きで両親を困らせている話を警官は聞き及んでいたし、こんな田舎で人が殺されるわけがないという思い込みもあった。

 初動の遅れが、犯人の逃亡を助けた。

 結局、県警に連絡が入ったのは、夜になってからだった。直ちに捜査本部が設置され、警察は犯人の行方を追った。


 新山は、駐在所に保護されていた子供に話しかけた。

「犯人を見たか?」

 子供は頷いた。

 県警から、似顔絵の担当官が呼び寄せられ、子供の証言から犯人の似顔絵が作られた。

 子供は見覚えの無い車も見ていた。

「灰色の、ワンボックスカー。家の前に止ってた」

「偉いぞ、坊主。おじさんが必ず犯人を見つけてやるからな」

 新山は子供に約束した。

 惨劇のあった集落から国道へは一本道だった。犯人の乗っていた車の特徴がわかり、似顔絵があったので、犯人はすぐに見つかるだろうと警察は思った。しかし、犯人は見つからなかった。


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