星に願いを-アルスタットバージョン
蒲公英様主催「ささのは企画」参加作品(正し大幅遅刻)です。
拙作、「刀様の言う通り!?」の番外編にもなっていますが、そのままでも充分大丈夫だと思います。
(単純な作業だけど、地味に指が痛くなるよね、コレ)
2cm幅の紙を縒りながら、そう思ってため息をついたあたしに、
『ほれ、あともう少しだ。言っておる間に終わるぞ』
と言う菊宗正。そんなこと言うんだったら、ちっとくらい手伝ってくれてもいいじゃんよ~。
『そう、何でも我をあてにするものではない。大体、紙を縒るなどということが我に出来るかどうか考えてもみよ』
そしたら、間髪入れずにそう返ってきた。ま、紙縒づくりなんて、刀向きの仕事じゃないのは解ってるけどね。なんかあたし一人が頑張っちゃってる気がしてさあ……
『そもそもそれは主の発案。我が言い出した事ではない』
んとにもぉ、取り付く島さえ与えてくれないんだから。
んで、あたしがなんでこんなものを作ってるかというと、「Tavelna la Bianca」のイベントのため。
亜熱帯気候に属するアルスタットは、気温の変化が日本ほどなくて、だからなのか解らないけど、日本ほどイベントがないのよね。じゃぁ、この際だから日本のイベントをもってきちゃおうってね。
で、持ってくるのは、七夕。排ガスのないアルスタットでは毎日降るように星が見えるし、夜の方が断然涼しいから。ただ、見える星の配置は違うから織り姫彦星の話はできないんだけどさ。短冊に願い事を書いて吊すくらいはできるかなって。
てなわけで、あたしは店の前にタトラ(笹がこっちにあるのかどうかは知らないけど、とりあえずケイレス周辺によくある柳のような木)を5鉢置いて、「それに願い事を書いて吊してください。願いが叶います」と張り紙をした。すると子供たちはもちろん、大人たちも、
「こんなんで願いなんて叶うのかね」
といいつつ、一人また一人と書いてくれて、5つのタトラは七夕の当日までに、短冊でいっぱいになった。
みんなの願いが叶えばいいなとは思ってはいたけど……
実際問題、そのお願い叶い率がハンパなかったのだ。菊宗正が何かやったのかって? ううん、あの中途半端にチートな刀にはそこまでの能力なんてないよ。
理由は短冊。短冊には名前も書いてもらったから、結局その人の願い事って、みんなに丸バレなんだよね。そしてそれを見たその人の周囲の人たちが、叶えられることはみんな叶えちゃったっていうのがその真相。
でも中には本当に奇跡のようなこともあったりして……
「ノーマちゃん、僕『コーデに会いたい』って書いたら、本当にコーデが夢に出てきたよ」
少し戸惑ったような表情でそう言ったのはジェイ陛下。彼はこの国の王様で、あたしの旦那オービルの妹ナタリアさんの旦那様だ。因みにコーデというのは、謀反の罪で幽閉されたジェイ陛下のもう一人のお后様コーデリア。
でもね、幽閉されたことになってるけど、ホントはあたしと入れ替わって今、日本にいるはず……きっと。
「でね、コーデが夢の中で『わたくしは今とても幸せですから、心配しないでください』って何度も言うんだよ。あんまり一生懸命言うもんだからさ……」
思いすぎてなんだか都合の良い夢を見てしまったんじゃないかとジェイ陛下。
「そんなことないと思うよ」
とは言ったものの確かめる術なんて……あるか。
あたしは菊宗正に手をかけて、
(ホントのとこどうなのよ)
とこっそり聞いてみる。すると菊宗正は、
『ああ、言ってはおらんかったか。かの娘は主の兄に拾われて、元気に暮らしておる』
とあっさり元正妃さんの消息を報せるもんだから、思わず、
「げっ、コーデさん、お兄ちゃんといるの!?」
ってデカい声出しちゃったよ。
「えっ、キク様はコーデの消息が分かるの!」
そしたら、ジェイ陛下が身を乗り出して食いついてきた。
「ねぇ、ねぇ、どこで何してるの? 今ホントに幸せ」
と、菊宗正をつかんで振り回す。丁度人間だったら首根っこひっつかんでって感じで。
『止めんか! 目が回るわ』
菊宗正はそう言ってジェイ陛下に怒鳴る。けど、その声ってば、ジェイ陛下本人には聞こえてないって事、解ってる? ってか、刀のあんたの目が回る訳ゃないでしょ。
「何か今、あたしのお兄ちゃんと一緒にいるらしいよ」
で、あたしがそう言うと、
「じゃぁ、ニョーマケーシュと言うのは……」
と返ってきた。
「うん、たぶんそれ野間圭介、あたしのお兄ちゃんの名前だと思う」
あたしの代わりに日本に飛ばされた時、あの男たちに襲われそうになったんだけど、コーデさんも菊宗正みたいな五月蠅い刀、ネマーサギーグムっていうのを持っていたらしく(どうでも良いけど、よくよく考えてみるとそれってキクムネマサのアナグラムだよね)そいつが男たちを吹っ飛ばして、その隙に逃げたらしい。
で、行く場所もなくゴミ置き場にうずくまっていたところをお兄ちゃんが拾ったと。
今は、特技を生かして服飾の仕事をしてるらしい。
それをそのまんま伝えたら、ジェイ陛下は嬉しいと言いながら寂しそうな複雑な表情をしていた。
……でもさ……
(ま、それは良いとして、もしかしたらホントは今でも日本に帰れるんじゃないでしょうね)
と菊宗正を睨むと、
『帰れぬことはないぞ。ただ、あの様に完全に重なり合う次の蝕はおよそ200年後、それまで主がいきておれれば戻してやろう』
とか言う。200年なんて生きてる訳ないじゃん!
『それに主も既に彼方に帰ろうとは思っておらんだろうて』
と続ける菊宗正。確かにそれはそうなんだけどさ、コーデさんの方もあっちで幸せでいるってんなら良かったって思うけど……
それとこれとはやっぱ違うんじゃない? って思うのはゼータクなのかな。




