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喪失者  作者: 佐江内
第一章
8/21

Intermezzo

 微かな光に刺激されて目を開けると薄暗くも青い空が見えた。雲一つない空だ。空気はひんやりと冷たく、どこか心地よい。

 体を起こし、未だ光りに慣れない目を巡らせると一面の深緑。陽光が木々と木々の間に次々と影を作っていく。


「……朝 」


 呟いて首を二、三回捻って立ち上がると、シーツ代わりに敷いていた外套を羽織り、隣に置かれた真新しいトランクを手にする。

 朝一番の風が長い髪をさらさらと撫でていく。

 それを肌で感じつつ、ゆっくりと歩き出す。

 歩き出す足は一定のリズムを刻みながら草花を踏み分け、道なき道を進んでいく。

 聞こえるのは朝を知らせるように鳴いている鳥の声だけ。他には何も無い。訪れた者には寂しささえ誘うような静かな場所だが、それでも少女にとってはそれこそが好ましい。 賑やかな場所には慣れていない。なにせ半世紀近く人が訪れない辺境、いや秘境にいたのだから無理もない。だからこのような場所はどこか懐かしい。

 思えば、半世紀近くあの少女の元にいた。

 それは自身について知るには十分であったし、本来なら知り得ない世界を理解するのにも十分な時間だった。おかげで色々なことを知ったし、使い方(・・・)もわかった。 

 けれど長い時間は心に空いた穴までは癒やしてはくれなかった。何かが無秩序に欠けてしまった喪失感。以前は覚えていたが、今は何を失ったかさえ、わからない。

 でもそれは別段気にするべきことではない。目的は漠然とだが、はっきりとしている。だから目的さえ――――人間に戻りたいという願いさえ成就すれば(おのず)ずと思い出すのだろう。

 今はただ目的達成のために集めなくてはいけない。


 ……あの忌々しいモノを。


 自己のあり方のように淡々と、けれど確かな歩をもって、年老いた少女は今日も歩き続ける。


 まるで回帰しているようなその繰り返しを。

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