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喪失者  作者: 佐江内
第一章
2/21

喪失 1

「急げ! 早く乗り込め!」


 男達の怒声が周囲に響き渡り、人々が次々に大型のトラックに乗り込んでいく。

 トラックの中は泣き出す子供や杖をつく老婆など老若男女が隔てなく詰め込まれ、息苦しい空間を作り上げていた。

 トラックの外には銃弾の行き交う音が飛び交い、それを恐れるように人々がまるで餌に群がる蟻のように集まり、今か今かと自分の順番を待っている。


「あ、順番きたよ」


 と、その光景に似合わぬ嬉しそうな声が発せられた。

 振り返ると声をかけてきたのはまだ十歳にも満たない幼い少女が見上げていた。

 声をかけられた少女は近くにいた兵士にいた、私服の上に防弾チョッキを着込み、右肩に銃を下げた武装もロクにしていない兵士に身分証を見せる。


「アリス・ヴァリア。確認した。乗れ」


 兵士から確認の合図を受け、幼い少女を抱きかかえ、トラックへと乗せる。


「ありがと、お姉ちゃん」


 アリスが無事にトラックに乗ったのを確認するとお姉ちゃんと呼ばれたもう一人の少女は自分の身分証を取り出し、再び兵士に見せる。


「――――よし、早く乗れ。後ろが(つか)える」

「あ、はい。すみません」


 すばやく兵士から身分証を回収して―――少女は急いでトラックに乗り込む。

 と、少女がトラックに乗った瞬間、一瞬の閃光の後に爆音がトラックの荷台に響き渡った。


「な、なに! そこまで突破されたか! クソ! 今すぐ出せ! 間に合わない!」


 続けて無線片手に兵士が怒鳴りつける声が聞こえる。

 兵士の怒号にトラックに詰め込まれた人々の間に不安の色が広がる。

 ――――まずい。こんな狭い荷台の中じゃ、狙われたらどうしようもない……

 不安にギュッと目を閉じ、少女は必死に何事もないように祈り続けた。

 その結果だろうか。目を閉じて数十秒かそこれで不意に見えない何かに身体を引っ張られるような奇妙な感覚が襲ってきた。

 何事かと目を開くとさっきまでいた場所がどんどんと離れていく。

 一瞬、何がどうなっているのか分からなかったが、はたと気づく。


「そうか、トラックが動いているんだ」


 ふっ、と安心感からか少女はため息をついた。が、申し訳のない気持ちも同時に湧いてくる。

 なにせ後方には乗り遅れた人々がいるのだ。その人達のことを考えると、素直に安心はできない。

 あそこに残った人達は一体どうなるのだろうと、もはや二度と会うことのない人々のことを考え始めて少女はブンブンと頭を振る。

 そんなこと考えても意味はない。今は生きるか死ぬかの状況だ。それ以外を考えられる 余裕なんて今の自分にはない。

 ボーッと過ぎゆく景色を眺めながらこれからどうなるのだろうと少女は何とはなしに考える。

 しかし、考えようと思ってそう考えつくものでもなかった。

 当然だ。今のこの世界『フィロソファア』は不安定なのだ。そんな世界で十代半ばの少女に未来などわかるはずなどない。


 

         ◆


 事の起こりは約百年前。

 化石燃料の枯渇によってフィロソファア全土は深刻なエネルギー不足に陥った。

 事態を重く見たフィロソフィアの先進国は協力して新たなエネルギー資源獲得のための研究を始め、その結果新たな資源エネルギーとして着目されたのが、太陽光を使った大規模発電だった。

 しかし、地上に発電システムを配備した程度で得られるエネルギーはごく僅かであり、実用レベルではなかった。

 そこで天候に左右されず、大気による吸収もない宇宙空間に巨大発電衛星を建造しようという計画が立ち上がり、見事計画は成功した。

 そうしてエネルギー枯渇による問題は解決したように見えた。

 だが、そう世界というのはうまく転がらなかった。

 太陽光発電システムの維持には莫大な維持費(コスト)がかかり、それを(まかな)える国は開発に参加した国力豊かな協力各国に限られた。

 その結果維持費(コスト)を賄える国々が自然と有力な立場に立つのは自然の断りだった。

 そうなると発電システムはそれら国々の共同資産となり、それ以外の国々はその協力各国から電力を買うというエネルギービジネスが一躍世界に広がっていくことになったのである。

 だが、発電システムは確立したとはいえ、まだ全世界にエネルギーを供給するほどの生産効率ではない。

 そうなると起こるのはエネルギーの価格高騰だった。

 国力がそれなりに豊かな国々はその中でもエネルギーを買うことはできたが、貧しい国々に手が出せるはずもない。

 つまり発電システムの恩恵を受けられるのは国力の強い国々だけだったのだ。

 そうして強き国は強きまま。弱き国はさらに弱くという悪循環がエネルギービジネスとともに世界に広がっていった。

 少女の住んでいる――――いや、住んでいた国もその中のひとつだった。

 かつては化石燃料の採掘国として名を馳せた国だった。

 だが、化石燃料枯渇によって国力は弱り、現在は経済も立ち行かぬような現状なってしまった。

 なにせ新たに産業を始めようとにもエネルギーがないのだ。これでは何も始められるわけがない。

 もちろん先進国各国からエネルギーを買おうという動きはあったのだが、高いエネルギーを買う予算など燃料枯渇によって産業を破壊された国にあるはずはないもなく、ただ弱体化の一歩を辿るしかなかった。

 これは別に少女の国に限ったことではなく、世界中にある何ヵ国もの国がそのような状況だった。

 元々国力が弱かった国。

 少女の国と同じようにかつては採掘国として世界に名を馳せた国。

 そのような国々が生活レベルの回復を迎えた発電システム保有国の元で悲惨な生活を送っていた。

 もちろんそのような状況に陥り、虐げられた人々がただ黙って耐えられるはずもなく、他国。つまりは先進国に吸収される形で現状を打破しようという国も出てきた。しかしそれは最悪、現在の宗教、経済体制、思想を捨てるということにも繋がりかねない。無論、そのようなことが起こりえる以上反対運動が起こらないはずはなく、徐々に世界各国で紛争という人と人とによる醜い争いが蔓延していった。

 少女の国では特にその運動が激しく、新政府を謳う反政府派と編入政策を進める政府派による争いが徐々に国全土を巻き込んでいった。その結果国は国として機能しなくなり、国内は内乱の渦を拡大させていった。


              


         □


「はあ……なんとか乗れた」


 無事に危険地帯を離れた安心感からか、少女は深いため息をついた。

 中は所狭しと人が詰め込められていて、揺れるたびに隣の人と肩がぶつかる。もう少し人が乗っていたら移動するだけで圧死していたかもしれない。


「おねえちゃん」


 と、隣に座り、揺れで離れないように肩を抱いていたアリスが袖を引っ張ってきた。


「どうしたの、アリス」

「今からどこ行くの?」

「うーんとね、兵隊さんの話だとたしか東の方にある国に行くそうよ。国境まで多分三日か、四日はかかるわね」


 目指しているのは東方にある先進国の支援を受けている国。そこは発電システムの所有権を有している国であり、祖国よりかなり生活水準が高い国だ。その国も受け入れを表明している以上避難民を受け入れないということはしないだろう。


「へえ、結構かかるんだね」

「そうよ。だから酔わないようにしてね。夕方からはキャンプを張って休むそうだからそれまでの我慢よ」


 荷台に乗り込んでいた兵士の会話から聞いたこと教える。


「え、キャンプするの! わーい、やったー! 今日は外でご飯食べるんだね」

「うん。きっと星空が見えて綺麗よ」


 事はそう楽観視できるものではないが、妹のその場の雰囲気にそぐわないはしゃぎようが冷めるようなことは言えなかった。まだ幼い妹を不安にさせないために少女は笑顔で妹にそう返す。


「ほら、疲れたでしょ。少し眠っておきなさい」

「うん。じゃあ寝る。おねーちゃん。いつもの歌ってよ」

「わかったわ」


 眠る、というには舗装していない道を行くトラックの中は揺れたりなどして少々騒がしかったが、しかしそれだけだ。トラックに乗り込んだ人々は誰も彼も口数が少ない。

 きっと死と隣り合わせの今の状況に恐怖しているのだろう。

 無理もない。誰だって怖いのだ死は。


「ほんと、どうなるのかなぁ……」


 少女は隣に座る幼い少女が眠ったのを見てボソリと呟いた。

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