プロローグ
違うものを書いてみたくなって書いてみました。文章力が乏しいとは思いますが、感想などいただけたら助かりますのでもしよかったらお願いします。
地獄だった。
いや、もしかしたら本物の地獄より地獄だったかもしれない。
視界にはただ転がる人だったものしか映らない。
家、というには足りないかもしれない家代わりに使っていた天幕は燃え、人だったものの周りにはパレットに絵の具を広げたように赤いカーペットが敷かれている。
一面の赤一色。
動くのはすべてを飲み込む炎だけ。
他に動くものはなにもない。強いて言えば人だったものが炎を纏いつつ、僅かに動くくらいか。
鼻を突く家を焼く臭いと焼け焦げた肉の臭いとがさらに不快感を誘う。
そんな周りの状況も気にせずにただ一人だけ、赤に支配された空間を歩く者がいた。
年の頃は十代半ば、後半といったぐらいの少女。
それはまるで亡霊のようにゆらゆらと行く当てもなく彷徨っている。
その顔に表情などはない。
ただあるとすれば酷く無感情であり、疲れたようでもあり、世界に絶望したようでもある形容しがたい表情と光を失った瞳が二つだけ。あとはすべてそれらにかき消され、少女の可愛らしい容姿も何もかも今は意味もなさない。
世界中の不幸をすべて背負ったような重たい足取りは開けた場所に出て、止まった。
そこはすべてが見渡せた。
燃えゆくもの。
赤く染まった大地。
所々欠けてしまいパーツの足りなくなった人の形をしていたのかわからないもの。
そしてそれらのまわりには金属の小さい筒がごろごろと転がっている。
薬莢だ。人を殺すために作られた、ただそれだけのためにだけ用いられる物。
それを見ても少女はここで何があったのか分からない。呆然とそれらを見渡すことしかできなかった。
ふと、そこで彷徨う少女の視線が一点に固定された。その場所には俯せに倒れる人だったものが一個。
それは十歳にも満たない少女だったもの。
少女はそれを見るやすぐに駆け寄り抱き起こした。
そして抱き起こした瞬間、光を失った瞳が大きく開いた。
抱き起こした少女の顔と抱き起こされた人だった少女の顔はどこか自分に似ていた。
そう。まるで血を分けた姉妹のようなに。
ほんの少し前まで人だった少女の顔には鮮やかな赤い雫の他に透明な雫が溜まっていて、抱き起こすと同時に流れ出てきた。それは今ではただの物悲しさしか誘わない光を失った二つの双眸から静かに垂れていた。一筋の道を作りつつ、目から頬、顎に伝って流れていき、最後には地面に染み渡っていく。
未だ人である少女が自分の手を見る。その手は赤く染まり、小刻みに震えている。
何も考えられない。
否、考えられないのだ。
すべてが唐突すぎて。
いきなりすぎて。
急すぎて。
人だった少女から目を逸らすと未だ人である少女はある物を見つけた。
それは人だった少女の近くに落ちていた。
紫色の大きな片手サイズの丸いクリスタルのような物。クリスタルの中央には異常なほどの黒が中に詰まっている。
それを見て思い出す。
それは人だった少女がまだ人だった時に見つけてきて大事に大事に出掛けるときも手放さなかった不思議な物だ。
クリスタルを手に取ると少女は無感情な顔でそれを見つめた。
ぽたり。
まるで氷ついたように無表情だった少女の顔から雫が落ちる。
無表情に不釣り合いな雫。
しかし雫が地面に落ちる度に少女の顔が崩れていく。
崩れた顔はあるいは少女の年に見合ったものであったのかもしれない。しかし、それは見る者があまりにやるせない気持ちになるような悲しいものだった。
クリスタルを手に取ったまま、少女が突如上を向いて叫んだ。
「あ、ア、ああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!」
辺りに響き渡る慟哭。
意味などない響き。
それに呼応するように手に持つクリスタルが光りはじめ、徐々に彼女を包んでいく。
その光はまるで悲しみに汚された彼女の心を照らすようなものであり、今ある現実を隠すような目映い黄金の光だった。