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竜宮の姫様はゲームがお好き

作品タイトル:竜宮の姫様はゲームがお好き

作者名:南極水鳥


●七月二十六日 夜 インターネット上のどこかにて

〈そんなことより〉雑談ルーム十二〈飴なめたい〉


黒羊:ねぇねぇたっくん、明日暇かな?

乾五号:明日? 特に何も予定はなかったと思うが……

つかその呼び方やめろ 、ちゃんとハンドルネームを使え

黒羊:了解、たっくん(笑)

乾五号:いい加減やめろって言っただろ!

    その名を聞くと背中がかゆくなるんだよ!

黒羊:『この主人公カッコいいから同じ呼び方して』

   って、小学生のとき頼んだのはどこの誰だったかなw

乾五号:今はもう関係ないだろうが!

黒羊:ハンネから当時の未練が感じられるけど?www

乾五号:お、男は皆ライダーなんだよ……

黒羊:www

乾五号:くっ、そういうお前のハンドルネームはどうなんだよ、辰姫!

黒羊:あー、本名言っちゃいけないんだー

乾五号:煽ってきたのはお前の方だろ!

黒羊:あたしのは好きな漫画からちょこっともじっただけだよ~

   それより、明日はホントに空いてるんだよね?

乾五号:ああ、悲しいくらいに予定がないなorz

    いったい何の用だ?

黒羊:この間お金ないって言ってたでしょ

乾五号:ああ、言ったな

黒羊:佐々波の短期バイト見つけたから一緒にどうかなーって思ってさ

   いっしょにどう?

乾五号:めんどくさいからパス

黒羊:佐々波が開発した新作ゲームのテストプレイだと聞いても?(^^)

乾五号:喜んで行かせていただきます<m(__)m>

黒羊:素直でよろしい^^

乾五号:そういや怜が佐々波のゲームに興味持ってたんだよ

    あいつも呼ぶのは無理か?

黒羊:ああ、たっくんの妹ちゃん? その心配はないよ^^

乾五号:どうして?

氷結界:ククク、兄者よ、我を呼んだかね?

乾五号:うおっ、痛いのが潜んでやがったwww

黒羊:入室しないで様子見ててもらってたんだよね(笑)

氷結界:見せてもらおうか、佐々波の新型の力を!

乾五号:また違うキャラを演じ始めやがった…

黒羊:そこがまた妹ちゃんのかわいいところじゃない♪

氷結界:ち、違う! 我は演じてなどいない!

    さっきのは我の中の第三人格、大佐様が表に出ていただけだ!

乾五号:(笑)

氷結界:あにじゃぁ……

黒羊:二人とも落ち着いて(笑)

   明日の集合場所、夕方四時ごろに喫茶シュバリエでいいかな?

乾五号:おk

氷結界:我も問題ない

黒羊:異論はないみたいね、そんじゃまた明日!


●七月二十七日 夕方四時頃 喫茶シュバリエ 窓際四人掛け席にて


「ねぇたっくん♪」

 正面に座っている辰姫(たつき)が、笑顔で話しかけてくる。短めのツインテールを揺らしながら笑顔を見せるその姿に、思わず見惚れてしまう。

「なんで斗夢がここにいるのかな?」

「痛い痛い痛い痛い、足の指ちぎれちゃうから! お願いやめて!」

 ヒールはやばいって、刺さるって! 変わらないその笑顔が怖いから!

「拓人君うらやましいですね。辰姫さん、よろしければ僕のことも踏んでくれませんかね?」

 俺の横にいる斗夢が何やら気持ちの悪いことを言っている。誰のせいでこうなってると思ってるんだおい!?

「校門から出てきた兄上を見つけて、そのままついてきたらしい。ま、僕には関係のないことだがな」

「説明ありがとうな、怜」

 またなんかのキャラが降りてるようで。兄ちゃん心が痛むけど。

「なんで置いてこなかったのよ」

 そんなジト目で見つめられても困るんだが……。

「執拗に尻を狙いながらどこに行くのか尋ねてきた後に、ドスの利いた低い声で、『僕を連れて行かないのでしたら、代わりに僕と部室に一晩泊まることになるかもしれませんよ?』なんて脅されて、辰姫だったら断れるか?」

「それは……、身の安全を優先するね」

「だろう?」

 可愛そうなものを見る目で、辰姫が俺のつま先から足を離す。さすがに気の毒に思ってくれたんだろう。

「斗夢よ、久しいな。この間うちに遊びに来たとき以来だな」

「久しぶりですね怜ちゃん。この間渡した怪物○女は読んでくれたかな? あれはなかなかいいものだと自負しておりますが」

「あああれか、お前にしてはなかなかなチョイスであったぞ。思わず僕の中に新たな人格が目覚めるところであった……」

 このうざロン毛は人の妹をどこへ導こうとしているのだろうか。

「ねぇ斗夢、今からでも遅くないから帰ってくれないかな? このバイト三人用なんだ♪」

「すみませんマスター、アイスコーヒー一ついただけますかな?」

「話聞いてよっ!」

 むきー! と唸る辰姫。……相変わらず斗夢は自由だなぁ。

「冷静になるんだ辰姫」

「……たっくん、あたしは冷静だよ……?」

「ふんっ、別にいいではないかそれくらい。大目に見てやれ」

「そうですよ。僕も一緒に連れて行った方が楽しいと思われますが?」

「お前の意見はどうでもいいんだよ!」

 おぅ、辰姫様がお怒りだぜ。

「あなたはそれでいいのですか?」

「……どういうこと?」

「拓人に男同士の良さを教えてしまいますよ? 部活中に」

 笑顔でそう告げる斗夢。俺と斗夢は陸上部に所属している。そして、着替えは部室で行っている。つまり……、

「つまりたっくんが無防備になる度に快楽を体に教えていくと?」

 笑顔を崩さない斗夢。

「ちっ、だったら……。とりあえず、移動しよっか♪」(満面の笑み)



●同日 午後四時半ごろ サザナミ本社 試験用ルーム


「これがわが社の開発したディメンジョンダイバー(以下DD)です」

 白衣を着たメガネの女研究員に案内された部屋には大型のサーバーと、それに繋がれた様々な機械が並んでいた。たぶんあのサーバーがDDの本体なのだろう。

「あなたたち四人には、この椅子に座ってDDをプレイしてもらいます」

「すみません。見たところこの椅子、ケーブルでサーバーと繋がっているくらいで、レバーやボタンやらが見当たらないのですが?」

 俺も斗夢と同じことを考えていた。ケーブルがごちゃごちゃくっついている椅子には、およそコントローラーと呼べそうなものは付いていない。せいぜい肘掛のところにボタンが少しついている程度である。

 不思議に思っている俺たちに辰姫が得意げに説明する。

「あんたたち知らなかったの? DDはね、ゲーム世界に直接入って遊ぶ体感型ゲームなのよっ! どう、驚いた!?」

「……それなんてSA○?」

「……みんなの夢を実現させたと言ってもらいたいですね」

「でもアイディアパクってますよね?」

 俺の言葉に動じる素振りなど微塵も見せず、メガネをくいっと上げながら研究員は答える。

「……あくまでリスペクトですよ」

 あくまでも認めないつもりのようだ。

「兄上よ……」

「なんだ?」

「ぐだぐだ言ってないではやきゅ……、早くやろうではないかっ」

 わくわくしすぎて噛んでるぞ我が妹よ。そういやこいつ、SA○とか好きそうだもんなぁ。

「妹ちゃん。可愛い~♪」 

「怜、落ち着け」

「……兄妹をセットで味わう。それもいいかもしれませんね」

「斗夢、頼むから黙っててくれ」

 こいつどうにかできないかな。

「えー皆さん、時間がありませんので、さっそく試験を始めようと思います。それぞれのシートへどうぞ」

 俺たちは雑談を止め、それぞれ割り当てられた席に座った。シートの形状や色はそれぞれバラバラ、試作品だからだろうか。

「しかし、ゲームの中に入るってどんな感じなんだろう。なぁ辰姫。……ってあれ?」

 左側に座っているはずの辰姫が見当たらない。

「すみません。ナビゲートプログラムについてなんですが……」

「……わかりました。そのように致します」

 どうやら研究員の人と何か話していたようだ。

「……辰姫?」

 何してるんだあいつ。

「お待たせっ、早くやりましょうよ♪」

『メットオン、プリーズ』

 合成音声に従い、頭上にあるヘルメットをかぶる。中にモニターのようなものがあるようだが、まだ暗くて何も見えない。

「始まった後は、中で待機しているナビゲーターに従ってください。皆様準備はよろしいでしょうか?」

 とうとう始まるのか。いったいどんな感じなんだろう。

「ディメンジョンダイバー、起動します!」


『……全身のスキャニング完了。データ構築。……基本設定が完了しました。ゆっくりとお楽しみください……』

 頭の中に、声が響く。

「これが、ゲームの中……」

 頭を動かすと、視界も移動する。今いるところはさっきまでいた研究室にそっくりで、機械が置かれていた部分には白い長方形のオブジェクトが置かれている。肌の表面には空気がふれる感覚もあり、DD内の仮想空間内に居るなんてとても信じられない。

「話には聞いていたけど……、こんなにすごいなんて」

 いつのまにか左隣に出現した辰姫がそうつぶやく。口が小さく開いている。気がついたら、いつのまにか現れていた怜と斗夢も同じ顔をしていた。たぶん俺もさっきまで同じ顔をしていたんだろう。

「ところでお兄ちゃん、さっきの人が中にナビゲーターがいるっていってたけど、どこにいるのかな?」

 正気に戻った怜が辺りをきょろきょろと見回す。言葉使いが素に戻っていることにはあえて触れないでおこう。

 研究室内には俺たち四人以外人影は見えない。このままではゲームが始められない。確かにどこにいるのだろう。

「たぶんもうすぐ来ると思うよ♪」

 辰姫が確信を持ってそう言う。さっき研究員さんのところへ行ったときに、その辺の段取りを聞いていたのかもしれない。

 しばらく待っていると、この世界に入ってきた時と同じ、無機質な合成音声が部屋に響いた。

『ナビゲーターエディットプログラム起動。基本設定を〈NBPF‐0 サイ〉から〈NBPF‐4 シルフィ〉へ変更。事前に入力された容姿設定を適用します。……完了。ナビゲーターを起動します』

 声が途切れると、部屋の中央の空間からふわふわとした長い金髪の女の人が現れた。俺たちよりも年上で、お姉さんって感じだ。背は俺たちよりも高く、怜や辰姫と違って出るとこが出ていてスタイルもいい。

「はじめまして。皆様を案内させていただくシルフィといいます。よろしくお願いします」

「あ、どうも……」

「はじめまして、僕の名前は中村斗夢と申します。趣味はゲーム、受けも攻め自由自在、どうでしょう、僕を責めてみますか? それとも責められてみますか?」

 黙れ変態、シルフィさんが困ってるぞ。

「ええと、斗夢さんは試験の妨げになるようなことを何もしていないので、ペナルティを課すことはことはできませんよ?」

 その事務的な返答はわざとなのか天然なのか。どちらにせよ、それは斗夢の心の奥底の何かを刺激したようだ。

「ああ、その純粋で何も知らないような態度……すばらしい! ぜひ僕とめくるめく官能の世界に……」

「おい辰姫、止めなくていいのか?」

「この方がいいでしょ、……たっくんの貞操的に」

「そりゃまぁ、たしかに……。もしかしてさっき研究員の人と話していたのってこのために?」

「やっぱばれてたか。……そのとおりよ、あいつの好みは散々聞かされてたし、再現するのは簡単だったわ」

 会うたびに胸が足りないとか、おしとやかさが足りないとかいろいろ言ってくるもんな。好みを覚えてしまうのも無理はない。

「あいつがホモじゃなくバイだったことが幸いしたわ。あいつ好みの女なんて現実にいるわけないから、絶対引っかかると思ってた」

「ありがとう、助かった」

 辰姫には感謝してもしきれないな。

 そうこうしていると、怜が背中を軽くつついてきた。

「お兄ちゃん、早くアバター作ろうよ。話なんて学校でできるでしょ?」

 たしかに、雑談なんてどこでもできるもんな。

「シルフィさん、アバターの作り方教えてもらえますか?」

「わかりました。では、こちらに……」

「そんなことより今から僕とトイレでアッーな体験を……」 

「斗夢、変態行為は後にしろ」


「なぁ、この服派手すぎないか?」

「うーん、ゲーム中ならそんなもんじゃないかな。それに、心の底から嫌だってわけでもないでしょ?」

 たしかに一度着てみたいとは思ってたけどさぁ。

「それにほら、あたしだって魔法使いみたいな格好しているし、怜ちゃんに至っては騎士みたいな恰好だよ。気にすることないって」

「そう言われればそうなのかもな」

 視界の隅に入ってきた白いスーツをまとった変態(斗夢)は無視しよう。

「そういえばシルフィさんの服ってまるでドレスのようですね。どうです、僕と踊りませんか?」

「斗夢! 私は早くフィールドに出たいんだ。そういうのは後にしろ!」

 また怜が発症してしまった。今回は騎士になりきっているようだ。

「では早速外に出るとしましょう」

「そういえばさっきから気になってたんですが、ここって研究室にそっくりなんですが、もしかしDDって……」

「そうなんですよ。防犯用に設置されたカメラから現実の状態を読み取って、それをマップデータとして再構築しています。ですからこれから皆さんが行くところは、現実の世界で行ったことのある場所になると思いますよ」

「なるほど、そうなんですか」

「ではみんなで僕の部屋に行きましょう。歓迎しま」

 辰姫が斗夢のすねを蹴る。よくやった。

「では皆様、参りましょう」


●午後五時ごろ 商店街エリア


「すごい再現度だな……」

 目の前に広がる光景は、普段買い物に行くときに目にするそれと、なんら変わりがない。右手に見える八百屋の「まるやま」のおじさんも見事に表現されている。歩いている人たちも完全に再現されており、DDの中にいることを忘れてしまいそうになる。

「なぜだっ! なぜスカートの中身が見えないっ!?」

 カメラに映らないんだから、再現できるわけないだろう。

「今日皆さんにはここで自由に遊んでもらいます。DDは完成間近なので、これ以上新たな機能を試す必要はありません。ですから今日することはデバッグ、つまり皆さんの行動で想定外の『何か』が起きるかどうかのデータを見るということですね」

 てことは斗夢の行動も立派なデータの一つというわけか。セクハラ防止機能は完全とは言えないようだな。

「たっくんたっくん、この店見てよ! この服、本物そっくり!! しかも可愛い!」

「そんなにはしゃいでも着れるわけじゃ……」

「わぁい♪ さっそく試着して来るね♪」

 辰姫はそう言って、店にあった洋服を一着つかんで奥へ消えて行った。

「何でつかめんの!?」

 ここはカメラからの情報を再現したデータの世界だったはずじゃ……。

「そういうふうに遊べるように設定されているんですよ」

 いつの間にかシルフィさんがそばに来ていた。

「DDの中では現実世界の物に疑似的に観賞することができます。今辰姫さんが行っているように服を着替えること、さっき道の真ん中で斗夢さんがやっていた覗く行為、……中身の映像がないので本当に見ることは不可能ですし、製品版ではプロテクトがかけられていますけれど」

 そりゃそうだ。犯罪者が続出してしまう。

「基本的には物を手に取ることができますね。食べることもできますが、さすがに味の再現までは成功していないですね。当然カメラに映らないので本の中身などを確認することはできません。それと……」

「兄上! 子犬が、子犬がこんなにいるの少しも動かない! どうゆうこと、まるで人形だよ!」

「生き物を再現することもできません。基本的に物と同じ扱いになります。そこにいるだけの存在です。エリアの様子は三十分ごとに更新されますので、人や物の配置はその時リセットされます」

 驚いた。まさか俺が暮らす世界にここまでの技術があったとは。この分なら俺が死ぬ前にSA○で遊べるかもしれないな。

「どうかなたっくん、似合うかな?」

「……たのむからゴスロリはやめてくれ」

 せっかくだから普段着られないものを、って気持ちは分からなくはないけれどさ

「兄上、ちょっと……」

「どうした?」

「さっきから斗夢がいないんだが……」

 そう言われれば静かだな。俺としては近くにあいつがいない方が平和で助かるから、いないならいないで別にいいのだけれど。

「シルフィさん、場所分かりますか?」

 店の外で待機していた彼女に尋ねる。

「……どうやら住宅街の方へ向かっているようですね」

「……何がしたいんだあいつは」

「……もしかして」

 辰姫が何かに気が付いたようだ。

「たっくんの部屋に入り込むつもりじゃないかな……」

「……ありうるな」

 斗夢は普段からなにかと危ない男だ。この機に乗じて俺の部屋を荒らそうとする可能性は十分にある。

「しかし、兄貴の部屋にカメラは常設されてないはずだ。再現できるのか?」

「無理でしょう。せいぜい家の前までしか行けないはずです」

「それがわかってても近づけたくないんだよなぁ」

 俺の部屋を外から覗くスポットとか探されても困るしな。

「じゃあ追いかけますか?」

「もちろん!」

 とシルフィからの問いに勢いよく答えたのは、俺ではなく辰姫。よほど俺に近づけたくないらしい。

「では、行きましょうか」

 俺たちは住宅街の方へ歩き出した。

 ……その瞬間。踏み出した足が重くなり、視界にノイズが走る。全員の動きが遅くなり、街中から明かりが消えた。


「……何が起こったんだ?」

 体の自由が戻ったあと、シルフィさんは外部と連絡を取ろうとしていた。素人の俺たちにもはっきりとわかる不具合だった。

「……どうやら市の全域が停電したようです。先ほどの不具合はその影響によるもののようです」

「……俺たちはこのまま遊んでていいのか?」

「サーバーに内蔵されているバッテリーがあるのでしばらくは大丈夫です。もしサーバーが落ちたとしても命の危険はないはずですが、……多少の記憶障害が起きる可能性がありますね。その場合はしばらく入院してもらうことになるかもしれません」

「それは嫌かな……」

 辰姫の言うことに俺と怜も同意した。せっかくの夏休みを検査で潰してしまうなんてもったいなさ過ぎる。

「では少し早いですが、ログアウトすることにしましょう。斗夢さんにメッセージを送りますので、少々お待ちください」

 無視して俺たちだけでログアウトすることも考えたが、シルフィさんが気に病んでしまうのではないかと思い、口には出さないで置いた。

「変ですね……。全く反応がありません」

「自分の判断でログアウトしちゃったのでは?」

「それはありえないです。このゲームはフィールドでのログアウトは不可能ですし、この試作品にログアウトするためのリーブポイントはサザナミ本社と、もうすぐ完成するサザナミタワーの頂上にしか用意されていません。こんな短時間で移動することは不可能です」

 ではいったいどうなっているんだろうか。

「それはね、あなたたちの仲間が帰ることを望んでいないということよ」

 空間に穴が空き、そこからいかにも悪の女幹部らしい服を着た四人の女性と連絡がつかないはずの斗夢が現れた。……といっても明らかに一人は小学生サイズであるが。

「……誰だ?」

 俺が問いかけると、集団は足を止めた。

「わたくしは、アポウと申します」

 なんとその小学生らしき人物が一番最初に名乗ってきた。

「あなたがの仲間は私たちと手を組み、このDDの世界を組み換え、新たな世界を創造することを選びました。彼の頭脳から発せられる妄想エネルギーはすばらしい。彼という王がいれば、私たちは快楽に満ちた素晴らしい世界を作ることができるのです」

「……というわけだ。君たちも僕の側室に入るのであれば、考えてあげないこともない。では拓人君、さらばです」

 ……なんだこの急展開。まるで打ち切りマンガくらいの詰め込み具合だな。

「どうやら対戦用に用意されたアバターが何体か動いてしまったようですね。しかも悪役用のが……」

「そんでそれがすべて美少女型だったから誘いに乗ってしまったと」

 馬鹿だ。前から思っていたけれど馬鹿すぎる。

「しかたがないので、サザナミタワーに向かって斗夢さんを確保しつつ、その場にあるリーブポイントから離脱することにしましょう」

「それがいいわね、ついでに斗夢の野郎も懲らしめてやらないと」

「俺も手伝うよ」

「面白そうなので私も手伝います」

 斗夢と同じように、俺たちにも迷いはなかった。

「時間がないので、移動はゲーム内の乗り物を、私が少しだけ所持しているGM(ゲームマスター)権限で動かして使いましょう。皆さんのアバタ―も対戦用に変更して、ステータスも最高にしておきますね」

 マジでチートだな。

「それと、ついでに装備も整えておきましょうか」

シルフィさんが手を振ると、そこには様々な種類の武器が並んでいた。現実の世界にありそうなものから、マンガやアニメでみたような非現実的なものまで……。

「さぁ、好きな物を選んでください」

 怜は剣を迷わず選び、辰姫は魔法使いが使うような杖を選んだ。そして俺は少し迷った挙句、他のゲームではお目にかかることはできないであろう、謎の変身ベルトを手に取った。


 サザナミタワーに進入した俺たちを出迎えたのは、腰布一枚の屈強な(アニキ)と筋骨隆々な(アマゾネス)の群れだった。

 俺は迷わす帰ろうとしたが、辰姫に首根っこを掴まれなすすべもなく盾にされた。当然興奮したやつらが群がってきたが、そこはゲーマーにしてオタクなわが妹の出番。どこかで見たような黒い日本刀と白いレイピアを使い、「濡れるっ!」やら「卍解!」などと装備を切り替えながら叫び、気の済むまで暴れていた。「これは、ゲームであっても遊びではない」なんてかっこつけながら怜が剣を納めたとき、やつらは一人も残っていなかった。

「あれってどう考えても、斗夢の趣味が反映されてたよな」

「……そうだね、この分だとリーブポイントの周辺は男祭りになってるんじゃないかな」

「どうしようシルフィさん、スクリーンショット撮れる?」

「可能ですよ怜さん。お任せください」

 俺は向こうに帰った後、いつものように妹と接することはできるのだろうか……。

「奥に何が待ってるにしても、さっさと行こうよ。時間もないんだしさ」

 辰姫の言葉に俺たちは頷き、奥へ進むことにする。

 迫りくる大量の敵(さっきのやつの色違い、緑)を蹴散らしながらタワーを上り最上階に到達すると、斗夢と女幹部たちが男をはべらせてくつろいでいた。どうやら斗夢の趣味は女幹部たちにも伝染したらしい。みんな幸せそうな顔をしている。

「……どうする皆?」

 俺の後ろに控えている三人に問いかける。怜はスクリーンショットをシルフィからもらってご機嫌そうだ。

「時間もあと十分くらいしかないし……。今出せる最大攻撃で焼き払っちゃおうか♪」

「「「賛成!!」」」

 

「裁きの光を降らせ給え、ジャッジメント!」

「キックストライク! サイコー!」

「くらえっ! 二刀流最強奥義、〈ジ・イクリプス〉!!」

「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 油断しきっていた斗夢たちの上に必殺技の雨が降った。


 俺たちは燃え尽きていた斗夢を拾った後、リーブポイントからログアウトした。


●七月某日 停電後 大学 佐々波龍之介の研究室


「……という感じであたしたちは自力で脱出したわけなんだけど、何か言うことは?」

「いやぁ、ごめんね? デバッグは完璧だったと思うんだけど、停電で裏に隠れていた作業途中で放置されていたプログラムが起動しちゃったみたいなんだ。だから、許して?」

「……あのね? こっちは記憶失いかけたんだよ? それを、それをそんなに簡単に許すと思ってるのかこのクソ兄貴!?」

「落ち着こう辰姫、結果的には誰も大事に至ってないからいいじゃないか。……斗夢君以外」

「まぁそうなんだけどね。あいつを一週間入院させることができただけであたしとしては元が取れた感じなんだけどさ……」

「だろう? なら今回は皆ハッピーエンドだったということで……」

「わかったよ……。そういえば一つ聞きたいんだけど、最後に出てきた敵女幹部軍団、なんでSO‐networkの人たちにそっくりだったの?」

「……………………さあね」

「目を見て話しましょう、お兄様♪」


●夏休み中 あの事件から三日後 学校 一年三組教室


 講習の合間の休み時間、俺はこの間のバイトのことを思い出していた。

 斗夢を倒してゲームから脱出した後、俺たちはサザナミの医務室で検査されたがどこにも異常はなかった。ただ、斗夢だけは念入りに検査するためにそのまま一週間入院することになったらしい。おかげで今日は朝からあいつの姿を見ていない。

「すこしは真人間になってくれればいいんだが……」

 頭の異常だし、それくらいの奇跡があってもいいだろ、うん。

 自分の席でぼんやりとそう思っていたら、後ろの席に座っている辰姫が話しかけてきた。

「この間はごめんね、大変なことになっちゃって」

「気にするな、停電が原因じゃしょうがない」

「でも……」

「気にするなって言ったろ。あれのおかげで俺たちはバイト代を多くもらえたし、サザナミも本格稼働前にバグを発見できて助かった。それに……」

「それに?」

「貴重な経験ができて楽しかったしな。またああいうの見つけたら誘ってくれよな」

「うん!」

 沈んでいた辰姫の表情が明るくなった。やっぱり辰姫は笑顔でないと。


「それはそうと、今度は斗夢はつれてこないでねっ!」

「……努力するよ」

 

                          (終)


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