有明で私とアイツ
季節は冬。
場所は有明。
欲望(薄い本)と金が渦巻く年に二回のもっとも熱い三日間。
来場者数のべ50万人というオタクのビッグイベント。
なんでそれなのに知り合いに会っちゃうかな!!!!!
◇
今日は毎年年末に行われてるオタクの祭典初日。
サークル参加の私は朝から大忙しで新刊がちゃんと搬入されてるか確認してスペースの設営したり、開場してからは同人誌を売ったり、スペースに来てくれた友達と萌え語りしたり、頼まれたスケッチブック描いたり、いつものイベント参加と同じように過ごしていた。開場してしばらく経ち、自分のスペースの客足もまばらになったので売り子を友達に任し、自分は買い物という名の狩りに旅立った。
「新刊一冊ください!」
「一冊五百円です」
開場から時間が経っているので売り切れてるところも多かったけど、大好きなマイ神の新刊は売り切れてなく、ひと安心して小銭入れから一番大きい硬貨を取り出そうとしてると声をかけられた。
「あれ?コミさん?」
聞いたことのある声に小銭入れから顔を上げて前を見るとスペースの中に見知った顔があった。女子にしたら背の高い私が少し上を向く位置にある顔は不自然じゃない茶色に染めたふわふわした髪に人懐っこそうなたれ目は思わぬ場所で知り合いに会った驚きでいつもより開かれていた。この中の上でサークル内ではかっこいい部類に入るこの顔は…
「す、砂子…?」
「はい!すっげ偶然!まさかここで会えるなんて!コミさんも来てたんですねー買い物ですか?」
大学サークルの後輩の砂子 昌嗣だった。
いや買い物以外に普通ここに来ないよね。まあ売るだけの人もいるけど。
…ってそうじゃなくて!!な…なんでこいつがここに!?
だってここはマイ神のサークルスペースで神はサイトの日記とか見てるとどう考えても女の人で男の人とか予想もしなかったしっていうか今買った本だってバリバリBL二次創作同人誌なわけで、え…まさかこれ描いてたりするわけないよね?いやいやいやまさか砂子が…だっていつもここのサークル女の人の売り子だし、それに砂子だって部室で普通に他の男子とエロゲの話してたじゃん。いやまあ私だってエロゲぐらいやるけどさ。うん最近のエロゲはなかなか女の子でも楽しめるのもあるのだよってそんな話じゃなくて…ええ?こいついわゆる腐男子なの?うわーホントにいるんだ。まあ確かにうちのサークルの本買ってく男の人もいるけど身近で見るのは初めてっていうか…ってか私サークルでオタクだって隠してたのにバレたんじゃないの?え?…あれバレた?………ば、…………れ…………………
うびゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
衝撃的事実に気づいてしまい、思わず私はマイ神の本を受け取らずにその場から猛ダッシュで逃げた。
「あっ!?コミさん!本は!?」
そんな風に呼び掛ける砂子の声は私の耳には届くことはなかった。
◇
もうそのときの私の逃げっぷりはすごかった。人がごみのようだっ!って某大佐の台詞を言いたくなるくらいの大勢の夢の狩人たちの間を忍者のようにすり抜け、あとに残るのは過ぎ去ったときの風のみというスピードで自分のスペースに戻り、砂子にうっかり見つからないように売り子の友達に訝られながらスペース下で頼まれたスケブを描いたり、戦利品を読んで隠れていた。
はっ…神の本買い損ねた…っ
と気づいたのは撤収後のアフターのファミレスだった。