第一話 「最悪魔術師との出会い
エミリア=レイズことエミはドキドキする胸を
必死になだめながら歩いていた。
なにしろ今日は仕事の面接なのだ。
手鏡を何度も見て赤茶色の髪が乱れていないか確認して、
服が乱れていないか確認して、ようやく魔術師がいると
いう家の扉をノッカーをゴツゴツと鳴らした。
『魔術師の弟子募集中。魔女見習い、つまり女性に限る。
ハーフでも魔術師でも大歓迎。ぜひ興味ある者は来られたし
レイシェル』
見も知らぬ妖しい少年から手渡された紙にはそう書かれていた。
と――。
『ドナタデスカ?』
機械の音声と少女のかわいらしい声が混じり合ったかのような
少し奇妙な声が聞こえた。エミは驚いて一瞬身を引く。
『ドナタデスカ、トキイテイマス』
「え、エミリア=レイズ、です。アルバイトのチラシを見て来ました」
エミが答えると、しばらくその場は静かになった。
屋敷の主に確認でも取りに行ったのだろうか。
やがて。
『オハイリクダサイ。マスターガオマチデス』
がちゃり、と鍵の開くような音がした。
エミは緊張しながら扉を開る。
ギギギッと軋んだ音と共に扉が開かれる。
中に入ったエミは不思議な物ばかりが飾られた
屋敷の中に目を丸くするばかりだった。
(私も魔術師の血は引いているはずなんだけど……
魔術師って訳わかんない……)
アイボリーの傷一つない壁には手のひらサイズから
人の顔くらいのサイズの紫水晶が飾られていた。
一つ二つ三つ……三十個以上はあるがエミには
数えきれなくなり彼女は諦めた。
他にも妖しげな仮面とか水がいっぱいにたたえられた
水晶製の壺とかまだよく用途の分からない物はあった。
と――。
『ハヤクシナサイ』
再び声が聞こえた。エミは辺りを見回してみるが、
声の主は一向に見つからない。
どこから声が聞こえるのかと薄気味悪い物を感じた
彼女の耳に声の主は再び発言した。
『ココデス。シタデスヨ』
エミは首をかしげながら下を見た。
すると、彼女の足元に手のひらサイズの人形がいた。
小さい頃見た映画の事を思い出し彼女は悲鳴を上げる。
「イヤ――!! 出た――!!」
腰までの金の髪とくりっとした青い目の人形は表情も
変えずにエミを見つめていた。
しばらく様子を見ていたのだが、彼女が叫んだまま
なので仕方なく口を開く。
『マスターヲマタセテイマス。イソギナサイ』
「あ、あなた……何なの!?」
『ワタシハエリーザ。マスターニツクッテイタダイタ、
マジュツニンギョウデス。オバケデハアリマセン』
魔術人形というのがどういう物かはエミには分からなかったが、
お化けではないらしいと聞いて若干気分が落ち着いた。
エリーザはぐいぐいと彼女の袖を引っ張る。
エミは彼女に案内されながら廊下を進むのだった――。
やがてエミは広い部屋へとたどり着いた。
研究部屋なのか、廊下よりも訳の分からない物が
かなり置いてある。
エミはごくりと唾を飲み込んだ。
部屋の棚に並べられたかなりの量の試験管。
エミには読めない字で書かれた本ばかりが並ぶ本棚。
テーブルにぶちまけられた本と同じ字が書かれている
書類の山。
そして何よりエミが魅かれたのはクリスタルの中に
入って身動きをしない男だった。
見た事もないほど美しい男である。
病的なほどの白さを誇る女性に憎まれそうなほどの肌、
目は閉じられていてその色が分からないが、その黒い
髪は思わず触りたくなるほどにさらさらしている。
まあ実際にエミが触れたわけではないから見た目
通りの感触かは分からないのだが。
『コノオカタガワタシノマスターデアリ、オマエノ
シショウニナルカモシレナイカタダ。ズガタカイ、
ヒカエオロウ』
(じ、時代劇……!?)
エミは思わず心中で突っ込んだ。
人形の趣味なのか、はたまた主の趣味なのか、
彼女はラジオの番組で流れる時代劇風の言葉を
口にしていた。
エミがぽかんとしている間に、人形は主の元へと
歩み寄っていた。と、人形の額に飾られたエメラルド
みたいな宝石から光が放たれクリスタルに吸い込まれる。
〝お前が私の弟子となる娘か〝
エミはぎょっとして身をすくめた。
慌ててクリスタルを見やるが、男の口は全く
動いていない。
頭の中に直接声が届いているようだった。
〝資質は充分のようだな。エリーザ、案内御苦労。
……娘、名前は?〝
「え、エミリア=レイズ。え、エミ、です」
〝庶民にぴったりの名だな〝
嘲笑するような響きの声にエミはムッとなった。
思わず拳を握ったのを悟られないように笑顔になる。
〝私は訳あってここを動くことが出来ぬ。
自分の意思では指一つ動かせん。娘よ、
我に協力せよ〝
「な、何をすればいいのですか?」
〝我の言葉を復唱せよ娘〝
魔術師は歌のようなエミにはよくわからない言語を
話し始めた。エミは迷いながらも彼に続いて口を開く。
しばらくこの部屋には歌うような調子の綺麗な声
だけが響いていた。
エリーザはそれに聞き入っている。
と――。
〝馬鹿者!!〝と声が叫ぶ。
エミは訳が分からないままそれを聞いていた。
歌のような声が途切れ、その場は一瞬静まり返る。
『ドウヤラマチガエタヨウデスネ』
人形がちらりとエミの方を向く。
目を見開く彼女が状況を判断する前にクリスタルが
いきなり膨張したかと思うや爆発した――。
「けほっけほっ、な、何なの……!?」
「貴様!! なんという事をしてくれた!!」
エミはすすまみれになりながら呻いた。
隣でうずくまっていたローブの男が胸倉を掴みあげる。
美形の男に見つめられ顔を赤くする彼女に彼は怒鳴った。
「貴様のせいで俺は大変な目に遭ったのだぞ!!」
「クリスタルから出られたんだからいいじゃないですか!!」
「この術式は決して間違ってはいけないのだ!!
間違えると……ウアアアアアアアアッ!!」
怒鳴る男の声が悲鳴に変わる。
エミはぎょっとなって彼を見つめた。
『マスター!!』とエリーザが叫ぶ。
一瞬白い煙が男の周囲に巻き起こった。
再びエミは咳き込み呻く。
そして、煙が晴れると、そこにいたのは、さっきの美形の男は
どこにもいなかった。代わりに、そこには目つきの悪い生意気
そうな黒猫がいたのだった。
「ええ~っ!! 何これ!?」
エミの絶叫と黒猫のうめき声がその場に響いた――。
久しぶりのオリジナル作品投稿です。
見てくださっている方、お待たせして
本当にすみません。
他の作品も少しずつ投降していく予定です。