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「待ってよ!ねぇちゃ!早いよ」

丸太の階段を昇った先で姉のミクは妹のミウの呼び声で自分が見ていた、神秘的な光景から目を逸らし、妹の存在を思いだした。

姉のミクは下にいるミウから見たらとても輝いて見えた。 なぜなら、調度山の木々の僅かな間から真っ赤な夕陽の光がミクを後ろから照らしていたからだ。

ミウは眩しさにたまらず、顔の前を手で隠した。手の下から見える姉の足に向かって言った。

「ホントにあったの? 無かったならもう帰ろうよ!ねぇちゃは大丈夫かも知れないけど、ミウはもう足が死んでるよぉ」

ミウは膝に手をついて中腰になっている。確かに息も上がっている様だと感じたミクはもう一度振り返り後の光景を見てからミウの場所まで階段を下った。 軽快に丸太の上を通りながらミウの前まで来て手を差し出した。

「あった!あった! ほら引っ張ってあげるから行こう!すんごいよ」


ミウは姉の興奮した姿に自分も同調して階段の先にある光景を思った。 夕陽の赤にもあいまってか、姉の手は熱く感じられた。 ミクは妹の手をしっかりと掴んではいたがもはや意識は階段の上の景色に捕われており、爛々と瞳を輝かせは妹のペースを無視した勢いで階段を駆け上がった。

階段を上がりきって姉妹の前に登場した光景は神秘的であった。

山の頂上、周りを木で囲われてその中にぽっかり開いた空間に真っ赤な鳥居と小屋の様に小さい神社があった。

姉妹がその光景を目にすると同時に夕陽は沈んで、森は暗闇の手前まで黒を深めた。

しばらく無言で鳥居と神社を眺めていた二人は暗くなったのを感じると、今まで神秘的に感じられた光景が寂しく、それでいて怖く感じる様になった。

「ね、ねぇちゃ?あるのは分かったからまた明日来よう? 今から急いで帰っても多分真っ暗だよ、絶対お母さんに怒られちゃう」

ミウは姉の手を強く握って頼んだが、姉の視線は相変わらず前の光景に捕われていて、口からは「あ〜、うぅん」といった曖昧な返事が漏れるだけだった。

さらに腕に力を入れてミウは姉の視線を自分に向けさせようとするが、姉のミクは捕まれた手を振り払ってミウの両肩を強く掴んだ。

「ミウ!やっぱちょっとだけ見に行って見よう!近くに行って見たらすぐに帰るから、あの赤い鳥居とか触ってみたいし」

ミクの好奇心に満ちた顔でそう言われミウは諦めた。 しかし怒られることが決定している為、ミウは姉に責任を取って貰おうと考えた。

「わかったよ、じゃあ帰ったらミウが怒られないように庇ってね? それに最初からミウは反対してたんだし」


「オッケーオッケー! てゆーかいつも遊んでて怒られる時はアタシだけが怒らてるじゃん、この前のお風呂の時だって……」


ミクは続く言葉を自分で飲み込み「まぁいいや」と行って鳥居に向かって走り出した。 辺りはすっかり暗くなり、鳥の鳴き声が延々と聞こえてくる。山のざわめきに慣れた姉妹はそれを気には留めてない。

ミクは鳥居の前に立って首を限界まで上に上げて見上げた。

鳥居は所々赤い塗料が剥げてはいたが、上の方は綺麗な赤がしっかり残されていた。やはりその赤色にも神秘的な、何かが感じられる。

ミウが後までやって来て姉と同じく首を上にして見上げながら言った。

「うわぁ、凄いなぁ。何でおばあちゃんはこのこと教えてくれなかったのかな」


「なんでだろね、山が危ないからじゃない?丸太の階段とかけっこうヤバかったし」


ミウは「じゃあ帰りの下り危ないじゃん」と呟きながら鳥居から離れて神社の方に行った。

ミクは鳥居に触れたいと思ったが、同時にこの神秘的なモノに触れることが怖いとも思った。 鳥居に手の平をかざしたまま固まってしまう。 手を突き出しては引っ込めるというのを繰り返しては鳥居を見上げて、その神秘的な力を感じていた。


「ねぇちゃ!もう良いでしょ?帰ろうよ」


ミウがミクの肩を後ろから揺すった。反動でかざしていたミクの手の平が鳥居を撫でるように触れた。 ミクは鳥居に魅入っていたが手の平の痛みで鳥居から意識が離れた。

「いったーい、手の平切っちゃったよ」


ミクの手の平から血が垂れていた。調度真ん中から流血しているが周りが暗くて傷口の状態がわからない。 ミクは妹に気を使って痛みを表に出さなかった。

「うそ?大丈夫ねぇちゃ! ミウが揺すったから? ごめんなさいねぇちゃ」

ミクは妹の頭を傷の無い方の手で撫でると「ううん」と言ってからこう続けた。

「たまたま木の破片が飛び出しててそれで切っちゃったんだよ、触りたいって近くに来たのはアタシなんだからミウはなんも悪くないって」


「でもぉ……痛い?早く帰ろうよ」


ミクは流れ出る血を少しでも抑えようとケガした拳を握りしめた。

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